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DXが「災害に強い」地方を作る

先週の1月17日は1995年の阪神淡路大震災から28年目となる日でした。大阪で暮らしていた筆者は大学生の時にこの震災を経験しています。2021年には東日本大震災が起こり、現地での写真修復ボランティア活動や、復興に向けたITハッカソンに参加・取材を行ったりもしています。

2つの震災とその後の復興の歩みを比較して大きく異なるのは、やはりインターネットの存在です。95年の震災直後にわたしは神戸に向かいましたが、iモードの開始が99年ですから停電するなか移動しながらの情報入手の手段は携帯ラジオしかありませんでした。そのラジオからは行方が分からない人の名前をアナウンサーが読み上げている音声が延々と流れ続けていました。当時のラジオ局の記録を見ると、停電で気象台や県庁とも電話が繋がらない中、奇跡的に使う事ができた僅かな回線で、聴取者から寄せられた安否情報を中心に読み上げるしか無かったことが分かります。

情報が命を救う

阪神淡路大震災では長田区などで大火災が発生し、消防車も現場に辿り着けないまま、多くの人が倒壊した家屋に下敷きとなったまま亡くなりました。当時の映像を見ると、呆然と火災を遠くから見守るしか無かった人々の様子が残されています。もし、その時SNSなどで現場の情報が共有されていれば、何とか生き埋めになった人を助け出そうと、協力する動きが起こっていたかも知れません。

東日本大震災ではTwitterで救助を求める声が届けられたり、避難所で足りない支援物資をAmazonの欲しいものリストに登録して、購入を呼びかける動きも拡がりました。もちろん、デマや誤情報、既に解決した投稿がずっとユーザーのタイムラインの上位に残り続けてしまうなど、幾つかの課題は残されていますが、95年との違いは歴然です。

核戦争のような通信網の寸断・混乱の中でも通信を維持することを目的に生まれたインターネットは、もともと災害に強い情報インフラです。毎年のように甚大な災害が起こるようになった日本、特にマスメディアの災害報道の中では埋没しがちな地方においては普段から活用しておくべきインフラだと感じています。しかしながら、現場を見ると非常時はもちろん、平時においてもまだまだ心許ない、というのが残念ながら現実です。

避難訓練に「情報収拾・伝達訓練」を

皆さんの勤務先、学校などでも行われているであろう避難訓練ですが、だいたい以下のような流れではないでしょうか? 

  1. 放送で地震などの災害がおこったことが告げられる。

  2. 部署やフロア毎に屋外への避難誘導が行われる。

  3. 広場などに集合・点呼・災害への心構えなどのお話を聞いて終了。

消防署の担当者の立ち会いがあれば、その後消火器や救命装置の使い方の指導などもあるかも知れません。しかし、個人的にはこのようなスタイルの訓練はとても「不安」を覚えます。東日本大震災の直後校庭に集合したあと、先生方の情報収集・伝達に課題があり、押し寄せた津波で多くの子どもたちが亡くなった大川小学校のことを思い出すからです。

筆者も震災後、現地を訪れています。屋上まで瓦礫が積みあがった校舎、「もしあそこに登っていれば」と指摘される裏山も見ましたが、雪が残る急勾配を果たして小さな子どもたちがどれだけの高さまで登れたかどうか……。校庭に集合したのち、約40分ほど保護者が迎えに来られない100名以上の児童を、どこに避難させるか話し合いが続き、ようやく移動を始めたところに津波が襲ったとされています。

大川小学校に限らず、一時避難先と自治体役場・消防署と連絡体制が確立していれば、危険が迫っていることを知り、直ぐに避難できた場所は少なく無いはずです。ぜひ平時の避難訓練には集合後、災害の状況確認を地域拠点と取るフローを加えておいて欲しいと考えています。もちろん、一度に地域拠点に電話が殺到しては拙いですし、非常時には音声回線が混雑して使えない可能性が高いので、情報登録を行うWebページ・LINEなどを用いることは言うまでもありません。

平時からのオンライン活用(DX)が非常時に活きる

いずれまた日本のどこかで大地震のような災害が起こることは避けられません。その際には、単に「情報インフラとしてのインターネットの有無」を超えた次の段階、つまりそれを効果的に活用できるか問われることになります。衛星を用いたインターネット通信で、世界中に現地の様子を発信しているウクライナが大きな支持・支援を獲得しているのはとても象徴的な事例と言えるはずです。

地方における災害対策を見ると、上記のようなオーソドックスな避難訓練と、啓蒙活動、災害備蓄に留まっている例が少なくありません。しかしながら、災害時に都市部よりもさらに「自助」を求められる地方においてこそ、インターネットを用いた情報発信・伝達の巧拙で明暗が分かれます。そしてそれは災害が起こってから慌てて活用を始めるようなものではあってはならず、普段からあらゆる世代を巻き込んだオンラインコミュニティが動いていてこそはじめて活かせるものになるのです。

※この記事は日経媒体で配信するニュースをキュレーションするCOMEMOキーオピニオンリーダー(KOL)契約のもと寄稿しており日経各誌の記事も紹介します。詳しくはこちらをご参照ください。
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