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6秒を超えて残ってしまう

・人の感情は6秒以内がピークらしい、という話
 どこでそんな情報を仕入れたのかは既に覚えていないのだけれども、人間の感情というものは6秒がピークで、そのあとは薄れていくものだ! という主張を聞いた。いや、読んだ? 何かの書籍に書いてあった気がしないでもない。
 まあそれは良いとして、じゃあその「6秒」って数字は一体どこから出て来たんだ……お前は一体何者だ……と思い、調べてみた。
 人の感情は6秒説、元々はアンガーマネジメントという心理トレーニング法における話らしい。心理学に基づくということなので、それなりの統計だとか、そういうものから導き出されてはいるのだろう。専門家じゃないので深くは言及しないけれど、一応論拠があるらしいということを知れたのでそこは良しとする。
 しかし私が本当に引っかかったのは科学的論拠の有無だとか、そういうことではなかった。もっと感覚的な部分での引っかかりだった。「怒りの感情は6秒をピークとして、後は徐々に薄れていくし、客観視出来るようになる」って、そうかな? というかそこが問題ではなくない? と、めちゃくちゃ自分の経験に引っ張り寄せた上で疑問が残るから、どこで読んだか覚えていなくても「6秒説」自体は私の中に微妙〜〜〜な明度で留まっていたのだった。

・6秒以上経ってもモヤモヤは残っている話
 確かに「アンガーマネジメント」的に考えれば、つまり感情の中でも「怒り」という心の動きに焦点を当てれば、一瞬何かしらにイラッと来たとしても数秒後にはある程度は落ち着いていると思う。そういう意味では、この「6秒説」が全然信じられない、というわけではない。でも、感情の「ピーク」は過ぎたとしても、モヤモヤは残ることってあるじゃないですか。激昂はしないけれど、なんかな〜……みたいな感じで。個人的にはそちらの感情、感覚の方が厄介なように思う。
 怒りが沸き起こっていれば信頼している友人に話を聞いて貰ったり、ノートに気持ちを書き殴ったりして落ち着かせる手段はいくらかあるのだけれど、「モヤモヤ」は異なる。友人に話を聞いて貰っても、そこで何かしらアドバイスを貰えたとしても、そしてノートに思う存分書き殴っても、「モヤモヤ」は残り続ける。だって、怒ってはいないのだから。発散出来得る感情は既に手放している。ある程度譲歩し、納得もした上で、それでも心の中にだけは「でもな〜……いや、言っても仕方がないんだけど……」という着地点のない感情が残っている。そしてその感情は時が経てば経つほどに、どこにも収納出来ない、置き場所のない荷物として自分で抱えて日々を過ごす他なくなってしまうような気がする。
 少し前に、とある方(以下A氏)に「お前は俺の気持ち全く考えてねぇよな」と言われた。そのとき起こっていた問題は二者間の話ではなく、共通の知人を挟んで少し揉めてしまった……という感じで、なんというかまあ、あまりにも稚拙で俗な揉め事だな〜ぐらいのことだ。今はA氏とも普通に話しているし、表面上の蟠りは解消している状態だ。と、思う。
 しかし私の中には、「怒り」はなけれどずっと「モヤモヤ」が残っていて、その「モヤモヤ」は「こんなこと言われて傷ついた!」という類のものではなく、「いや……態々蒸し返すようなつもりはないし別に良いけど……『お前は俺の気持ち全く考えていない』って断言するのはおかしくないか……?」というthe モヤなのだった。
 何故このようなthe モヤが残り続けているのか。それは、「お前『は』俺の気持ちを全く考えていない」という言葉が矛盾を孕んでいるからだ。
 もしもA氏が相手のことを(この場合は私のことを、ということになってしまうので、若干自己弁護のようになってしまい気持ち悪いのだけれど、それは置いておくとして)配慮して問題に言及していたら、このような表現は成立しない。他者の気持ちなんて話し合わずして分かるわけがないのだから、「自分はこういうふうに考えていて、この点が嫌なのだけれど、きみはどう考えているのか現段階で情報が提示されているわけではないから憶測でものを言うことしか出来ず、しかしそれはやはり良くないね。ってことで一旦腹を割って話し合いませんか。ちょっとのんびり時間があるときにでも」ぐらいでしょうよ、許されるのは。問題・Xについて何の話し合いもしていない段階で「お前『は』俺の気持ち全く考えていない」って断言はどこから来たんだ……その言葉が出る時点でお前『も』私の気持ち全く考えてないよな……the ブーメランやん……としかならない。
 つまり、まとめると、「6秒」を超えても残り続けるthe モヤはイコール、the ブーメランだった。
 そんなもん、モヤモヤし続けるに決まっている。

・「6秒」に拘ってみることの意義
 つらつら述べて来たけれど、感情(特に怒り)は「6秒がピークで、そのあとは薄れていく」説を意識的に頭の片隅に置いておいた方が良いであろう人々もいる。怒りを覚えると衝動的に暴言を吐いたり、暴力に走ってしまったりする人たちは、この「6秒」という数値化された情報を知っておくことが自身の言動に一旦ブレーキをかける手助けになり得るだろう。たぶん、先述した「アンガーマネジメント」における心理トレーニングもまさにそのことを指しているのだろう。専門的にはもっと具体的なトレーニングがあるのだろうが、基本はそういうことだと思う。知らんけど。
 ただ、言い方は悪いが「怒りに任せて暴言・暴力に走ってしまう」というのは最早一種の病気なので、情報だけ頭に入れておくよりも専門家によるカウンセリングを受けた方が良い、確実に。感情に流されて言動をコントロール出来ないという人々の多くがカウンセリングを受けるということ自体を受け入れないからこそ問題は根深いのかもしれないが。
 それはそれとして、他の人々は、多かれ少なかれ「6秒説」が当てはまっている側面もあるのかもしれないけれどそれ以上に「6秒を超えたあとのthe モヤ」がしんどいのであって、「ピークを超えたら薄れていくよ!だから大丈夫!」じゃあない。そうじゃあないんだよ。

・結局、6秒超えても何も解決していなかった。

・そしてこの尻切れとんぼな日記がまた新たなthe モヤを生み出し得る。


おわり。


yakka.


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