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[第14回]<ウイスキーとCO2> ☆ウイスキーと科学と数字☆

こんばんは、A Whisky Studentでございます。
今回はウイスキーの製造時と(ハイボールによる)消費時について関わりの深い二酸化炭素の危険性について、エビデンスを示しながら書いていきます。
この内容はウイスキーに関連があり直球で科学、数字ですね。

[二酸化炭素とは](※1)
炭素の酸化物の一つで、化学式CO2で表される無機化合物です。
炭素原子は酸素原子二つに挟まれる形で直線的に位置しています。
二つの結合はどちらも二重結合で、等価です。
モル質量は44.01g/mol(平均モル質量28.8g/molである空気よりも重い気体)、常温常圧で無色無臭の気体。
現在の地球環境のCO2濃度は約420ppmで、人類の経済活動等によりおよそ年2ppmづつ上昇していることが確認されています。
動植物の呼吸、微生物による有機物の分解により発生するほか、山火事や化石燃料の消費など有機物の燃焼によっても発生します。
日本では高圧ガス保安法容器保安規則第十条によりボンベ色が緑色と定められています
様々な産業に使用されており、飲料に溶かし込ませ清涼感を付与したり、固体の二酸化炭素ドライアイスを保冷剤として使用したりもします。
酵母の働きでアルコールを得る際に、副産物としてCO2が発生します。
ある程度以上の濃度で呼吸の阻害作用があり、特に高濃度で存在すると比較的苦痛がなく死に至るため、動物の屠殺や安楽死、害虫害獣の駆除にも使用されます。
すなわち人間にも危険性があり、しかもその認識が難しいジャンルということになります。

[二酸化炭素の危険性]
建築物衛生法の CO2の環境衛生管理基準は、1000 ppmと定められています。これは、当該濃度を超えると倦怠感、頭痛、耳鳴り、息苦しさ
等の症状が増加することや、疲労度が著しく上昇することに基づいています。
しかしながら1000ppm未満であれば何の問題もないというものではなく、最近では500~1000ppmの低濃度でも労働生産性が低下することが示唆される研究結果も出てきています。
ですから、例えばある室内のCO2濃度が980ppmだったとして、それを基準内だからOKと二元論的に考えるべきではない可能性があります。
公益社団法人 空気調和・衛生工学会 換気設備委員会・室内空気質小委員会の委員会成果報告書『室内空気質のための必要換気量』の中に、
海外文献からの引用ですがCO2の生体影響という表があり、以下のようにまとめられています。

CO2濃度 影響
 1% 呼吸数(RR)増加(37%)
1.6% 分時換気量(MV)の増加(~100%)
 2% RR 増加(~50%)、脳血流増加
 3% 労働者の運動耐容能力の低下
 5% MV 増加(~200%)、RR 増加(~100%)、めまい、頭痛、混乱、呼吸困難
7.2% RR 増加(~200%)、頭痛、めまい、混乱、呼吸困難
8-10% 重度の頭痛、めまい、混乱、呼吸困難、発汗、視力悪化
10% 激しい呼吸困難に続き、嘔吐、失見当、高血圧、意識消失

以上を少し解説します。ちなみに、%の数値に×10000でppmの数値になります。
1%(=10000ppm)だと呼吸がやや浅くなり、呼吸の回数が約40%増加します。CO2濃度に気を配っている場合には気付ける可能性があります。
1.6%(=16000ppm)だと呼吸が更に浅くなり、呼吸の回数も更に増え、結果的に吸う空気の量が通常時の倍程度まで増えます。CO2濃度に気を配っている場合には気付ける可能性があります。
2%(=20000ppm)だと呼吸が更に浅くなり、呼吸の回数が通常時の1.5倍に増加します。脳の血流が増し、アイアンクローをされているかの如く頭部に圧迫感を感じます。CO2濃度に気を配っている場合には気付けます。
3%(=30000ppm)だとまともに運動できなくなります。CO2濃度に気を配っている場合でも気付けないかもしれません。
5%(=50000ppm)以上は生命維持に影響を与える可能性が高いことが読み取れます。まともな判断能力は残っていなそうなので、CO2濃度に気を配っている場合でも結び付けられない可能性が高いのではないでしょうか。

[ウイスキー製造時との関わりとその危険性]
ウイスキーは蒸溜によって醪(もろみ)のアルコール(エタノール)を濃縮します。
醪のアルコールは、麦芽等の原料穀物に含まれるデンプンが分解されてできた糖を酵母が食べてできたものです。
そのとき、以下の化学反応式のように二酸化炭素ができます。
C6H12O6 → 2C2H5OH + 2CO2
単糖1分子 エタノール2分子  二酸化炭素2分子
180gの単糖 92gのエタノール 88gの二酸化炭素

1Tの麦芽から約400L(315.6kg)のエタノールが出来るため、
その時に生じる二酸化炭素は約302kgということになります。
(ウイスキー産業でSDGsが求められるのもなんとなく納得できますね)
NHKの実験では1mol(=44.01g)のCO2は室温で24.4Lの気体となっていました。
この数値を基に計算すると、1Tの麦芽をウイスキーの仕込みに使用して発生する発酵由来のCO2はおよそ167㎥です。
これはヒトに致死的な影響を与えうるCO2濃度5%で考えると、『天井高さ10m・一辺58mの巨大な部屋』をその濃度に出来るほどの量です。
基準値との比較で考えた場合でも、その巨大な『天井高さ10m・一辺58mの巨大な部屋』だったとしても3.6回/時間以上の換気をしないと1000ppmを超えてしまうこととなります。(毎日1仕込みとして計算)
そのため、ウイスキー蒸溜所では発酵槽から屋外への排気管が伸びていたり、発酵槽が置いてある部屋自体が大きいとか巨大な換気扇があったりします。
なかには発生する二酸化炭素を固定する装置がある蒸溜所もあるそうです。

[ウイスキー消費時との関わりとその危険性]
私はアイラ島を旅した時に、食事にウイスキーを合わせるためにハイボールをオーダーしようとしたら、可哀そうな人を見る目で見られたことがあります。ハイボール大好きなので悲しかったですし、うおお流石アイラ島は硬派だぜ!みたいな感想が湧いてきて嬉しかったという複雑な想い出です。
ウイスキーのストレートはとっても素晴らしいものですが、高いアルコール度数ゆえに食事に合わせるのもまたとっても難しいと感じます。ウイスキーと食事を合わせるときには、アルコール度数を下げた水割りやハイボールが大きく力を発揮します。
ハイボールは炭酸の爽やかさによりから揚げなど脂っこい食事のときに特に活躍するでしょう。
そのハイボールには炭酸水が必要となりますが、炭酸水は水と二酸化炭素が原料です。(炭酸を抜けづらくするため、安定剤的に働く添加物を使用することもあります。私は水と二酸化炭素のみのものが好きです)
近年は炭酸水を家庭で作るソーダサイフォンの類の器具が手に入れ易くなりましたね。ホームセンターや電機店でも売られているところを見かけます。
ただその手のソーダサイフォンは専用のCO2カートリッジがリーズナブルな価格ではないため、ヘビーユーザーのウイスキー愛好家の間でソーダサイフォンに『ビールサーバー等で用いる業務用の5kgCO2緑ボンベ(通称ミドボン)』を繋いで使用する方もいらっしゃるようです。
これが、取り扱いを誤ると実は大変危険であることが認識されないまま使用されることがままあります。
そもそも高圧ガスボンベという危険なものですし、内容物の漏洩は本当に危険です。
漏洩の危険性について数字に基づいて話をしていきますね。
ミドボンの5kgの二酸化炭素がすべて漏れた場合で計算しますと、
5kgの二酸化炭素は約2.77㎥(5000/44.01*24.4=2772.09...)
空気と均一混合してCO2濃度5%とすると55.4㎥、
これは天井高2.5mの部屋なら13畳を超えます。
どういうことかというと、
換気されていない部屋でミドボンが空になる程漏れて均一混合された場合のCO2濃度は、13畳の部屋でも命の危険の可能性がある
ということです。
実際には二酸化炭素は空気より重く均一混合されないでしょうから、ある程度の換気がされていたとしても
『狭い部屋では全量でなくても漏れたらかなり危険』ということです。
漏れたときに、低い位置で深い呼吸をすると更に危険性が増すので、小動物は即座に命の危険があるし、場合によって人間もそうですよね、ということです。
ミドボンユーザーの皆様は閉め忘れ等の漏洩事故に重々気をつけて参りましょう。閉め忘れが発生しないように手順を工夫し、使用後や定時の確認を習慣づけるなどが効果的です。また、警報機や常時換気など、万が一の漏洩のための対策もあった方が良いかもしれません。


☆☆☆☆☆パラメータと参照・引用元☆☆☆☆☆
※1 Wikipedia「二酸化炭素」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8C%E9%85%B8%E5%8C%96%E7%82%AD%E7%B4%A0

※2 国土交通省 気象庁「大気中二酸化炭素濃度の経年変化」
https://www.data.jma.go.jp/ghg/kanshi/ghgp/co2_trend.html#:~:text=%E6%B8%A9%E5%AE%A4%E5%8A%B9%E6%9E%9C%E3%82%AC%E3%82%B9%E4%B8%96%E7%95%8C%E8%B3%87%E6%96%99,50%25%E5%A2%97%E5%8A%A0%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

※3 e-Gov法令検索「容器保安規則(昭和四十一年通商産業省令第五十号)」
https://laws.e-gov.go.jp/law/341M50000400050 

※4 厚生労働省「建築物環境衛生管理基準について」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei10/

※5 公益社団法人 空気調和・衛生工学会 換気設備委員会・室内空気質小委員会の委員会成果報告書『室内空気質のための必要換気量』
https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000771220.pdf

※6 CRISP「DISTILLING YIELD」
https://crispmalt.com/news/distilling-yield/

※7 NHK高校講座「物質量と気体の体積」
https://www.nhk.or.jp/kokokoza/kagakukiso/contents/resume/resume_0000002042.html


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