<欺かざるわたし>でいたいだけだった。

結社問題、伝統云々、あれこれ苦悩し吐き出し皆様にはご迷惑とご心配をお掛けしております。近頃漸く、漸く、この心も落ち着きを取り戻して参りました。
なんつって三つ指ついて各位に頭を下げたいくらいの心持ちである。それほどに、この一ヶ月二ヶ月は特に、周りの皆様に支えていただいた。事の経緯を説明すべく試みても、それすら傲慢だ、と感じるくらいに、周囲の皆様に救われた。お陰様でまだ当分は隠居せずに済みそうです。心が踏ん張れた。頑張れた。あとコンマ2で宇治の奥山に引き籠もって憂し世を黙々と詠むだけの生活になりかけてたわ〜ってそんな軽口も今だから叩ける訳だが。ありがとう、みんな。

で、落ち着いたところでひとまず書き残しておきたいなあ、と。これがわたしの本音だなあ、と。そんな風に思いまして、「日記」なんて私情の切れ端でしかない、読んだところで毒にも薬にもならない記事を態々皆々様の目に触れ得る場所に作成しているのだから、人間追い詰められて精神崩壊直前と向き合ったら意外と死なないのかもしれんなあ。復帰した折には却ってアグレッシブ人間キメ込んどるかもしれんなあ。
そんな感じで酒でも呑みながら、あるいは不眠の苦痛を覚える夜にスマホから、ゆるゆるっとお読みいただければ幸いです。その結果「なんじゃこの駄文は、馬鹿にしとんのかっ!」とお思いになられても致し方あるまい、だってここに記すは単なる独白、が文字により表層に出てしまったワンダーランド。

前置きが長くなってしまったが、今回わたしが書き留めておきたいと思ったことは、簡潔に述べるならばタイトルそのまま。一行で済む話である。
他者にも自分自身にも、すなわち己の外界にも内界にも、<欺かざるわたし>でいたい。
それだけなのだ。
今年の二月、三月頃に「俳句らしい俳句へと朱入れされればされるほどに言葉がわたしから乖離し、わたしが生々しく生きている世界は消滅する。」という問題が自己の中で大爆発を起こしてしまい(その時点で「ああ…、今まで無理して『らしい』ものを作ってたんやな…」とお察し案件な訳だが)、八方塞がりに陥った。先述の通り、実は何の比喩でもなく、自分の俳号も何もかもを捨てて宇治山にでも隠居すべきか、と考えていた。世の中の情報から隔離された場所で、死にゆく己の生命だけを見詰めて静かに過ごそうか。そんなふうに、本当に思っていたのだ。
だけど。
まあ何と言うか、そんなこと出来る訳がないんですよねー。やっぱり生きたいし(死にたいイコール生きたいの法則がわたしの内部には存在する)、この世には嫌いなものと同じくらいに大好きなものがあるし、そもそも何かに対して「嫌い」って感情を持てること自体も嬉しいものだし。生きている限り、悲しみや怒りや苦しみや妬み、何よりも激しい痛みは尽きない。それが人生だ。でも、だからこそ、わたしは言葉を綴り続けているのだろう。中学生のガキンチョの頃から、その時々により現代詩であったり小説であったり短歌であったり論文であったりはしたけれども。そして今、俳句に辿り着いているけれども。わたしにとって「言葉を綴る」とは、この痛みも何もかもを受け止めて表現し世界に差し出す儀式であり、すなわちそれが「素直な叫び」だったのだ。
ご縁が切れてしまう直前、某氏は仰った。
「ロックやアングラ表現は激しい叫びかもしれませんが、俳句は違います。」
違う?何故?
それは「その方の俳句に於ける思想」に基づけば「違う」というだけの話だろう。
わたし、意図的に、技巧を用いて、態と叫んだりしていない。素直に、ありのままにこの心を、世界に差し出しているだけだ。捧げているだけだ。

「曙覧は欺かざるなり。彼は銭を糞の如しとは言はずあどけなくも彼は銭を貰ひし時のうれしさを歌ひ出だせり。猶正直にも彼は銭を多く貰ひし時の思ひがけなきうれしさをも白状せり」
「仙人の如き仏の如き子供の如き神の如き曙覧(略)。彼の心や無垢清浄、彼の歌や玲瓏透徹」

これは正岡子規が歌人の橘曙覧(1812-1868)について述べた文章の一部であるが、要はこういうことなのだ。
勿論、短歌と俳句、そこに隔たりは多かれ少なかれあるけれど。
わたし自身は、それがどんな表現法であったとしても、素直な言葉を、心を、綴り続けたい。生々しいこの生命をそのまま世界に差し出したい。わたしの声は、言葉は、そのために存在する。
誰に否定されようとも、批判されようとも、わたし自身はそう信じている。

いつだって、<欺かざるわたし>でいたい。

と、ここまで書いてみて、なんかこのシメ方やと自分のことを無垢清浄って言ってるみたいに聞こえへん?大丈夫?明らかに逆方向行ってる人生ですけど……などと独りごちながら愛猫のみかんにちらりと視線を送ってみたところ、奴は一瞬冷めた眼差しをこちらへ寄越しつつ夕飯のカリカリを食べるべくキッチンへと向かった。んなもんどうでもええわい、と返答するように。
いつの間にか窓の外は暗い。そろそろ、晩酌にしよか。


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