背景、夏。
夏雲はもうすっかり薄れて、どこか遠い空に消えていった。
猛暑とのあの絶妙なコントラストは、一年後、またふわりふわりとやってくる。澄んだ空を豪快に切り裂く飛行機雲は、何よりも爽快だった。
…あの瞬間、空の半分が僕のものになればいいのに。
と思ったことがあった。
みんながわかってくれるかはわからないけれど、
少なくとも僕は、夏の空を見ると体中の力が抜ける。
なんとも言えぬ夏の感動が体中に押し寄せてきて、僕を骨抜きにする。
その感覚がたまらなく好きだ。
日光を乱反射して陰影がくっきりと浮かび上がる遠い雲。
風に揺られて霞が掛かる。絵には描けない青々と澄み渡る空。
何度も描こうと思ったが、本物に勝るものはない。
収めるなら、写真の中が一番だった。
そのどれもが眩しくて、暑かった。けれど、美しかった。
空を眺めているだけで、劈く蝉の鳴き声も、
熱中症になりそうな暑さも気にならなかった。
そんな空が、どこまでも、どこまでも続いている。
猛暑、家の縁側からアイスを咥えて眺める空は格別だ。
風鈴の涼し気な音。それと麦茶で汗をかいたグラスの氷が、
『カラン』と溶ける音が混ざるともっと良い。もっと心にぐっとくる。
夏の音楽の清々しさは、僕の気分を一掃する。
あまりの気分の良さに大声で歌を歌って、母に叱られる。
視覚の刺激に加えて、聴覚の刺激。さらには味覚の刺激。
僕の全てが夏に染まる。それがとんでもないくらい楽しかった。
緑色の田んぼから臭い泥の匂いがしたり、
急に蝉がわめきながら突進してきたり、
近所のお婆ちゃんがふらりと枝豆を持ってきたりする。
その枝豆は売り物以上に美味しい。毎年恒例のお届け物だ。
こういう、自然に触れる時間が長いのが夏だ。
夏休みになれば親戚たちが帰ってくる。
扇風機の前を陣取って他愛もない会話をしたり、
家の庭にプールを広げて水遊びをしたりする。
長期の休みでなければ、なかなか会えない親戚たち。
再開の感動より、とにかく遊んでやるぞという謎の気合の方が大きい。
もちろん、帰ってしまう頃には寂寥感が大きい。
でも、それも夏のせいにしている。
夏以外の季節が嫌いなのかと言われるとそうではない。
自然なんか感じようと思えばどの季節でも感じられる。
学校で習った『枕草子』の中でも夏の句が好きだ。
僕にとって一番、色鮮やかに映る背景が夏だった。
だから…そう。はやく夏が来てほしいということだ。
みんながわかってくれるかわからないというのは、そういうことだ。
そういう気持ちを持って、肌寒い秋を生きている。
〈あとがき〉
初めまして、こんにちは。
ふょうと申します。発音し辛い方はふようでも大丈夫です。
物語を書きたいと思ったのですが、なんせ三日坊主ですので、
夏オンリーで書かせていただきました。
「僕」は夏が大好きな少年です。夏の全部が好きな少年です。
やんちゃかと言われるとそうではありません。
ちょっとニヒリズム的な部分を持ち合わせた冷静な少年です。
彼は今後物語のキャラクターとして登場させるつもりです。
今後もこんな風に週1で書いていくと思います。
よろしくお願いします。