名物食材がないからこその調理スキル
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名物食材がないからこその調理スキル

 私の店「アシルワード」は、石川県金沢市で営業しているインド・ネパール料理レストラン。日本人店主である私とネパール出身の妻が主にサービスを担い、厨房で腕を振るうのはインド出身の3人のシェフ。

 「インド・ネパール料理レストラン」という肩書きではあるものの、メニューのほとんどはインド料理で、そこにネパールの名物料理も少し加える構成で営業している。この数年、国内では店舗数が増えるにつれて(首都圏を中心に)細分化が進んでいるインド料理の世界だが、そういった流れに逆行して、当店で提供しているのは北インドのオーセンティックな料理が中心だ。

 当店の3人のシェフの出身地であるビハール州は、首都デリーから東に位置し(州都パトナまではおよそ850km)、ガンジス川とその支流による恩恵から土地が肥沃。一方で、海も山林もなく平地が広がる地理特性上、当地を代表する特産物・特産料理などは少なく、それゆえにビハールの人たちは「いかにして美味しく食べるか」に知恵を注ぎ続けてきたと言われている。

 また、ビハール州の大きな一面としてインフラ整備の遅れに起因する経済水準の低さがある。職を求めて州外に出る者が多いことから、そこで計算の立つ調理スキルが料理人の間で長い年月をかけて高まったようで、当店に食事に訪れるインド人のお客様からは「ビハール出身? それなら美味しいはずだ」との声を何度も受けてきた。

 インド料理店は今や日本全国に数多くあるが、ビハール州出身のスタッフを厨房に抱えている店は決して多くない。そんななか、仕事熱心なシェフたちが故郷のスタイルのままに手間暇を惜しまず調理している当店の料理は、インドからのお客様だけでなく、インド料理が広く愛されているイギリス圏をはじめとする世界中のインド料理のファンを魅了し、これまでに数え切れないほどの素晴らしい高評価を頂戴してきた。

 インドの地方都市・片田舎出身のシェフたちが、滋味深い料理で世界各国からの来店客に大きな喜びをもたらせていることは、実直で素朴な彼らの人柄を知る自分にとっても大きな喜び、誇りとなっている。

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金沢市のインド・ネパール料理レストラン『アシルワード』のオーナー。前職は『週刊サッカーダイジェスト』の編集&デザイン業。美味しい食事と楽しいお酒、旅行やスポーツ観戦が趣味。妻はネパール出身。http://www.instagram.com/aashirwad.kanazawa/