禁酒日記1日目

禁酒をすることにした。去年の今頃も禁酒をしていた。その当時の記事を読み返してみると、なかなか禁酒ライフが充実していたようだ。それから一年近くが経ち、俺はまた酒クズに逆戻りしていた。飲んで記憶をなくし、人に迷惑をかけ、身体中に擦り傷を作る。買った覚えのないもののレシートが財布にある。金がなくなっている。もうこんなことは嫌だ。全部酒が悪い。酒で良かったことなんて一つもない。それは流石に嘘で、俺は酒に対してひとかたならぬ恩義を感じている。酒はフワフワとした酩酊を与えてくれる。友人と飲めば楽しい会話をくれる。話し相手のいない飲み会では、酒とだけ向き合っていればあっという間に時間が過ぎてやり過ごせる。酒は俺の頼みを断ることはない。飲ませてくれと言えば、瓶に中身が入っている限りは飲ませてくれる。優しい奴なんだ酒は。ただ、優し過ぎるんだ。どんなクズにも優しくしてくれるんだ。だからクズはつけあがる。何か嫌なことがあったら酒に逃げ、酔っ払ったときの失敗は酒のせいにする。これが酒クズだ。酒は何も悪くない。とてつもない包容力でクズの相手をしてくれていただけなのだ。

だからいましばしのお別れの時だ。無論禁酒するからには一生酒を断つくらいの気持ちでいる。そうでなければ意味がない。酒からはもう一生分の優しさをもらった。人間が優しくない分まで酒は友達でいてくれた。1人の時も誰かといる時も酒で人生を乗り切れたのだ。だからこれからは独り立ちをしなければ。酒がなくても楽しくいられるように修業しなければいけないんだ。そうして大学生になって初めて酒を飲んだ時のように新鮮な感情で酒を飲めるようになった時でなければ、酒に会ってはならない。でもそんな時が来る前に自分の人生が終わるのかもしれない。

酒に恩返しがしたいなあ。自分は飲まなくとも、他人を腹一杯飲ませることができるようなでかい人間になりたい。酒の優しさを若い奴らにも知ってほしい。もちろん飲める奴、酒が嫌いじゃない奴限定でだ。どうしようもなく辛い時、どうしても愚痴っぽくなってしまう時、酒だけが文句ひとつ言わずに隣にいてくれるんだ。

酒量のコントロールなんてできない。人間社会の陥穽にはまってどうにも眠れない時、酒しか相手をしてくれないなら、とことんまで酒と語り合うだけだろう。飲み過ぎるやつは単に意志が弱いだけじゃない。何かを我慢していたり、誰にも言えないことがあったり、淋しい気持ちに蓋をしたり、そういう奴が飲み過ぎるんだなあ。だからと言って可哀想なわけでもない。クズはクズなんだ。つらいことがあったら、誰かに言うなり対処法を見つけるなりで、自分で何とかできるようになるべきだった。それをおこたって、酒を飲んでいりゃそのうち何とかなるだろうと考えているから、クズに違いないのだ。そんなやつから酒を取り上げたってクズのままだろうが、たぶん他人に迷惑をかけることはなくなるから、マイナスがゼロになるくらいの意味はある。

俺はゼロになりたい。無になりたい。マイナスしかない人生だが、ゼロに戻って、人に迷惑をかけずに、穏やかに死んでいきたい。そのような準備が整うまで、酒とはお別れだ。

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