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夏が終わるから家族にまつわる不思議な話をしておく

夏が、終わる。

もしかしたらとっくに終わっているのかも知れないが、とにかく夏、終わる。

今年の夏は、とうとう男の人と手を繋がなかった。

柔らかくて大きくて、親指の爪がほんの少し潰れて大きい。

男というのは、ほんとうに、変な手をしていると思う。

いつかの夏、カメラのシャッターボタンを押す時に、クリームコロネみたいな形になる太った手の男がいて、私は、その人のことが静かに好きだった。

その手は、愛おしく温かかったはずだけれど、その感触も、とうに忘れた。

夏といえば、怪談話があちこちで行われる。

だから私も、秋が来る前に、少し不思議な話を吐き出してしまおうと思う。

私には、あまり怖くないけれど、家族にまつわる不思議な怪談話がある。

断っておくけれど、心霊や怪奇現象、超常現象、宗教、その他の類には興味がない。

アイドルをやっていた時、周囲に「私、見えるんだ……」という女性は何人かいたけれど(芸能界いがち)、「それはそれは、いいぐあいに世間と折り合いがつくといいですね」というスタンスでいた。

それに、現にそういう現象があったとて、心霊スポットで「おばけ」を見たり感じる人がいるのだとすれば、亡くなった人間が落としていった残留思念が人々に見え隠れしても、なにもおかしいことではないと思う。

だって、それだけ、人間の思念は濃いものでしょうよ。

だから、私はあえて「怖い思い」をしたいために廃墟などに行くことに反対するし、"おばけ"は、そっとしておけばいいと思っている。

そういうスタンスをとっていることもあり、だから、もしこの記事を読んでアナタが私を、「気が狂ってる」と思っても、その気持ちはそっとゴミ箱へ捨ててもらいましょうか。

それだけお約束してもらって、じゃあ、話します。

2つある。

1つは、亡くなった祖父の話。

私が学生の頃に、大好きだった母方の祖父が亡くなった。

生前、立派な職業に就き3人の子供を育てあげ、趣味の俳句に生きた祖父は大往生で、最後も立派な顔で亡くなった。

「オジイ、もしいつか死んじゃったらさ、絶対に夢に出てきてね?約束」

とくに仲の良かった私と祖父は、子供の頃からそういう約束して指切りをしていた。

そして、とうとう、その日は来てしまった。

ある夕方、病室で、危篤状態だった祖父の心拍計が止んだのである。

覚悟を決めていた我々家族は、毅然と受け入れ、病室で祖父が好きだった『知床岬』を3番目までしっかりと歌い上げて取り急ぎの別れを図った。

どんな時も気合いと陽気さで乗り切る、我が家の女達らしい餞別だった。

そして、通夜と葬式に向けて準備が始まった。

あれは、たしか祖父が亡くなり7日間もしないタイミングだったと思う。

母の横で眠る私は、夢を見た。

朝の光が美しいどこかの浜辺。

かけっこしながらはしゃぐ、祖父以外の生きている家族の姿。

無論、私もその中にいる。

横にはプロペラ付きの小型操縦機があり、姉がその飛行機に乗ってみようと言い出す。

家族は、すぐさまプロペラ機に乗って、海上を旋回した。

しばらく海風を浴び気持ちの良いフライトを続けたが、間もなくヒューンっと、力が抜けたように機体は海面に向けて垂直突進を始めた。

「まずい、このままだと激突する」

強く瞳を閉じて、溺れることを覚悟した。

だが、その矢先、機体は海面の透明な膜を突き破り、大きな大きな満月の美しい別世界へと着陸した。

そこが、先ほどまでいた「生の世界」となんとなく違うことは肌で感じていた。

プロペラ機から降りると、家族は散歩に出かけてしまった。

そして、ひとり浜辺に残った私の前に、生前の少し若い頃の祖父が、パリッとしたシャツを着て嬉しそうに現れた。

まるで、いたずらっ子のような表情を浮かべて。

私は、その姿を見れただけで、涙が出そうになったけれど、

「オジイ、約束果たしてくれてありがとう」

とだけ一言、伝えた。彼は、

「今まで本当に楽しかった」

と言い、これまでに見たことがないような満ち足りた顔をしていた。

私は、その姿から、「祖父が人生を振り返り、自分の死を受け入れている」ことを感じた。

だから、無理にこちらの世界に引き戻そうとも思わなかった。

あぁ、そうか。この世でもあの世でもない、妙な隙間で、今は一瞬会えているんだ。

そんな風にごく普通に、スピリチュアルでもなんでもなく、悟った。

そして、しばらくポツリポツリと会話を交わした後、次に私が今まで一度も会ったことのない、白髪メガネの見知らぬ男性が、祖父の横に現れた。

祖父と彼は、親しく話している。私が、

「オジイ、その人だれ?」

と聞いても、祖父は笑って答えない。「内緒」とでも言いた気だった。

現れた男性はやはり優しそうな瞳を私に向けてくれたが、素性は、とくに答えなかった。

やがて2人は、

「そろそろ行くからね」

と言いながら、月光に照らされて、美しい浜辺を去っていった。

その背中を見ながら、私は、ただボーッとしていた。

翌朝、起きてから母に一連の話をした。

そして、私は、祖父の隣に居た見知らぬ男性の似顔絵を書いて見せた。

母は、「えっ」と驚いた声を出してから一言、

「おじいちゃんね、ずいぶん前に弟さんを亡くしてるの。Mさんって言うんだけど。2人は異母兄弟だったんだけど、とても仲が良かったみたい。この似顔絵は、その弟さんにそっくりだわ」

と言った。

母は私たちには、祖父に弟さんがいたことを、これまで打ち明けたことがなかった。

なにか事情があったわけではなく、すでに亡くなっており我々の生活には関与していない人物だったため、説明する機会がなかっただけのようだ。

だから私は、その時初めて、祖父に弟がいた事を知った。

私が、あの浜辺で会った見知らぬ男の人は、祖父の弟だったようだ。

生きている時は、会ったことすら、なかったのに。

そして、もしその”読み”があたっているのならば、あの夜、亡くなった兄弟はたしかに再会できていたのだ。

母に、「オジイは幸せそうだった。なんか、あっちの世界で、そのMさんという人に会ってたよ」というと、母は、静かに泣いていた。

あの夜、どこかの座標軸がパッカーンと私に向けて開かれ、亡くなった祖父とその弟さんに、束の間、出会ってしまったのだとしたら、私は。

まあ、わかんないですけど。そして、だからといって、なにかが始まり、なにかが終わるわけでもないんですけど。

もうずっと、この不思議な話は、なんだったんだろうと思っておりました。

だから、連休中の中日深夜に書きますよ。

ただの夢にしちゃあ、なにもかも出来すぎてるもので。

相変わらず、日々、生きることに精一杯ですけれどね。

長くなったので、2つめの話は、また今度。

今日のところは、さようなら。













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