処女航海

僕の三日月が君の水平線に
まだ一度も没したことのなかったとき
僕は人魚に誘われて見知らぬ海に溺れかけた
こんな浅瀬で
泡を吹いて気を失おうとした瞬間
音を立てて星々が水平線に落ち
三日月は夜の静寂に姿をかき消した
帰って!
と人魚姫は叫び
僕は運命を呪った
でも
大きな潮は再びやってきて
それは私のせい 私があなたを拒んでいたからと
君は言った
僕の三日月は
満天の星空にくっきりとその姿を現し
月光に照らされた海の道は
浜辺から星の彼方までさざ波を描いて続いていた
何を煩うこともなく
引力に導かれるように三日月は海の向こうに落ち
地球はぐるりと巡って
僕らは銀河を旅していた
彼方の彼方
時間と空間の尽き果てる場所で
チベットの交合仏は
座位のまま抱き合い
ひとつに溶けて耀いていた

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