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正解発表

「人生に正解はない」という言説は長らく社会通念として流布してきたが、この度、NASAがその「正解」を発見したことにより全人類が大きく揺れた。ではそれは何なのかとなるが、それに対して返答は「全ての回答が出揃いましたら発表します」だったため、人々は皆さっそくマジックペンを握りしめ、各々フリップに回答を書き始めた。誰もが人生の正解を知りたかったのである。しかし一方で、そんなものには更々興味がなくまったく回答する気のない非協力的な者も多数存在したが、そうしたならず者に対しては各国、法を歪曲させて刑罰に処すなどの方法にて徹底して排除し、かくして人類は単一の意思によって繋がれた巨大な共同体となった。大回答時代の始まりである。その後、人類は有史以来かつてないほどの大量のインクとフリップを消費し、それにより原料となるあらゆる自然が地球上から姿を消し、代わりに大量の回答が生まれた。一例を挙げると「挑戦」「勉強」「坂道」のような人生を表す王道の言葉から、「車」「アイドル」「音楽」などの個人の所感に依るもの、また「フルグラ」「PDFファイル」「眼鏡市場」「ピングーのトラウマ回」などの大喜利的発想を通過したものから「んゅ^」「々_?燦」「、」など言語の重箱の隅をつつくようなランダムな文字列まで、人類がこれまでに生んだありとあらゆる語彙が回答として生まれ直したのだった。
そしてNASAの発見から二週間が経ったある日、突如としてインターネット、テレビ、ラジオなどの様々な媒体から同時に「全ての回答が出揃いました」とアナウンスが流れた。NASAだ。これに対し、人々は「思ったよりめちゃくちゃに早かったな」と思った。そして発表された正解は「車」だった。人生は車。確かにその回答は実際に出ていたが、これは出した本人も一応書いてみたみたいなノリだったし、誰もが聞いてなるほどねとなるタイプの語彙ではなかったため、人々は早急に理由を求め、一斉にNASAのホームページにアクセスした。そしてそれを見越していたNASAは、事前に国家機密のシークレットプロバイダと契約を交わし超高速ADSLを導入していたことで鯖落ちを回避し、結果、人々のスマホやタブレットやPCの画面には巨大な「Bagger293」が映し出された。これはギネスに載った世界最大の車で、見た目はもはや車というより重兵器や要塞に近かった。この画像をNASAは、46テラバイトという世界最大の画素でTOPページに掲載していたのだ。しかもサムネイルからの拡大表示ではなく原寸大で掲載していたため、ページのスクロールバーはコンピュータ有史以来最小のものとなった。これを掲載した理由は本当に誰にもわからなかったし、画像サイズによる負担で世界中のネット端末が固まったため、誰もこれについての言及を共有することが出来なかった。
そして年月を経て熱りは冷め、各SNSが再び正常に機能し始めた頃にはみな日々のあれこれに忙殺され、諸々は有耶無耶になり、とりあえず人生は「車」という事実だけが残った。人生は車です。

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