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ブロック崩しに宝くじを混ぜたら化学反応が起きた話

「へえ、あんたもうちに宝くじを買いに来たのかい?好きだねぇ。うちの売り場は連番しか売ってないんだがね。ほら、お求めのくじだ。」

「さあ、あんたのブロック崩しを見せてくれ。」

はじめに

ブロック崩しで宝くじを当てるゲームを作った。

もう少しちゃんと説明すると「ブロック崩しで宝くじを当てて賞金を稼ぎ、増えた所持金を使ってパワーアップするゲーム」となっている。

この作品は1週間でゲームを作るイベントである、Unity1週間ゲームジャム お題「ふえる」に参加して作った。「宝くじを当てて所持金を増やす」という部分でお題に繋がっている。イベントでの最終結果は楽しさ16位、斬新さ2位だった。ありがとうございます。

この記事では、本作「ブロックくじし」の開発において、ブロック崩しに宝くじを混ぜるという一発ギャグみたいな試みを、至極真面目な理屈を基に進めたことについて書いていく。書くほどでもないが一応ネタバレ有り。

ブロック崩しと宝くじについて

ブロック崩しとは、ボールを落とさないようにパドル(バー)を操作して跳ね返しながら、ブロックに当てて消していくゲームである。
ボールを落とさず、いかにブロックを消すか。うまく攻略できるかはプレイヤーの操作次第。ランダム要素が無い、シンプルなシステムで作られている(パワーアップアイテム等でランダム性が生まれることもあるが、ここでは排除して考える)。

一方で宝くじとは、一発当てるとお金がいっぱいもらえる超楽しいギャンブルである。
絵柄が揃っていたり、宝くじに当せん番号と同じ数字があったら見事当せん。おめでとうございます。ランダム要素しかない、とてもシンプルなシステムで作られている。

ブロック崩しと宝くじは全くの別物に見えるが、ランダム性の有無において対照的だ。実力ゲーか運ゲーかの違いとでも言うべきだろう。

本記事では話をシンプルにするために、ランダム性が強いゲームを「運ゲー」ランダム性が無いゲームを「実力ゲー」と呼ぶ。「運ゲー」はプレイヤー自身の手でどうにかできる部分が少なく、「実力ゲー」はプレイヤー自身の手でどうにでもなる、と考えていく。「運も実力のうち」とか言わない。

そういうわけで、運要素を排除したブロック崩しは100%実力ゲー、そして宝くじは100%運ゲーだろう。今回開発したブロックくじしでは、ブロック崩しの実力要素と宝くじの運要素に着目してゲームデザインをした。

あくまでブロック崩し

酸化鉄は酸素というよりは鉄だ。宝くじ化ブロック崩しは宝くじというよりはブロック崩しだ。ブロック崩しに宝くじを混ぜ、化学反応を起こす。出来上がった宝くじ化ブロック崩しは別名ブロックくじしとも言う。

冗談はさておき本作はブロック崩しがベースとなっている。ブロック崩しの要素の一部を宝くじ要素に置き換えたり、宝くじ要素を加えたりしている。

感覚的にはブロック崩しの実力要素と宝くじの運要素が7 : 3くらいで混ざっている。ちょうど酸素原子と鉄原子の質量比と同じくらいだ。基本はブロック崩しのシステムを使い、それを宝くじによって面白くしていこうと試みている。

ブロック崩し + 宝くじ → 攻めのブロック崩し

誰もが思う。宝くじで一発当てたい。当てまくりたい。ならば、運より実力で宝くじが当たるようにしよう。断じてイカサマではない。

本作ではブロック1個1個に抽せん番号が割り当てられる。ブロック1個が宝くじ1枚という感覚だ。ステージごとにランダムな1つの当せん番号が発表され、その番号のブロックを消せば見事当せん。おめでとうございます。

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当せん番号"200"なので、"200"のブロックを消すと1等当せん。下2桁"00"一致なら2等、下1桁"0"一致なら3等。
各ステージは1分経つと次に移るため、「全ブロック消せば必ず1等ゲットだ!!」は時間的に困難。
ちなみにステージ上にある「バー加速」などのコマンドに、バーを重ねて決定すると強化できる。

これは宝くじっぽい。いよいよ一発当てたい。どうすればブロック崩しのシステムで、宝くじをバリバリに当てられるのか?

ブロック崩しのシステムはよくできている。バーでボールを跳ね返す行動は「ブロックを狙う(攻める)」ことと「ボールを落とすのを防ぐ(守る)」という2つの意味を持っている。ただバーを横に動かすだけで、攻めと守りのアクションができる。

おそらく多くのブロック崩しでは、ボールの跳ね返し方次第で反射角を変え、消したいブロックを狙えるだろう。だがそれでは宝くじ絶対当てるパワーが足りない。もっと攻め、もっとブロックを狙う。ボールを「守る」力よりブロックを「攻める」力が欲しい。

そんな問題は極めて単純に解決される。バーが縦にも動けばいい。

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当せん番号"105"のブロックを狙うため、縦に動いて攻めるバー

バーが縦に動くことで、ボールを積極的に跳ね返せる。うまく操れば消したいブロックの懐まで攻め込み、狙い撃てる。当たるはずのなかった宝くじが、当たる。

全ブロックを消してステージクリアするブロック崩しは、最後までボールを落とさないよう「守り」も重要だった。

だが、本作ブロックくじしでは一発当てればいい。制限時間も1分しかない。縦移動により、ボールが近くに来るのを待たずとも、自分から跳ね返しにいけるようになった。「守り」を捨て「攻める」こともできる。実力があるなら、ボールを守りつつ激しく攻めて当せんを狙うこともできる。たとえ最悪の運勢でも、力で1等を勝ち取れる。

宝くじは100%運ゲーだった。それが今や、攻めれば割と当たる。ボールを落とすリスクは上がるが、一発当てるチャンスが増える。みんな宝くじは当てたい。当たると嬉しい。だから攻めたくなる。

ブロック崩しに宝くじを混ぜる、そんな奇妙な実験で起きた化学反応は「攻めのブロック崩し」という遊びを生み出した。

本当に宝くじ、当てたいですか?

なんか良い感じの結論っぽいものが出たが、果たしてそれでいいのだろうか。大事なことが抜けている。ブロック崩しの宝くじに、当てたいと思わせるだけの価値があるのか?

プレイヤーが「このゲームで宝くじを当てたい」と思わなければそもそも始まらない。ブロック崩しの宝くじなんて狙って当てにいけるイカサマ宝くじだ。普通に作ったところで、リアルマネーを賭けて買う宝くじのギャンブルの楽しさに勝てるはずもない。

そういうわけで、システムや演出などでなんとかして宝くじを当てたい気持ちにさせなければならない。

宝くじが当たれば、賞金がもらえて所持金が増える。所持金は、バーの幅を広げたりボールを加速させたり、様々な強化に使える。強化すれば、よりゲームを攻略しやすくなる。つまり、宝くじが当てやすくなる。
これによって、下のような好循環が生まれる。

宝くじが当たる→強化する→もっと宝くじが当たる→もっと強化する→...

宝くじを当てる意義が生まれた。めでたしめでたし。

演出はとにかく派手にした。頭悪い感じの嬉しい派手さを作り上げた。爆発、花火、5000兆円級の派手なテキスト、陽気な効果音、どこからか聞こえる拍手と歓声。

最初に貼ったツイートと同じ。当せんすると派手に褒めてくれる。

自分が1等を当てたことをここまで盛り上げられては、嬉しくない人間などいない。これで宝くじを当てたくなる。めでたしめでたし。

そういうわけで、とにかく宝くじを当てることに価値を与えた。「宝くじを当てたい」とプレイヤーが思うことでやっと「攻めのブロック崩し」が成立する。宝くじを当てるために攻めて、当てて、楽しい。それがこのゲームの遊びの根幹だ。

ゲームの要素に適切に価値を与えてプレイを促進させる、という話だった。

もっと当たるレベルデザインと超展開

本作は3ステージ+最後の特殊な1ステージの全4ステージの構成になっている。基本的にはステージが進むごとに簡単(=当せんを狙いやすい)になっていくようレベルデザインしている。

このゲームはブロック崩しという実力ゲーに、程よく宝くじの運要素が混ざっている。そのためブロック崩しが苦手でも運次第でそれなりに宝くじが当たり、楽しめる。これは程よい運ゲーの良さでもある。だがやはり苦手だと運に振り回されやすいし、できるだけ誰もが1等を当てて良い思いをしてほしい。

そこで、ステージを進めるほど簡単にしていく。序盤では比較的バーやボールを強化しやすい。強化は次のステージに持ち越せるので、進めるほど有利になる。そしてステージが簡単になっていく。重ねていく強化と簡単になっていくステージ、2つの要素によって、宝くじは当たりやすくなっていく。

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上から順に、簡単になっていく。ボールが侵入しやすく、まとめてブロックを消しやすい空間が増えている。これで、狙って1等を当てやすくなる。

ちなみに最終ステージは隕石が降ってくる。壊せばクリア。壊せなければゲームオーバー。

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ぶっちゃけ2秒で思いついたし、隕石落としたかっただけ。
だが、図らずも「攻めのブロック崩し」の最後を飾る要素として良い感じにハマってしまった。仕方ない。みんな、地球を救ってくれ。

ボールを隕石に当ててダメージを与える。隕石は宝くじを破壊しながら迫ってきて、動ける空間が狭まっていく。緊迫した戦い(物理)になっていく。ボールを落とせば、地球は滅ぶ。迷えば、敗れる。

そうして「攻めのブロック崩し」のまま、少し遊びが変わる。ここまでで増やした所持金で強化しまくり、巨大なターゲット相手に攻めまくる。普通に宝くじしていただけなのに、地球のために立ち向かう。これによって、プレイに飽きないようアクセントを付けられたし、最後にプレイヤーに強いインパクトを与えてこのゲームの印象が残りやすくなった。たぶん。

失敗いっぱい

いっぱい書きたくない。少しだけ書く。

・所持金を消費して行った強化が、次のステージに持ち越せることが伝わりにくかった。見た目で伝わるだろうと思っていたが、実際はそうでもなさげで、どこかで明示すべきだった。詰めが甘かった。「稼ぐ→強化→稼ぐ→強化→...」のサイクルを中心に据えているというのにこれは致命的。

・微妙にボールがバーにめり込んだりすり抜けたりすることがある。ブロック崩しとしての信用を失墜させる調整不足。時間をかけても改善すべきだった。時間なかったけど。

・強化コマンドの種類とか配置とか割と雑じゃない?もうちょっとバランス良くできたんじゃない?でも大丈夫。時間がなかったと言えば全て許される。そんなわけないです反省しています。

まとめ

「宝くじでゲーム作れるかなー。ブロック崩しかー。混ぜるかー。あれ、これイケるんじゃね?」と頭の中で化学反応が起きた。そして「攻めのブロック崩し」という遊びが生まれた。

当せん番号のブロックを狙ってバーを縦横無尽に走らせ、積極的にボールを当てにいく。シンプルなブロック崩しとは一味違う面白みを与えられただろう。

また、ブロック崩しが得意であれば、宝くじのランダム性に抗い攻めまくることで退屈しないプレイができる。苦手であっても、運次第で勝ち目のあるプレイができる。おそらく。

何より、ブロックを消すだけでここまで頭悪い感じに褒めてくれるブロック崩しはそうそう無いだろう。

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「ブロック崩し」と「宝くじ」はその単語を聞くと誰もがすぐにイメージできる。だからこそ「ブロック崩しで宝くじをする」という情報は、シンプルながら奇妙な組み合わせが目を引き、「面白そう」だと思ってもらえるかもしれない。実際、多くの人に遊んでもらえた。

中身の方も1週間で作ったゲームとしては、それなりに面白いものにできたと思う。アイデアの第一印象は良くても、ゲームとして面白くしようとすると考慮すべき要素が一気に増える。そうしてアイデアに何らかの問題が見つかることが多々々々ある。今回のアイデアにも懸念点はあったが、それでも面白さを実現できる見込みがあったから作り上げられた。

ぱっと見が面白そうで、実際にゲームとして面白くできる良いアイデアを生み出せてラッキーだった。宝くじに当たったような気分だ。


そういえば宝くじ、買ったことなかった。

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