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太陽の仮宿と月光の姫君

高度に体系化された魔術は科学と見分けがつかない。
リンゴを投げれば落ちるように、決まった手順で杖を振れば風が吹く。そういう風に出来ている。

〈座の一端/贖罪の木片/西から東〉
「黙れッ!」

俺は入り組んだ都市迷宮の上方、辛うじて詠唱の聞こえた方角へ一喝した。怒声は俺たちを狙う魔力の流れを遡り魔術師を卒倒せしめた、ハズだ。姿は見えないが、遠くで魔力の群れが消えた。

「やりすぎだよマハル!」
「マジか!? まだ絞った方だぞ!?」
「そうじゃないよ!」

俺の耳元で背負った少女が喚く。か細い月光の中でも煌めく白銀の美貌は、今は叱責で赤く染まっている。俺の声の余波で罅割れたガラスに一瞬見えた顔は、怒っているのに反則的なほど整っていた。

「じゃなんだよ! 地割れも雷も起こしてないぞ!?」
「もう! あれ!」
「……げぇ!」

背負われ師匠のリュナは丁度、俺がさっき叫んだ方を示す。遠い天を、夜の黒とも雲の灰とも違う、淀んだ紫に緑の電光が走る煙が覆っている。

「何アレ……?」
「魔神のなりそこない」
「なんで……?」
「マハルが大声出して、溢れた魔力が時計台とか町の暖炉とか魔術師のアミュレットを繋げて、そのサーキットに司祭派の邪念が乗っかって……かな」
「クソがッ! 俺のせいじゃないじゃん!」

魔術と科学はよく似ている。
数学の試験で一問目を間違えて40点失うように、一小隊潰しただけで魔神が出てくることもあれば、カルト教団が魔法陣の綴りをひとつ間違えた結果芋づる式に全てが狂い、日本人旅行者に体系化魔術を凌駕する魔力が宿ることだってある。そういう風に出来ているのだ。

しかし、間違えたところから簡単にやり直せないところは、魔術と机上の学問との違いだ。最終的には司祭派を締め上げ、この力を久遠救済の祭壇とやらへ還すとしても、一先ず今は魔神を屠るしかない。場当たり上等!
師匠を降ろし、丹田に力を籠める。目許と掌にばちりと火花が散った。

【つづく→】

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