【文士のたしなみvol.1】まずは自分自身を知ること

「どうすればシナリオが書けるようになりますか?」

と、相談されることがあります。この質問がくると、毎度おなじ展開を思い浮かべてしまうんです――

Aさん 「どうすればシナリオが書けるようになりますか?」

ミサワ 「シナリオを書いてみたことはありますか?」

Aさん 「ないです」

――と、こんな感じ。

シナリオを書きたいという思いがある。それだけで、Aさんには何かを生み出す力があるというのに……! 残念ながら、何かを生み出すことは、Aさんにはできません。なぜかというと――

この手の相談をしてくる人に多いのですが、Aさんはやりたいと思っているにもかかわらず、やらないタイプなんです。石橋を叩かずに勢いだけで渡るタイプの私には、理解できません。シナリオを書いたことのない人が、シナリオを書けるようになるわけがないですから。

なので、私はAさんに「まずは書いてみよう」と言います。これに対して「じゃあ書いてみます」という返事があったなら、この相談はおしまい。
あとは、Aさんのことを応援するのみです!

でも、ここで終わらないケースが多いんですよね。例えば――

ミサワ 「それじゃあ、まず書いてみたら?」

Aさん 「でも、何を書けばいいかわからないんです……」

ミサワ 「自分が書きたいものを書けばいいんです。どんなシナリオが書きたいですか?」

Aさん 「え~なんだろう? ミステリーとか……?」

ミサワ 「どんなミステリー?」

Aさん 「え~なんだろう? う~ん……う~ん……う~ん…………………………」

――と、こんな感じ。

シナリオを書きたいという思いがある。それだけで、Aさんには何かを生み出す力があるというのに……! 残念ながら、何かを生み出すことは、Aさんにはできません。なぜかというと――

Aさんの中に描きたいものがないんです。というより、描きたいものを見つけられずにいるんですよね。

これじゃあ、「まずは書いてみよう」と言われても、シナリオを書き始めるのは難しいですよね。

そもそも、ものづくりの世界にはふたつのタイプの人間がいるんです。

(ものづくりの世界にいれば、誰でも一度はこの類の話を聞くと思いますが……)

ひとつ目は、0を1にするタイプ。このタイプの人は、書いて字のごとく、何もないところから何かを生み出します。「何を描くべきか」というアイディアが常に自分の中にあって、それを(シナリオライターであれば)作家性というカタチで表現できる人です。

ふたつ目は、1を2以上にするタイプ。このタイプの人は、生み出された何かを磨き上げて、その魅力を何倍にも引き上げることができます。中には1あるものを10にも、100にも、それ以上にもする猛者がいます。

何かを生み出すことができる人というのは、「何を描くべきか」というアイディアを常に持っている人です。それだけではなく、そのアイディアを「作家性」というカタチで表現できる人です。

とはいえ、何もしなければアイディアを得ることはできません。
アイディアを得られなければ、カタチにすることもできません。

描くべきアイディアを得るためには、そして、得られたアイディアをカタチにするためには――

自分自身を知ることです!!

日々のあらゆるシーンで、自分の中に生まれる感情や考え方と向き合ってみると、自分自身を知ることができます。

話題の映画を観た感想は?

自分にとって家族はどんな存在?

雲ひとつない晴れ空に何を想う?

小さなことから、大きなことまで、なんでもいいのですが、自分の中に生まれる考えや思いと向き合うと、自分というフィルターを通すことでしか知ることのできない世界の見え方、モノの捉え方、考え方を知ることができます。そういったものが「何を描くべきか」というアイディアになったり、アイディアを得るためのヒントになったりするんです。

これを繰り返していくと――つまり、自分というフィルターを通せば通すほど、自分自身を知ることができます。

ただ、これ、かなりの時間を必要とします……!

私も作品づくりのために自分と向き合うようにしていますが、未だに自分のすべてを理解できません。いや、わからないことだらけです……!!!

自分と向き合うというのは、家族や恋人、友人と向き合うよりもはるかに厄介で努力が必要です。

でも、自分と向き合って、自分の世界観を知ることで、生み出せるものがあるのは事実です。それを誰かに届けることができると思うと、シナリオライターとして本望だな~と私は思います。

Aさんがクリアしなければならない課題はたくさんあります。その中でいちばん厄介な課題が自分自身を知ることです。

でも、Aさんのように「シナリオを書きたい」という思いがあれば大丈夫です。その思いが強ければ、どんなに厄介な課題だろうと全部クリアして、シナリオというカタチで何かを生み出せるようになりますから。

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