悲しい終着駅

 5年前、エンターブレイン(当時)の名物編集者である加藤克明氏にインタビューをさせていただいた際、ゲーム誌について語られた話が印象深く残っている。

「自分たちがやりたい事とか提案したいことを、メーカーやユーザーが求める事とすり合わせたりしながら作って、結果雑誌も売れて読者も満足して僕らもやったなと思える。
 そうやって全員がハッピーになれるのが一番なんですよね?それを目指すだけじゃないですか、仕事って。だからどんな事でもそれはファミ通をいいものにして、結果読者のためになるからやってる。
 ユーザーがハッピーになることと、ゲーム業界がハッピーになることは繋がってると思ってるんで」

 最後の一節が特に気に入っている。近江商人の商売哲学『売り手よし買い手よし世の中よし』にも通じるものがある。

 TVゲームの歴史を描くとき、その幹の一つに間違いなくなるであろう老舗メーカーの舵取りが怪しい。誰あろうコナミである。

 元週刊少年ジャンプの名物編集者であり、桃太郎電鉄シリーズで名を馳せたクリエイター、さくまあきら氏がツイッターに投げた一石が、巨大な波紋を描いている。曰く、桃太郎電鉄シリーズが終焉を迎えたという。
 さくま氏のツイートによれば、桃鉄を作れるスタッフがコナミからいなくなったため、氏がスタッフを集めてコンシューマー版の新作を作り、コナミにパーセンテージを支払う形で発売する提案を、コナミ側担当者に打診。担当者はこれを口頭ながら了承したが、その後連絡がとれなくなり、さくま氏側が期限とした5月一杯を過ぎても連絡がないため、氏自らシリーズの終了を宣言した。
 さくま氏は本件に対し相当憤りを感じておられるようで、担当者を実名でツイートするなど、強硬な姿勢を取っている。
 一方(6月3日11時現在)コナミから本件に関するコメントはリリースされていない。
※その後公式コメントが出され、継続の意向が示されている→こちら

 桃鉄といえばゲームファンにはおなじみ。日本のゲーム史を紐解けば、必ず並ぶであろうマイルストーン的名作である。
 日本地図と鉄道網を双六に見立て、いく先々で物件を売買し利益を上げる。当時のハドソンに出した企画書が、さくま氏手作りの桃鉄すごろくそのものだったというのは、有名な話である。
 地理の勉強にも役立ち、長らく愛されてきたシリーズでもある。親子二代で楽しんだというファンも多いはずだ。
 突然のシリーズ終了宣言に、ネットは落胆の声で溢れかえった。

 それにつけても、である。本件に限らず昨今のコナミのゲームに対する動静は、どうにも納得ができない。
 ヒット作を生んだ有名プロデューサーやデザイナーの離職はもとより、世界で戦える国産IP「メタルギア」シリーズを生み出す小島プロダクションを、制作本部制に再編。小島秀夫は取締役の序列から消えている。また桃鉄を生んだハドソン吸収後も、ほとんどのIPは表に生かされることなく、ハドソンブランドは事実上消滅している。
 有能な人材や信頼のあるIPを多く抱えながら、その多くにおいて冷淡でさえある同社の対応。そのひとつの決定打とも取られかねないこの騒動に、長らく同社タイトルに心酔した一人として、無念としか言いようがない。

 始まれば終わるのが物事の常である。人気作にもいつか終焉は訪れるだろう。だが人を幸せにするという命を受けて生まれるのが、ゲームなるものであるなら、その最期もまた、皆が笑顔でいられるような形にするのが理想……否、当然であると言ってしまおう。
 ろくに話し合いも持たれず、口約束の末黙殺されるが如く消えた桃鉄の終の姿は、その人気と功績に一分も釣り合わない。

 コナミよ、ファンの言葉に刮目せよ。ユーザーのハッピーなくして、あなたたちにハッピーは訪れ得ないのだ。


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