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思い出す待ち合わせ

先日、彼が職場の人たちと食事に行き、帰りがいつもより遅かった日があった。

その日の私は、仕事のやりとりがどうにもスムーズにいかなくて、少しストレスを溜め込んでいて。

「帰るよ」の彼からのLINEに「迎えに行くよ」と返した。気分転換代わりに少し外に出たかったのだ。


それから、鏡の前でマフラーの巻き方をああでもないこうでもない。帽子をかぶって、少し伸びてきた邪魔くさい前髪の向きをああでもないこうでもない。

彼が最寄り駅に着くまでの時間は短く、慌てて、わっちゃわっちゃとやっていた。

毎日いっしょに暮らしていて、よだれのたれた顔や寝癖でボサボサのひどい髪を見られていても、こういうときはしっかりちゃっかり可愛いを模索していく。

彼に可愛いと思われたいのだ。


そして、急いで駅へと向かう途中、「こんな遅くて暗い時間に一人で外に出るのは久しぶりだな」と、少し怖くなり。

でも、そのすぐに「駅にこうして迎えに行くのなんて、まだ一緒に住み始める前、彼が私のところまで遊びに来てくれていたときみたい」と思い出し、少しほっこりにやにや。

とはいえ、ザッザッという足音は、暗闇の中だとよく響いて、やっぱり少し心がざわざわする。


ざわざわを「怖くない何もない」となだめながら、やっと着いた駅前。
「着いたよ」とLINEを送れば、駅のホームからにゅっと彼のシルエットが現れた。

そのひょろっと長いシルエットに向かって笑顔で軽く手を振れば、彼が「かわいい」の一言をくれる。

(可愛く見えるように頑張りましたから!)と内心にやにやしながら、「ありがとう」を返した。


それから、手をつないで歩く帰り道。

私は迎えに行く間、彼は待っている間、昔を思い出していたことを二人で共有しあったのだ。

暗闇の中、よく響く声と足音は、少しくすぐったく、心地よかった。

猫カフェ代、もしくはカラオケ代となり、私に癒しが提供されるボタンです。