㊙展に行ってきた
この展示を眺めていて考えたことがある。デザインに「失敗」というものはあるのだろうか。
東京赤坂、21_21 DESIGN SIGHTで開催中の㊙展に行ってきた。日本デザインコミッティーに所属する、世代もジャンルも様々なデザイナーたちのスケッチや模型を集め、そのデザインの思想や経緯に迫ろうというものだ。
名だたるデザイナーたちが刻んだ仕事と、その完成に至るまでに積み重ねられたスケッチやノートが、横一線にずらっと並べられている。それだけで見る人が見れば垂涎ものだろう。中にはもちろん我々が普段何気なく触れまくっているものも少なくなく、そのプロトタイプに触れられる希少な機会でもあった。
そんな数々を見ていて思ったのが、冒頭のことだった。
例えば我々になじみ深いバンダイのロゴ。多くの企業や商品のロゴデザインを手がける松永真氏のコーナーには、その思索の一端にあたるであろうスケッチがあったのだが、なるほど今あるバンダイのそれと比べて、こちらは少々……と思いかけてはたと止まった。今私がそう思ったのは、本当にこのデザインが「少々……」であったからなのだろうか。
例えばそのスケッチが採用され、しかとドローイングされ、商品やホームページに載っていても、私はそれを見て「少々……」と思っただろうか。
採用されなかったほうのデザインは、はたして「失敗」なのだろうか?
取り留めのない考えにふと拠り所を見つけたのが、このブログでも何度か取り上げさせていただいた、山中俊治先生のスケッチを見た時だ。
88年に発売されたフィルムカメラ、オリンパスO-productは、四角と円を組み合わせた大胆なデザインとアルミボディが特徴。限定2万台のところに5万件の申し込みが殺到したという人気機種だ。
シンプルな見た目ながら、どのカメラとも似ておらず、しかして一目見てカメラであることが疑いようのない姿。ことフィルムカメラは、原理上ある程度のレイアウトは制約されるものだが、却ってそれがカメラであることを理解させる形にとどまらせてもいる。
カメラがデジタルに変わる頃、それまでのフィルムカメラから脱却するような奇抜なカメラが多く登場した時期があったが、今見渡せばほとんどがフィルムカメラの頃の形状に似通っている。
デザインというと、デザイナーやメーカーの自己表現や主張を軸にしたアートと混同してしまいそうになるが、そうではない。どう機能するかをユーザーに伝える手段である。カメラなら、どこを覗き、どこを押せばいいかがお約束のように決まっているのは、100年培われた人とカメラの「言葉」だからだ。
とすれば、先ほどのバンダイのロゴデザインの数々は、どのスケッチも松永氏が見つけた正解であり、現行のそれはよりバンダイの機能を消費者に伝えるのに適したものとして「選ばれた」のだろう。
偉そうに語ったが、この説が正しいかどうかは定かではない。その解はスケッチを何百枚写真に撮っても盗めない、デザイナーが持つ㊙のレシピにしか描かれていないのだ。
会期は来年3月まで。一線のデザイナーたちの寸胴鍋を覗ける貴重な機会。㊙見である。
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