ミラクルをちょうだい!

 日本の製薬技術は世界最高レベルであると思っていたが、いつまで経ってもコロナに有効なワクチンを開発できずにいる。中国ですら早い段階で実用化をしているというのに。
 そんな中ようやく塩野義製薬が国産初の承認申請を2月25日に行った。非常に朗報である。しかも重症化リスクの有無を問わずに投与でき、使用法の制限が少ない画期的な飲み薬だという。国においても条件付き早期承認制度で迅速な承認をして頂きたいものだ。
 医薬品の国内での販売額を調べると、1位が中外製薬で5,168億円、2位が武田薬品工業で4,935億円、この後に海外の会社や第一三共、大塚製薬等が続き、塩野義製薬は売上高が2,196億円に過ぎない、純利益も710億円と製薬業界では中堅の会社だ。塩野義製薬にとっては新型コロナ治療薬の開発は社運を懸けたプロジェクトである。早期供給に向けて人や費用など社内の経営資源の7~8割を充ててきたそうだ。ただ海外勢に比べると周回遅れの感がある。何故この時期に承認申請をしたのであろうか。
 報道によると、一般的に5年かかるとされる飲み薬の化合物の創出に約9カ月で成功した。しかし21年9月から最終段階の臨床試験(治験)を始めたが、国内感染者の減少により難航し21年内を目標にしていた承認申請はずれ込んだためだそうだ。ただ、証券アナリストによると、今から承認をされ販売が始まったとしても、治療薬は国内だけでなく米国などでも販売できる可能性がある。そのため業績への貢献度は高いと見ている。ファイザー社やメルク社の飲み薬は他の飲み薬との飲み合わせが難しいためだ。また、コロナ創薬技術はウィルスが原因となるガンの予防にも効果が大きいそうだ。
 また、こうした大きな取り組みをするには、採算面や資金面だけではなく、会社を支える社員の使命感がどれだけあるかによっても違う。      
 ここで有名な話がある。アメリカのイーライリリー・アンド・カンパニーの創業にまつわるエピソードである。 
 創業者は薬局を経営していた。ある日小さな女の子が店に来た。「ミラクルをちょうだい!」と言った。聞けばこの子の母親が病気だった。医者が自宅に来ていた。親戚の皆が集められた。もう彼女は助からない。助かるとしたらミラクルしかない。女の子はドア越しに聞いていた。ミラクルを買えば助かるんだと考えた。小遣いを全部持ってミラクルを買いに来た。
 その後この方は製薬会社を立ち上げた。社員は言う。「他所の製薬会社は金儲け、うちは違うと」ミラクル頂戴を聞いたといって入社してくる者が多い。
 このように社員に使命が行き渡っている会社は強い。そしてその実践に向けて日常の仕事を改善し続けている状態が、使命が浸透をしている状態と言えるだろう。この会社は今では、「研究開発こそ企業の魂」という理念のもと、世界各国の自社研究施設や科学的研究機関との提携による最新の研究成果を用いて、各治療領域で最高レベルの豊富なポートフォリオの医薬品を開発している。
 塩野義製薬も同じではなかろうか。おそらく経営資源の7割~8割も充てて創薬するとなると、社員全員が使命感に燃えて一丸とならないと出来ない。
 是非とも成功をして、日本の製薬技術の高さを世界に知らしめて欲しい。
 それにつけても製薬会社がイノベーションをするには、このような社運を懸けた取り組みが必要になる。国としても薬価を下げ製薬会社の体力を奪うばかりではなく、こうした研究開発を支援する仕組みが欲しいものである。

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