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日記(穏やか)


僕の今の生活は10日に1回、休日を貰えてこの日は外出が許される。
こんな状況だし、僕は今数人の高齢者と一緒に生活してるから人の多いところに行くのはさすがに気が引ける。

だけどせっかくの休日、部屋に篭りっぱなしなのはさすがに嫌なので無理矢理用事を作って外へ出ることにした。

墨汁、日用品を買うのと手紙を出しに郵便局へ。
好きな音楽を聴いて、川沿いを散歩するだけでも充分だ。

友人、家族にもなかなか会えない現状、却って今まであまりした事がなかった手紙やプレゼントを送る機会が増えた。

相手のことを思い浮かべながら便箋や包装、プレゼントを考えている時間が好きだ。
相手な好みを思い出したり、どんなものなら喜んでくれるかを考えていると思い出に浸れて、少し会えたような感覚にもなれる。

モネの絵画の切手があったので授業の課題で一緒に展覧会を見に行ったことを思い出しながらその切手セットを購入した。


その後、墨汁をスーパー(徒歩30分)買いに行こうと思ったけど途中で個人経営の小さい文具店があったからそこで購入。
そして、その隣に古臭い下町中華屋があったからお昼時だったのもあり入店。

中はカウンターと小さいテーブル席1つ。壁には阪神タイガースの旗がかかってて、自分が今地元から遠く離れて、兵庫県にいることを思い出す。
テレビではよく分からんサスペンスが流れてた。

初めて入った店なのに、何故か懐かしい気持ちになる。


11時でオープンしたばかりのはずなのにもう常連らしいおじさんが2人カウンターに座ってた。
1人はビールとトンカツ、1人は中華丼をそれぞれ楽しんでいた。

僕は迷った結果、レバニラ定食を注文。レバーがまだ解凍できてないらしく肉ニラ定食になった。
注文が来るまでの間、店内を見回してみる。
整髪料でしっかり髪をかき上げ、髭を蓄えた少し強面のおじさんが一人で切り盛りしてるらしい。
店内は年季を感じるけどしっかり掃除されているし、使ったものはすぐに元の場所に戻すし真面目な人なんだろうなと思った。


カウンターに並べられてるいろんな色の液体、粉の調味料をおたまで鍋に入れながら素早く鍋を振る。
肉と野菜とが絡み合っていくのが音と香りで伝わってくる。
完全にルーティン化してて、長年の功を感じた。
店内にはカッカッと鍋を振る軽快な音と、使えなさそうな助手が女警察官に怒られる、茶番の声だけが流れる。心地良い時間だった。

少し心地よさに浸っている間に定食の完成。
めちゃくちゃ美味いってわけではないけど、それで良かった。付け合わせに大量の自家製漬物、中華スープじゃなくて味噌汁なのも嬉しい。


食べ始めたと同時に別の常連さんが入店。いつもの挨拶を交わした後、レモンハイと揚げそばを迷わず注文。
きっとこれがおじさんの優勝の仕方なんだろう。

すぐに店主はレモンハイと冷奴を突き出す。
この店は酒を頼むと冷奴がセットらしい。なんと良心的。



肉と油と化学調味料の味で口いっぱいにしてる時、店主はまだ料理をしていた。

そして、炒める合間で裏に行っては弁当箱を取ってきた。
もう一度店内を見ると、手書きで「テークアウトやってます」の張り紙、入り口脇にはおそらく大して使われてない体温計とアルコール除菌。
店に入ると長年変わらない空気がある、なんて感じてたけどそうか。
この店主も時代に合わせて、店を守るために努力してるんだよな。
そしてそれは無意識に一つずつ席を空けて座り、黙々と食事をするおじさんたちもきっと同じ。

そんな事を感じて何故か少し嬉しくなった。



帰り際、会計を済ませると「おおきに、またきてや」と意外にも明るく挨拶してくれた。

ここの店はトンカツが看板メニューらしい。
中華屋なのに。
次はボクもおじさんにならってビールとトンカツでいってみようと思う。

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