グノーシス 古代キリスト教の〈異端思想〉

 グノーシスって知ってますか?私は知りません。知らないので本を読みました。
 宗教学の本を読んでると、よく「グノーシス的」とか「グノーシスのような」とか言う文脈によくぶち当たるんですけど、どれも、みなさんご存知!みたいな感じで特に詳しく解説してくれてないんです。
 私が読んだのは講談社選書メチエから出ている『グノーシス』(著:筒井賢治)です。今まで日本ではグノーシスについて一般向けに書かれた本がなかったそうで、2004年に出たこの本が最初の一冊だとあとがきに書いてありました。

 とてもわかり易い言葉で書いてあって、ズブのド素人である私にもよくわかる解説でした。ただ…その…構成がですね……ちょっとなんていうか……もう少しいい方法あったんじゃないか……?という印象です。
 まず冒頭で「グノーシス主義とよばれる考え方は古今東西あちこちにあって、全体を見渡して書くには広大すぎる思想なので、この本では歴史上最初に出てくるキリスト教グノーシスに注目して書いていくぜ」(意訳)という説明があり、その後にキリスト教グノーシスが起こった2世紀という時代背景について解説があります。ここまではいい。めちゃわかりやすい。

 でもさあ!そこからずっと具体例の解説フェイズに入っちゃってさあ!グノーシス主義の全体像がざっくり紹介されるのが、本文7割近く読み終わったあとって、いくらなんでも遅すぎないかな!?!?!??もうちょっと早く、たとえば時代背景の解説直後くらいにさらっと触れられないもんかな!?!?!!!??どうかなあ!!!!?????
 心折れそうになりながらも最後まで読んで、でも最後まで読めば全体像も具体例もちゃんと分かるので(哲学とか宗教の解説書って最後まで読んでも全然意味わかんないこと結構あるよね♥)とても勉強になりました。

 以下、未来の自分への備忘録としてこの本を読んで私が理解したグノーシスについて、ざっくりまとめて書きます。重ねてお断りしますけども、あくまでズブのド素人による理解なので、正確なところが知りたければ、学生は先生に質問しに行くべきだし、社会人のみんなはてめーの金で買っててめーで読んでみてね! 


グノーシス主義の要約

1.反宇宙的二元論
 至高神ていう最高の神様がいて、そこからいっぱい神様が派生して、その中の出来損ないの神がつくった世界がこの世。この世はクソ。この世を作った創造神(=ユダヤ教の神)もクソ。

2.人間の内部に「神的火花」「本来的自己」が存在するという確信
 創造神もこの世もクソだけど、人間の内部には実は至高神に由来するキラキラ成分がちょっとだけ入ってる。でも人間もクソだからみんなそのことは知らない。

3.人間に自己の本質を認識させる救済啓示者の存在
 至高神の使いが人間に「おまえ実はキラキラ成分持ってるよ」的な啓示をくれる。啓示を受けた人間の魂だけが至高神の元に行ける。肉体は滅びちゃうけど、クソ創造神が作ったやつだから全然問題ない。

 キリスト教グノーシス主義が生まれたのは2世紀のローマで、五賢帝の時代であり、戦争のない平和な時代だった。教会による教理の圧もなく安定した社会の中、知的・哲学的志向の強いキリスト教徒が、グノーシス主義を推し進めた。
 物質的なこの世を否定する考え方ではあるが、グノーシス派が集団自殺を遂げたというような話はまったく伝わっていない。グノーシス主義とは、ギリシア哲学や二元論的な世界観を取り入れながらキリスト教の教えを極めようとした、知的な運動だった。

 至高神という上位概念の登場は、「超越的な能力を持つはずの神が、じきじきにこの世界に介入するのは神の威厳にふさわしくない」という知恵文学に影響を受けているとも言われる。(確かに旧約聖書で描写されるヤハウェは、偉大な唯一神だっていう割に人間世界にこまめに手を出しすぎである。短気な世話焼きママ感すらある。)
 「至高神がこの世界と接点を持ったのは最初のたった一度きり、種をひとつ置いたその瞬間のみで、世界はすべてその後その種から出来上がった」というバシレイデースの考え方は、世界の卵という哲学思想とも類似している。マルキオンに至っては「なんにも関係ないのに助けてくれる行為こそがマジモンの愛」だとして、至高神と人間との関係を完全に否定した。

 イエス・キリストは、キリスト教グノーシス主義の中では、至高神からの使いとみなされる。物質的なものを否定する流れから、キリストの人間性も否定される傾向にあり、「イエスが人間であった」「イエスに身体があった」「イエスは受難した」という言い伝えは間違いであるとする。このようなイエスの人間性を否定する考え方を仮現論と言う。グノーシス主義は一般的に仮現論を採用する。(対するのが養子論であり、キリストはもともと人間だったけど神の養子になったという考え方。)
 グノーシス主義における救済は、至高神に由来する自分の中のキラキラ成分を認識(グノーシス)して、至高神のもとに帰還することで達成される。自らの神的な本質を認識することが救済の条件である。キリストは、認識の手助けをしてくれる仲介人という立場で捉えられる。

 至高神という存在を成り立たせるために多数の神様が出てくる神話を作ったり、旧約聖書の神を否定したり、キリスト教と言いながらもグノーシス主義の内容はそれまでの正統多数派教会とは相容れない考え方だった。
 正統多数派教会はグノーシス主義を否定する過程で理論武装が進み、新約聖書の成立につながっていく。



 という感じでここまでまとめながら、推しを褒める手段としてよそをけなす以外の文法を持たないやっかいなオタク像が浮かびました。いるよな!!ほんとこういうやっかいなオタクいるよな!!しかも最終的に推しそのものまでけなしはじめて、「推しをけなせる一歩進んだ俺カッケー」みたいなスタンスになるめんどくせえオタクな!!いるよな!!!!

 あとこの本ね、原始キリスト教の説明とか結構「専門書にゆずる」みたいな感じでいいとこではしょったりするんだけど、巻末の参考文献リストに原始キリスト教のオススメ本載ってなくない…?
 原始キリスト教の本まじで読みてえんだけど……初期教会のやつとか……なんか新書で出てねえかなって思って数ヶ月探してんだけど……これ!ってやつ見つかんねー……。
 どなたかご存知だったら教えてください。中世以降の教会史はいまんとこいらないです。よろしくおねがいします。







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