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うちの小麦の話

はじめまして。『安部農園』と『女化たけのこ園』をやっています安部と申します。僕は今から15年前、2005年に、縁もゆかりもない土地で第三者継承(=農家の生まれでないものが農家を引き継ぐこと)をして農家になりました。実家はサラリーマン家庭です。

15年前に農家になったときに考えました。『どんな農家になりたいか』と。今でこそ農家生まれではない人が農家になることはそこまで珍しいことではなくなっているようなんですが、当時は珍しいことでした。変人だと思われていた時代だったと思います。だから、『なんでもいいから農家で食べていければ成功』という気持ちもあるにはありましたが、それでも考えてしまいました。『どんな農家になりたいか』と。これからの農業経営がいろいろなやり方がある中で、自分の存在意義のようなものを考えてしまいました。その時に決めたのが『ずっと続けられる農業』です。よくある言葉で言うと『環境にやさしい農業』でしょうか。そのために必要だと思ったのが『小麦を作ること』でした。

農業では、一つの畑で同じものを作り続けると、だんだんきちんとしたものができなくなってきます。例えば一つの畑で、今年キャベツを作って、来年もキャベツを作って、その次の年もキャベツを作ってとやっていくと、だんだん育たなくなって、病気がでて、悪ければ全滅したりするようになります。そこで、それをカバーするために、たくさん化学肥料を使って、たくさん農薬を使ってとなっていきます。今の農業はそういうのが多いです。

ですから畑では、本当は毎年作るものをいろいろと変えた方がいいんです。そうすれば、農薬なんかはとても少なくてすみます。そして、いろいろ作るものを変えて、組み合わせて作っていくやり方をしていく中でも、いい畑を保つ効果が一番すごいのがムギ類です。

小麦を作った後に野菜を作ると、野菜の病気がものすごく減ります。そもそも農薬って昔はなかったものです。それでも畑で野菜はきちんと育っていました。実は昔はどこの農家でも小麦を作っていました。安い小麦が外国から入ってくるようになって、お金を稼ぐために小麦をやめて値段の高い野菜だけを作ることに国策としてどんどん切り替えていきました。そうしたら、病気や害虫がたくさん出てきました。その強力になっていく病気や害虫を防ぐために新しい農薬をどんどん開発し続けました。それが続いているのが今の農業です。

これは、今お金を稼ぐという面から見ると良いのですが、長い目で見ると怖いことです。病原菌も害虫も、どんどん進化して強くなりますから、それに対する農薬を開発し続けます。病害虫の進化と農薬の開発の追いかけっこです。この追いかけっこは、病害虫の方が勝ち始めるたびに農作物に甚大な被害が出ます。万が一、農薬の開発が追い付かなくなったら作物が作れなくなってしまいます。(僕の感覚だとたぶん今の人間とウィルスの関係も同じようなものな気がします。)

それと、農業の問題で、肥料の成分が地下水とかに流出して水を汚染するという問題があるんですが、これが問題になるほど出てきた時期は、農家が小麦づくりをやめた時期とリンクします。

作物を育てるためにあげる肥料のうち、実際に作物が吸える量は半分以下です。残った分は土の中に残って、放っておくとそのうち雨と一緒に地下水に流れ込みます。小麦は冬に育てるので、春から秋の野菜を育てた後に残った肥料を小麦が吸います。そして翌年、小麦を収穫した後に麦わらが残るので、それがまた土に帰って次の野菜の肥料になります。小麦作りは、肥料分を循環させて、無駄と汚染を防ぐことができます。

そういうことを知って、小麦を作らずに農業をやるのは考えられない。なるべく昔に近いような小麦と野菜を組み合わせる農業をやって、将来までしっかりと作物が作れるような農業をやりたいと思ってしまいました(といっても僕は絶対に有機栽培じゃなきゃダメだとか思っているわけではなく、過去の歴史も現代の技術も、いいところを組み合わせて農業の仕組みにすればいいと思っています)。どういう仕組みがいいかはいつもずっと考えつづけていますが、今現在は基本的には小麦、野菜、それと豆科の落花生を組み合わせて畑を運営しています。

ですから僕は、自分のやりたい農業のためには小麦を作る必要があったんです。


ところで、先ほども少し触れましたが小麦を作ってる農家は今はかなり少ないです。今普通に世の中に出回ってる小麦の多くは外国産です。アメリカ、カナダ、オーストラリアが多いです。国産は最近増えてきてやっと15%くらいです。僕はパン向けの小麦を作っているのですが、パン向けに限定するとたしか1~2%だった気がします。国産小麦を使ってる商品って『国産小麦使用!』って大きく書いてありますが、あれは希少だからです。

先ほど言ったように、畑にも良くて希少価値があるなら、農家はみんな小麦を作ればいいと思いませんか?でも普通はやらないです。理由は単純で、儲からない、もっと言うと、食べていけないからです。

小麦の粒の値段をご存じですか?小麦粉ではなく、小麦粉になる前の小麦の粒です。外国産の小麦の粒を製粉会社が買う値段というのは、もちろん変動はありますが、簡単に言うと1㎏50円くらいです。1㎏50円で仕入れた小麦の粒を小麦粉にして商品として売ります。アメリカなどからはるばる運んできて、1㎏50円です。

さて、日本で農家が小麦の粒を1㎏作るのにかかるコストはいくらでしょう。答えは大規模に効率よくやってもだいたい130円くらいかかります。130円で売れたらプラスマイナスゼロです。でも130円では売れません。実際に農家が小麦の粒をいくらで売れるかというと…1㎏10円程度です。コスト130円。売り上げ10円です。

そこで、ここで小麦1㎏に対して120円、農家に国から補助金が出ます。赤字分を補填して、なんとかある程度の国内の小麦の生産を維持しよう。というのが今の日本の小麦作りの状態です。


ちなみに小麦の質とか安全性の話をちょっとします。まず一般の外国産、これは…僕の個人的な意見ですので言葉を選ばずに言うと、食べない方がいいと思います。安い輸入小麦は収穫した後の小麦の粒に農薬をたくさんかけて消毒しています(おそらく)。そうしなければ外国から遠路はるばる船で運んでくる間に虫がわいてしまいます。敏感な人は感じると思いますが、安く出回っている外国産の小麦粉はアレルギーやアトピーの原因です(言い過ぎかもしれませんが…でも小麦が大量に輸入されるようになったのとアトピーが増えたのは時代としてリンクします)。何人ものパン屋さんが肌荒れや体調不良に悩まされています。ただし、日本で流行っているふわふわの食感のパンは基本的にこういう小麦粉じゃないと作れません。逆に言うと、こういう種類の小麦を売るために、もともとパン文化のない国だった日本にふわふわのパンを流行らせました(おそらく)。ちなみにパン屋さんが一念発起して使う小麦を全部国産に変えると、パンはちょっと固めになって、職人さんの肌はきれいになります。

次に一般的な国産の小麦粉。これは基本的に食べて大丈夫だと思います。外国産のように、収穫した後の小麦の粒に薬をかけて消毒するのは、国内では禁止されていたと思います。ただ一つ残念なことは、今の日本の小麦の流通では、農家は作る小麦の品質は問われません。いえ、問われるのですが、その基準は加工しやすいかどうかです。美味しさなどは関係ありません。今の小麦の流通の仕組みで農家が小麦を作って少しでも利益を増やそうとすると、とにかく大量に収穫できることを追い求めることになります。そうするとどうしても、たくさん肥料をあげて、それでも病気が出ないようにたくさん農薬で消毒するやり方になってしまいます。僕も実験としていろいろな栽培方法を試しましたが、たくさん肥料をあげたうえでしっかり消毒すると、とてもたくさん収穫できます。

今のうちの栽培方法は、そういうとにかくたくさん収穫できるようなやり方は封印して、『小麦が健康に育って、農薬で消毒しなくてすむ程度に収穫できる方法』を採用して育てています。


ここからは僕が小麦を売るときの話です。僕のやりたい農業のためには小麦を作ることが必要でした。でも普通にやっても経営としてはよくてプラスマイナスゼロです。僕は大量に資金を持っていて趣味で農業を始めたわけではありません。農業で生活していかなければならない立場です。しかももともとの農家ではないので畑は借りたり買ったりしなければなりません。生活費と子供の教育費を稼ぎながら借入金の返済もあります。どうにかして小麦をお金に変えなければ…という話です。

思いついたやり方はシンプルです。小麦粉にして売ることにしました。近くのパン屋さんに聞いてみると、地元産の小麦粉が手に入るならぜひ使ってみたいということだったので。ですが簡単に小麦粉にはなりませんでした…。

僕が小麦を作り始めた時、パン用小麦の自給率は1%でした。これの意味するところは、日本の小麦の流通や製粉会社の設備は、外国産の小麦を大量にを輸入してきて、それが製粉されて小麦粉になって世の中に出回るというシステムだということです。たとえパン用の小麦の粒だとしても、外国産の小麦と国産の小麦はやっぱり性質が違います。ですから、アメリカ産の小麦で小麦粉を作る製粉工場に僕が作った小麦を持って行ったところで、簡単にうまく商品の小麦粉は作れません。仮にできたとしても、製粉工場は最低ロットが100トンというような量でした。僕が最初に作った小麦の量は…1トンです。話になりません。今は時代が変わって5トンとかでも製粉できるようになっているところがあるらしいのですが。

それで、結局どうしたかというと、自分で石臼を買いました。採算をとる計算はできなかったのですが、どうしてもやりたかったのです。

そうして自分で石臼を買って、自分の小麦を製粉して、食べて初めて知りました。『小麦粉には味がある』と。今まで食べていた売っている小麦粉とは全然違いました。パン屋さんに持っていったら『なんかこれすごいぞ』ということになり、食材にこだわるピザ屋さんに持っていったら、『これすごいな、全部買うよ』と言ってくれました。その道の専門家の人たちが感動してくれました。

そういう中で分かったんですが、実は小麦粉というのは、製粉してすぐは味とか香りがすごく強いものなんです。それがだんだん落ちてきます。1か月くらい経つとあまりなくなります。だから普通に市販されてる小麦粉は、小麦の味はもうしなくなっています。

そこで僕は、注文をもらってから石臼で製粉して、いつでも風味豊かな挽きたて小麦粉を提供する農園として、運営していくことにしました。規模は小さく手間もかかるので、普通の小麦粉よりもずっと価格が高いです。ですのでものすごくたくさん売れるわけではないのですが、徐々に素材にこだわる料理人のやパン職人の方々に使っていただけるようになり、ようやく最近続けていく自信ができてきました。小麦を作ると決めてから15年、紆余曲折を経てきましたが、今この文章を書くにあたって、これまでの出来事や出会えた人達を思い出すと、とてもいい思い出です。楽しい人生です。これからも考えたり変化したりはずっと続けていくと思いますが、どうぞよろしくお願いします。

※この文章に出てくる具体的な数値は正確でない場合があります。また表現の中には科学的な根拠が甘い物もあると思います。専門家の方とそういうことで議論したいわけではなく、一般の方に概念的に僕と小麦のこと説明するために書いた文章ですので、細かいことは気にしないでください。

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ありがとうございます(ニンジン)。
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『安部農園』と『女化たけのこ園』の園主。2005年に新規就農。小麦、落花生、ブロッコリーを主に栽培。敷地内の竹林を『女化たけのこ園』と名付けて運営。ほぼすべての事を『もしこれを農業に置き換えると?』という視点で考えています。農園の情報は安部農園フェイスブックページをご覧ください。
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