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『悪童たちの海』ー除海・新五郎ー(『戦国の教科書』3限目 より)

タイトルだけみれば、ビギナー向けなのかな、と思える1冊

ところが、読んで見事に騙されたことを知る(笑)


玄人をも唸らせる短編が収録された、ガッツリクオリティなアンソロジー本

それが『戦国の教科書』

そのテーマについて書かれた短編集に始まり、テーマ解説があり、テーマを学べる他の本紹介(ブックレビュー)という構成。

日本史(歴史小説)初心者が入るにはやや難しいかもしれないが、元々日本史は飛び込んだらやみつきになるもの。

その魅力を存分に感じ取れるはずだ。

ブログでは、本全体と各短編についての感想記事を更新した。

ただ、短編ごとについては、その感想をもう少し書きたいなあ、という思いから始まったシリーズ記事。

この記事は3限目の短編について。

テーマは海賊

収録作品は『悪童たちの海』(天野純希)だ。

変わり種の一作。
しかし、日本史の急所をつく題材でもある。

陸に居場所を失った一人の武士。
もし、行く宛がないのなら、俺と海に出よう!という誘いから始まる、海の物語。
ここだけ読むと、某海賊王を目指すマンガのようだ(笑)


応仁の乱から始まった混乱の極みの中で、はじかれてしまった人間はたくさんいたのではないか。

だとして、彼らはそのまま、報われぬまま歴史の闇に葬られたとは、思いたくない。

人間には、例え“その場所”でなくても、生きていけるところがあるはずなのだから。

この物語には、悲壮感満載でもおかしくない状況の中、主人公?新五郎たちのアウトローで明るい生き様が、人としての充実感すら漂わせているのが印象的。

戦国時代に限らず、海を題材にした物語は不思議とぼくたちを惹き付ける。
縛られない生き方をしたい、という根源的な欲求を、なぜか海の住人は体現する。
海に囲まれた国のはずなのに、陸に意識が向く日本人の意識を覚醒される魅力を、本作では再確認。

政治が縛っても縛ることのできない海。
一見するとオールフィクションだと思ってしまう展開も、本作に登場する人物が軒並み実在の人物、というのだから驚き。

難しいコンセプトを短編内で“生き様”として昇華させる。
さすが天野さん!



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