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ぶっちゃけ妊活日記 vol.5 (後編) / 院長先生の正体


そこには、人間の院長先生がいた。


なぜか少しガッカリしたような気持ちになりながら、イスに腰掛けた。


院長 「えー、院長の海野です。よろしくお願いいたします」
旦那さん「よろしくお願いいたします」
院長 「体外受精という事で、その方向で進みますが、精子凍結なども行っていく予定なので、その辺りまた詳細はセミナーを聞いていただいてね」
旦那さん「ゴクリ…」
院長 「それで、えーと、今日はお2人の採血検査と子宮の方も見てみましょうか。じゃ、一度旦那さんは中待合室に待機していただいていいでしょうか?」
旦那さん「は、はい!」


 旦那さんが扉を開けて出て行くと、1人取り残された。「では、こちらでショーツを脱いでいただいて、支度が終わりましたらお声がけ下さいね〜」と、看護師さんからにこやかに手招きされた。

ゴクリ…!これからあの健診台との戦いが待っている…!

 20代から幾度もこの産婦人科健診台には乗ってきたけれど、いつまで経っても慣れない。初めて台に乗った時のことを思い出しながら、プリッとお尻を丸出しにしながらショーツを脱ぎ始めた。乗ったことある人は知っていると思うが、一度乗ってしまうと「も、もうどうにでもしてくれ…!」と自動的に両足がご開帳になると同時に、心のざわつきのボルテージが上がる。
 思っているよりもかなりご開帳になるので、(…もう、これくらいだよね?…あ、、、え??ま、まだ!?まだ開くの…???え……と、止まってくれ!え?……えぇーーーー!!!)ってぐらい、両足を盛大に開かれる。盛大過ぎて、なんというか、もう、おめでたいって感じだ。


おー、こりゃすごい。一旦、どんな眺めなんだろう。
絶対ウケると思うんだけど…なんだったらむしろ笑ってもらった方がいいわ、笑ってくれーーーー!(涙目)



 などと考えているうちに、「はい!では、今から機械入りますので〜」と院長先生が手慣れて手つきで素早くカチャカチャと超音波検査を行う。機械が入るとなんだか変な動きに子宮が突っ張るような、押されるような感覚で、特に痛いということはない。ただガン検診で少し採取する時は、痛いような痛くないような違和感があったりもする。
 短い時間なのに、台の上でご開帳中は永遠の時を感じる…そうこうしているうちに、無の境地へいざなわれる。南無南無…


 「はい、おしまいです〜」


 台が再び自動的に元の位置に戻っていき、それと同時に無の世界からわたしが戻ってきた。この健診の際には、ワンピースや、めくりやすいロングスカートがいい。どちらにしても丸出しになるのだけれど、例えば銭湯で最初にちょっと恥じらいを隠す手拭いのような精神的安心感があるのと、ないのとでは気持ち的にも違うからだ。


 身支度を終えると、旦那さんが再び戻ってきた。超音波健診の結果を一緒に聞いてから、特に異常なしと安堵し、今日の採血の詳しい話を聞いた。


院長先生 「えー本日の採血の具体的な内容ですが、風疹抗体、甲状腺ホルモン検査、抗ミューラー菅ホルモン(AMH)、クラミジア抗体、ビタミンDです。旦那さんはHIV検査など、あと次回は精液検査もあるので、あとで処置室で詳しい説明を聞いてくださいね」
旦那さん 「ゴクリ…」
院長先生 「あとね、旦那さん。タバコは母体への影響だけでなく、精子そのものへの悪影響が強いので、禁煙開始しましょうね
旦那さん 「は、はい…」
院長先生 「では、本日はあとは処置室で終わりです。お大事にしてください」


 2人はお礼を言いながら、診察室を出て処置室へ向かった。処置室へ入ると、先ほどカウンセリングを担当してくれた看護師さんが待っていた。テーブルには何本かの血液採取の容器が置いてあった。

看護士さん 「では、これから採血しますね。では、最初に奥さんの方からいきますね。腕を出していただいて…あら?血管が…薄いですね〜」

 わたしの両腕は幼い頃から血液検査で看護士さんを泣かせてきた過去がある。苦戦が続くと、手の甲から採血されることもある。なので、なんだかいつも恐縮しながら、採血タイムを迎える。

看護士さん 「大丈夫ですよ、右腕から続けて何本か採血とります」

 頼もしいことにあっという間に3本分の採血が完了して、次は旦那さんの出番だ。覗き見をしていると、両腕とも太い血管が通っていてすぐに採血タイムは終了した。う、羨ましい…!


看護士さん 「では、次回旦那さんはこちらの容器に精子を入れてご提出くださいね。注意事項の容姿も同封しておきますので、よく読んでおいてください。持参する際には、温め過ぎず、冷やし過ぎずでお願いします。」

 手乗りサイズの透明の容器を手渡された。
旦那さんは興味津々で容器や書類を食い入るように見ていた。もしかしたら病院内で精子を提出する場合もあると思っていたので、少しホッとしていたようだった。

 ふぅー。なんだかんだで約3時間ほど説明や検査などで時間がかかった。受付でお会計に呼ばれ、血液もたっぷり取られてフラフラと2人は向かった。受付の女性がスッと領収書を添えて…

お会計:25,240円になります。


と、軽やかに金額をフラフラになった我々に伝えた。さらに顔面蒼白になりながら、震える手で財布からニコニコ現金払い。受付の女性にお礼を告げて、やっと病院を出た。ハァー!外の空気はうまいな。



ブオーン!

 再び2人は車に乗り込んで、帰路についた。検査が終わった安堵でなんとなくお腹をさすりながら会話を始めた。
わたし 「無事に終わってよかったね〜」
旦那さん「うん、次は体外受精に関するセミナー参加もしないとね!」
わたし 「あ!禁煙って、院長先生言ってたね。禁煙しようね!」
旦那さん「いや〜1日3本は少ないって言ってたから、大丈夫だよ(笑)」
わたし 「大丈夫じゃないよ。赤ちゃんに影響あるんだよ?」
旦那さん「少ないから大丈夫だって〜(笑)」

 終わって疲れているせいか、お腹が空いているせいか、笑って話す旦那さんにだんだん腹が立ってきた。

わたし 「本気でやらないなら…子ども作らなくたって、わたしは別にいいんだよ。そもそも欲しいって思ってないんだから…」
旦那さん 「ごめんね…」とポツリと呟いた。


 つい口にしてしまった言葉に、わたしは後悔した。
きっとふざけて旦那さんはタバコの話をしていたのかもしれないが、受け手のわたしが病院疲れで弱っていたせいかもしれない。「子ども欲しくない」なんて言葉、どれだけ考えて決意していても、こんなところでうっかり本音が顔を出す。自分で言っておきながら、いたたまれない気持ちになった。きっと、旦那さんもショックを受けてしまったのかもしれない。

 そのまま車内は静かになった。


♢♢♢


フガガガーーーー!!!

 隣で旦那さんのイビキが豪快に響いてきた。イビキのせいだけでなく、病院から帰宅してからなんとなく2人は元気ないまま夜を迎えた。八つ当たりしてお腹をつついてもイビキが止まないので、わたしは眠れない夜を過ごしに、暗闇のリビングへ向かった。




banner illustration by サタケシュンスケさん


いよいよ本格的に不妊治療を始めることになったので、
 記録として不定期でエッセイ的妊活話をしたいと思います。
 不妊治療ってどうしてもデリケートな話になりがちだけれど、
想いや出来事をシェアして、
 悩み考えているnoterさんと、
 繋がるきっかけになれたらいいなと思っています。

9月に妊活や不妊治療についてのマガジンを制作予定です!
妊活や不妊治療の体験インタビューに応じてくださる方を募集中!

(同じ境遇の方や経験された方、もし運営興味あれば…ご連絡ください!)
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