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〔掌編小説〕祈り



 除雪機が壊れてしまった。思わず舌打ちが出る。側面を叩いたりしながら、エンジンの再点火を何度も試みるが、もはや動く気配は無かった。気力も、もう失った。崩れるようにその場で座り込む。
 そもそも、この除雪機も5km先の空き家から引っ張ってきたものだ。それだけの距離を動いただけでも儲け物か。振り続ける灰を雪専用の機械でどうにかしようなど、まず前提に無茶があった。
 そこら中にそびえ立つ、身長を優に超える灰の山を眺めながら、くしゃくしゃのシケモクに火をつける。みんなと同じく、俺もこのまま灰と一緒になるだろう。せめてどこかで、灰の無いあの頃のような世界で、再会できることを祈るばかりだ。
 先ほど何度も叩いた機体を優しく撫でる。薄く積もった灰の下から、赤い塗料が顔を出した。


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