禁酒日記11日目

朝はペペロンチーノと卵。昼はコンビニのサラダチキン、納豆、カット野菜、白米、ギリシャヨーグルト。夜は飯の食えるバーで唐揚げとピザ。

バーには行ったものの酒を飲んでいない。酒を飲まない身でバーに行くのは少し気がひける。明らかに単価が違うからだ。酒を飲んでいた時は一回店に入れば最低4000円を使っていた。しかし酒を飲まなければ2000円程度で終わってしまう。酒によって食欲が増すこともないし、アルコールの入っていない飲み物はそう何杯も飲めるものではない。腹がチャプチャプになってしまう。そう考えると酒は不思議な飲み物だ。ビールやハイボールなどの度数の低い酒なら、アルコールの入っていないただの水などよりも時間あたりではガブガブとたくさん飲めてしまうわけだ。酒を飲んだ翌日に体が膨れている感じがするのも無理はない気がする。

酒の入っていない状態で聴く音楽は本当に味気ない。楽器の演奏もだ。歌もだ。俺は本当は音楽が好きじゃないのだろうと思う。自分にとって音楽とはなんなのだろうか。暇つぶしの一種には違いないが、暇つぶしになる程度には楽しさを感じているということなのか。だが音楽を聴いたり演奏したりすることで笑顔になったり踊ったりするほどではない。音楽の何が楽しいのか本気でわからない。仕事中に音楽をかけると邪魔に感じることが多い。思えば昔からそうで、同級生たちは勉強中に音楽を聴いていたようだったが俺は勉強しながら音楽を聴くということがあまりできなかった。通学、通勤中に音楽を聴くこともあまりなかった。音楽は家にいて集中しながら聴くものだという古風な態度で聴いていた。当時はそれが音楽に対する真摯な向き合い方だと思っていたのだが、それは単に音楽への興味が薄いだけだったのかもしれない。音楽を本当に好きな人間はどんな時も音楽を聴いていたがった。バンド仲間はポータブルCDプレイヤーやiPodをみんな持っていたが、俺は持っていなかった。俺はイヤホンすら持っていなかった。自宅でギターを練習する時用の安いヘッドホンしか持っておらず、それは音楽を聴くためには使っていなかった。

俺が音楽を聴くようになったきっかけは大したことのないありふれた理由で、テレビから流れる歌謡曲が気に入ったからというものだが、その時点では音楽は好きだったようだ。中学生や高校生になる頃も好きだったはずだ。大学生時代もまだ好きだったと思う。しかしその後は音楽が好きだったとは言えない。中高生の頃も、音楽が好きだったとは言え、同世代の他の人間と比べても音楽が好きな方の人間だったのかと問われると自信がない。アルバムを全て集めたバンドは一つもなかった。自分のバンド活動のために何かを犠牲にしたこともなかった。楽器をやってバンドをやっていたとはいえ、その様な半端な態度でなんとなくバンドをやっていただけの俺よりも、自分でバンドを組むことこそないが一つのバンドを心底好きでライブに何度も通ったというような人の方がはるかに音楽が好きなのではないか。はるかに音楽という文化に貢献しているのではないか。

俺は音楽をただの人付き合いの道具にしてないか。音楽をゴルフのように扱っていないか。そんな態度で何かに取り組むくらいならいっそ辞めてしまった方がいい。俺は音楽の輪に加わらない方がいい。音楽が好きな人間のふりをして、心から音楽を好きな人たちの間にいることは、嘘つきとして振る舞うことそのものだ。

酒があればなあ。酒があれば、俺でさえも音楽を心から好きになれる。酒がない時の俺はただの卑怯な嘘つきだ。誰の目の前からも消えてしまうべきだ。

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