小売業がうまくいくかの指標はただ一つ

 不況下で、経営者や指導者は常にどういう考え方を持っているべきかと悩むことが多いのではなかろうか。そんなときは各界の指導者がどういう風に困難を乗り越えて来たかを知りたいものだ。しかも多くの成功した経営者や指導者の、人生を変えたエピソードや座右の銘などが手っ取り早く分かれば、その中からその時々に勇気づけられる言葉に出会うのではないか。そこでうってつけの本を見付けた。
 新聞広告からこの本の存在を知り、さらに先行して発売されたシリーズ本がわずか1年4カ月で35万部も売れていることを知り、その本も含めて連休中に読んだ (致知出版社、一日一話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書、同仕事の教科書)。
 その中から紹介したい方はたくさんいるが、今回はこの方の話を紹介したい。
 成城石井といえば特色のある品揃えで人気のある小売店だが、その社長である大久保恒夫氏の月刊「致知」での対談での話だ。比較的短い文章なれど、ここに経営の要諦があると感じる。
『私がなぜこんなに挨拶、挨拶、と言うのかといえば、ドラッグイレブンで挨拶を徹底した時に、苦情の数が減ったんです。それも半端な数字ではなく、半分くらいに減りました。苦情の種はきっと同じようにあると思うんですが、挨拶をすることでお客様が「あの店感じがいいね」とか「一所懸命やってるね」と思ってくださり、結果的に苦情が減っていくわけです。つまり、好感度が上がってきていることだと思うんです。
 品揃えだの値段だのというよりも、お客様に、あの店が好きだと思ってもらえることが、商売にとって一番重要なことだと思っています。
 ちなみに成城石井の場合は、お客様からの「お褒め」が増えているんです。感じがいいな、と思っても普通は黙っていますから、わざわざ電話を掛けたり、手紙をくださったりしてお褒めをいただけるのはよほどのことだと思うんです。でも、いまの小売業の経営者でそんなことを気にしている人は、すごく少ないと思うんですね。でも売り上げや利益を見るのではなく、お客様に本当に喜んでもらえているのかどうかということをもっと見るべきだと思います。
 経営評論家の人たちは、経費を削減すると利益が出るように見えるらしいですが、私には全くそうは思えません。苦心して経費を削減して、その分、利益が出たとする。でも結局、売り場が乱れたり、働く人のモチベーションが下がったりして売り上げと利益は落ちていくんですよ。
 小売業がうまくいくかどうかの指標はただ一つ。売り場がどれだけお客様に満足されているか。それ以外にありません。売り場がよくなれば、売り上げと利益が上がるというのは、私が何十社もコンサルタントをやって辿り着いた結論なんです。
 その信念を社長に就任してからもやってみたらやっぱりそうだった。成城石井ではいま営業利益率が六パーセントを超えるという不況下では信じられないような数字を出しています。私はそれを目指してきたわけではありませんが、結果としてそうなっていると。
 ただしそのためには、人材教育にかなりの投資をしなければいけませんが。』
 こんな短い文章でありながら、多くの示唆に富む。思いのほか人間は好き嫌いで判断をする、成果指標は利益や売り上げに置くべきではない、人間学が重要だということ等だ。そういえばドラッカーの言葉にもこういうのがあった。「マネジメントとは、科学であると同時に人間学である。客観的な体系であるとともに、信条と経験の体系である」と。人材教育に投資すること、それ以上に社長が人間学を学ぶ自己投資をすることが重要だと感じた。

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