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〔掌編小説〕狸寝入りの代償



 なんていい日なんだろう。爽やかで透き通る風が顔の横をすり抜けて、髪の毛を柔らかにくすぐり、広場のベンチに座っている僕は、瞼越しの眩しさにゆっくりと目を開ける。青い空に白い雲。小鳥が羽ばたき、整えられた芝生には小さなスミレが落ちていて、そこで走り回る賑やかな子供の声と、宥める母親の声、罵声をあびせる父親の声がハーモニーを奏でている。泣き叫ぶ声に平手打ちの音が続いて、ぐちゃぐちゃと怒りを浴びせる声がすっきりと晴れた空へエコーとなって響く。そんな家族を睨みながら、老若男女がそそくさと、周囲を通りすぎていく。
 吸いきれないくらいの幸せな空気だ。はたから見つめる世界は、明朗に歪んでいて正しかった。

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