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童話「オー、マイ・テッド!」

 そうちゃんがいつもそばにおいて、ずっとかわいがっているのが、くまのぬいぐるみのテッドです。
 ママとじてんしゃでおかいものにいくときも、そうちゃんはテッドとうしろのシートにのりこんで、かぜをうけ、ながれるけしきをいっしょにみながらいきます。
 
 「はい、とうちゃくー!そうちゃん、おりて」
かいものからかえってきて、ママはじてんしゃのにもつをおろしながらそうちゃんにいいました。
「はーい!テッド、ついたよ!」
そうちゃんはテッドをリュックにいれてせなかにしょって、うしろのシートからとびおりました。そのとき、チャックがあいたままのリュックのくちから、テッドがぽろりとおちてしまいました。でもそうちゃんはまったくきづかずに、ママをおいかけててをつなぎ、いえにはいっていきました。

 テッドは、じてんしゃおきばのじめんにあおむけになっていました。でもあたりをとおるひとはいなかったので、テッドにきづくひとはだれもいませんでした。
 
 そこに、しろにくろぶちのおおきなねこがやってきました。ねこはテッドをみつけ、においをかぎあしのさきでちょんちょんといじると、テッドのうでをがぶりとくわえていえのうらのほうへいってしまいました・・・。
 
 そうちゃんがいえにはいってリュックをおろすと、チャックがあいたままで、そこにはいっているはずのテッドがいませんでした。
「あれ?ママ、テッドしらない?」
「しらない。リュックにいれたんじゃないの?」
そうちゃんはあわててそとにとびだしました。じてんしゃおきばにテッドはいませんでした。そうちゃんはいえのまわりをみてまわりますが、テッドはどこにもみあたりません・・・。


テッドが、とつぜんそうちゃんのそばからいなくなってしまいました。どこへいっちゃったんだ、テッド・・・。
 そうちゃんの、テッドがいない、かなしいじかんがすぎていきました・・・。
 
 そうちゃんはつぎのひもそのつぎのひもテッドをいっしょうけんめいさがしました。いえのなかも、いえのそとも、こうえんも。でもテッドはみつかりませんでした。
 いつでもいっしょだったのに。どこへいくのもいっしょだったのに。テッドがいない。テッドがいなくなっちゃった。テッド、ぼくをひとりぼっちにしないで・・・。
 そうちゃんの、テッドがいないさびしいひがつづきます・・・。
 
 

 ママはそうちゃんがかわいそうで、なんとかしてあげたいとずっとかんがえていました。
 あるひママがテッドのかおをおもいうかべていると、そのテッドがすうっときえて、またテッドがうかんできました。そうだ!ママにいいかんがえがおもいつきました。ママはそうちゃんにはだまって、テッドをかったまちのおもちゃやさんへいきました・・・。

 「そうちゃん、テッドがかえってきたよ!」
うでをせなかにまわしたママが、そうちゃんのまえにきていいました。
「ほら!」
ママは、だしたそのてに、テッドをもっていました!
「テッド・・・!?テッドだ!テッドがかえってきた!」
そうちゃんはとつぜんのテッドとのさいかいにおどろき、めをまるくしておおよろこびです!
 テッド!いったいどこへいってたんだ。ずっとしんぱいしていたよ。そうちゃんはテッドにはなしかけ、テッドをだきしめました。テッドはまえよりからだがかたいかんじがするけど、そうちゃんはうれしさいっぱいであまりきにしませんでした。
 そうちゃんにあかるいえがおがもどったのをみて、ママもこれでひとあんしんです。

 またまえとおなじように、そうちゃんのそばにはいつでもどこでもテッドがいます。いえでも、そとでも、こうえんでも。そうちゃんはテッドといっしょにあそべて、ほんとうにうれしくてたのしくて、たまりませんでした。
 でもわすれちゃいけないことがひとつ。テッドをリュックにいれるときは、かならずチャックをしめることでした。


 あるひとなりのいえのおばさんがママをたずねてやってきました。しろにくろぶちのおおきなねこと、ぼろぼろのテッドをかかえて。おばさんは、かっているねこがいえのうらでテッドふんづけてすわっているのをみつけたのです。
 
 ママはぼろぼろになったテッドをあらって、ひだりのうでからとびだしたわたをしまってみずいろのぬのをまいてぬい、とれそうになっていたみみとめをつけなおしました。
 ママはずいぶんなやみましたが、なんとかなおったテッドをそうちゃんにみせることにしました。

 「テッドがふたつになっちゃった。そうちゃん、どうしよう・・・」
そうちゃんのめのまえに、けがごわごわで、ひだりうでにみずいろのぬのがまかれたテッドがあらわれました・・・。
 そうちゃんには、このテッドがまえにいなくなったテッドだということがわかりました。そうちゃんは、いまいっしょにいるテッドと、まえにいっしょだったテッド、ふたつのテッドをかわるがわるみつめました。
「テッドがふたつになっちゃった・・・」
 
 そうちゃんはこうえんにあそびにいくのに、まえのテッドをいえにおいて、いまのテッドをつれていきました。でもそうちゃんはまえのテッドのことがきになって、たのしくあそんでいられませんでした。
 そうちゃんはいえにかえってきて、いまのテッドをクローゼットにいれて、まえのテッドとキッチンでおやつをたべました。でもそうちゃんはいまのテッドのことがきになって、おいしくたべることができませんでした。
 そうちゃんはふたつになったテッドのあいだで、こまってしまいました。
「どうすれば、いいのかな・・・」


 よる、もうねるじかんになって、そうちゃんはじぶんのへやで、うでにみずいろのぬのをまいたまえのテッドといまいっしょにいるテッド、ふたつのテッドをかべのまえにすわらせました。そしてそうちゃんはふたつのテッドをかわるがわるみつめていました。そうしているうちにそうちゃんはだんだんねむくなってきました・・・。
 すると、ふたつのテッドから、どうじにおなじあいさつをするこえがきこえてきました。
「やあ、そうちゃん」
「やあ、そうちゃん」
そうちゃんはおどろいてふたつのテッドにめをむけました。ふたつのテッドはつづけて、どうじにおなじことばをしゃべりました。
「なんだか、いろいろあって」
「なんだか、いろいろあって」
するとどうじにかさなっていたふたつのテッドのこえが、ひとつのこえになってきこえてきました。
「からだが、ふたつになったけど」
きこえてくるのは、まちがいなく、テッドのひとつのこえです。
「ぼくのきもちは、ひとつだよ」
そうちゃんはみみをすましてテッドのこえをききました。
「ぼくは、そうちゃんのそばにずっといたかった。でもあのときは、そうちゃんからはなれてしまい、もどれなくなったんだ。だからママにたのんで、もうひとつのからだになって、そうちゃんのそばにいることにした。そしたらまえのからだが、ぐうぜんもどってこれたんだ」
そっか、そうだったのか・・・。そうちゃんは、どうしてテッドがふたついるのかわかりました。
「そうちゃん」
テッドが、もういちどそうちゃんにいいます。
「からだが、ふたつになったけど、ぼくのきもちは、ひとつだよ」
そうちゃんは、じぶんをおもってくれているテッドのきもちをとてもつよくかんじました。
「ぼくは、そうちゃんのそばに、ずっといるからね」
テッドのやさしいこえがそうちゃんのむねのおくにひびきました。そうちゃんは、ふたつのからだになったテッドを、おもいっきりだきしめました・・・。
「これからも、いっしょだよ、テッド!」

 ママがドアをあけると、そうちゃんが、ふたつのテッドをりょうわきにかかえて、ゆかでねていました。ママはそうちゃんをだいてベッドにはこびました。そしてそうちゃんのみぎとひだりにテッドをねかせてあげました。
「テッド、ありがとう。よかったね、そうちゃん」
すやすやとねているそうちゃんとテッドに、ママがかおをちかづけ、やさしくほほえみました——。  
                            

                             (おわり)

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