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コンビニのスプーン。

***この記事は、aba代表の宇井が個人的に書き綴っていたものを加筆修正し転記したものです。***




昨今、いろいろな高齢者グッズが出ている。

我々が開発しているセンサーを活用した機器もあれば、日用品までその種類は様々だ。
福祉機器展なんかに行くと、その多さにびっくりする。

…日用品といえば…見学で訪れたある施設にいらした方を思い出す。


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ご飯を食べるのが大好きなAさん。
なかなか動かない体を、ご飯を食べるときは懸命に動かして食べていました。
まわりの介護職の方も、全て介助することはあえてせず、できるだけAさんに自力で食べていただいていました。
自分のペースで自分の食べたいタイミングで食べられることを、Aさんも本当に喜ばれていました。

ただ…汁物を飲むときなんかは、口周りやデコルテ部分をびしょびしょに濡らしていました。
口に運んだ分の半分くらいしか口には入っておらず、あとは自分自身にかけているような状態でした。

せめてものと、軽くて受け口が大きいコンビニのプラスチックスプーンを渡し、多少マシになっている、といった状況でした。

わたしはちょうどその頃知った、食事中の補助具スプーンについて介護職の方にお話ししました。
補助具を使えば、よりこの方は自力で食べられる。
より食事の時間を楽しんでもらえると思ったのです。

ところが…、介護職の方から返ってきたのは、Aさんの現実でした。

「この方は、年金で細々と暮らし、私たちのサービスを利用している方です。
Aさんには…残念だけれど、わざわざスプーンを買うお金はないのよ…」


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突きつけられた現実だった。
良いものを作れば、みんな買ってくれると思っていた自分が、本当に恥ずかしかった。
必要な人に届くかどうかは、ユーザー側の財政状況含め、たくさんの状況が折り重なって決まるのだと。
「届ける」ことの難しさを痛感した。

今もAさんは、あのコンビニのスプーンで食べているのだろうか。

介護ビジネス…とりわけ介護機器・福祉用具でそういった話を聞くと、Aさんが懸命に味噌汁を頬張る姿をどうしても思い出してしまう。

メーカーとして、「届ける」ということを、日々もっと考えていきたいと再認識した。

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