イノベーションの大切さ

 トリドールホールディングスの2021年4月~9月期の連結決算は、本業のもうけを示す事業損益が40億円程度の黒字 (前年同期は35億円の赤字) になった。主力の「丸亀製麺」で持ち帰り弁当の販売が好調だ。他の外食大手は集客に苦戦している。新型コロナウィルス下の新たな外食需要を取り込んでおり、株価も上場来高値圏にある。(3年11月10日、日経新聞)
 今年4月から始めた「丸亀うどん弁当」は、なんと1,300万食売れたそうである。外食産業は軒並み苦戦をしている中で、逆風を上手に利用したイノベーションの見事さに驚くばかりである。優秀な経営陣が率いれば、ヨットのように逆風下でも前に進むことが分かる。また、これとは別に中小企業ならではの事例もある。
 エアコンの室外機を支える架台などを製造する従業員約20人の金属加工会社「アイ・エス・シー工業」(神戸市垂水区)が、ベトナム人技能実習生の一言を契機にベトナム食品の輸入に乗り出したところ、全国のベトナム料理店や食料品店から注文が殺到している。
 思いもよらない人気ぶりに、松下俊彦代表取締役(38)は「こんなに需要があるとは思っていなかった」と驚きつつも「製造業の中小企業は技術実習生なしでは成り立たない。母国と変わらぬ食事を提供し、日本経済を支える実習生に気持ちよく仕事をして欲しい」と意気込みを見せる。(3年10月27日、神戸新聞)
 今では近畿を中心に全国各地に500以上の取引先を抱える。売上も本業を上回るまでに成長をしたそうだ。金属加工などの製造業で日本人スタッフが集まりにくくなってベトナム人技術実習生を採用する。そこまではよくある話だ。これとてある種のイノベーションである。しかし、本業をやりながら、食材の輸入までするとは、すばらしい頭の柔らかさではなかろうか。若い社長だけに発想が柔軟なのだろう。
 極めつけはイノベーションによって大きく変身してきた会社の話だ。知る人も多いと思う。
 大正11年に福岡県久留米市の日本足袋がゴムを付けた地下足袋を開発し、近郊の三池炭鉱の労働者から支持された。その後地下足袋の技術を生かして運動靴の生産にも乗り出した。すぐに軌道に乗って海外にも販路を拡げた。その後日本にまだ8万台にも満たない車から、いずれ来るモータリゼーションの時代を予見して車のタイヤに進出した。まだトヨタ自動車が生まれる6年前だというから驚く。それぞれが本業の好調なうちに手掛けている。この会社が現在のブリジストンだ。
 いかがだろうか、不況下でもイノベーションによっていくらでも伸ばすことが出来ることがお分かり頂けたのではないだろうか。私は、企業の成長とイノベーションの数とは正比例をすると考えている。成長をしている企業は、常に大小何らかのイノベーションをしている。その企業体質が身についているように思う。
 一度グラフを作ってみて欲しい。A3用紙を横にして下から4掛の位置に横線を引く。そして下欄を縦に15箱に分ける。それに過去10年、将来5年の年数を表示する。横線より上は売上の推移を記入する。横線より下には、今まで行ってきたイノベーションや経営施策を記入する。
 業績の良い企業は下欄が真っ黒になるだろう。殆ど記入項目のない企業は売上もじり貧になっているのではなかろうか。
 現在の経営成績は過去に行ったイノベーションの結果だと考えれば、分かりやすい。
 ドラッカー教授は経営者に対して、アイデアを正面からとりあげることを自らの職務とすることを説かれた。そして、こうも言われた。
「イノベーション体質を無くするのは簡単だ。全てを否定すれば良い」

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