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"talk to people" ロンドンの大学院での設計アプローチ

2010年の夏、ロンドンの大学院へ進学。
宗教建築や教育施設を主に設計している建築家の元で修士設計をしました。
東ロンドンにある A11 RoadAldgate からさらに東の Bow Church (約16マイル) まで、宗教建築や教育施設、コミュニティのあり方を調査し、最終的には Free school を提案します。

わたしは、最東端の Bow Church 地区を調査対象にしました。
中心に St Mary's Bow Church という教会があり、住民の90%がバングラディッシュ人の地域です。

チューターの口ぐせは "talk to people"
敷地を読みとるためにはまず地元の人に話しかける、がモットーでした。

前回の記事、多国籍なロンドンで建築との向き合い方が変わった話は↓


◯ まずは小さなアウトプット

1年かけて制作する修士設計にむけて、小さなスケールの課題から始まります。4タームに分けて徐々にスケールを大きくして各課題を最終設計につなげていきます。

課題の進め方が面白く(チューターにもよると思いますが)、学部のときにこの方法を知っていたらもっと建築学科を楽しめていたのではと思います。

独自の Tabernacle frames を造る」、が最初の課題でした。
研究対象の敷地にインスタレーションし、その結果を発表します。

Tabernacle は礼拝所という意味ですが、遊牧民など教会に通えない人たちのための持ち運びができる聖櫃(せいひつ)という意味もあります。

研究対象の建築をスケールダウンして表現してみようという課題です。
物事を掘り下げるためには面白いプロセス。

モスクの習慣である「教会に入る前には靴をぬぐ」を象徴して靴置き箱を作った人や、ホームレスの人がよく集まる教会ではみんなでお茶を囲むためのマグカップ用ラックを作ったり。

わたしは700年の歴史を持つ教会の歴史を切り絵にして、庭にインスタレーションをしました。

教会の700年の歴史を切り絵でTabernacleに。行き交う人に反応してもらい会話が始まる。

ヒューマンスケールから設計に入っていくので、直接設計に関係なさそうに思いきや、実は実践的。
地元の人たちの雰囲気やどういう人が集まっているのかを知ることになり、彼らたちとの交流をもうながします。

◯ 少しスケールをあげたワークショップ

2つ目の課題は、「特定の場所で子供のためのゲームをつくり、子供たちと遊ぶ」というもの。

その場所の特色やそこで見つけた素材、環境などを元につくります。

ある人はマーケットで使われているテント、箱、商品を使って Wendy House(子供用の小型の家)をつくっていました。

わたしは無機質なアスファルトの広場に、紙でつくったニセ物の葉っぱを本物の葉っぱの中から探すという宝探しゲームを提案しました。

宝探しゲームのためのフライヤー。

対象者はBow Church 地区にあるキリスト教の小学校とイスラム系の小学校の子供たち。

キリスト教の小学校は遠くから車で通っている人が多いため、広場では全くみませんでした。
イスラム系の小学校は地元の人がほとんど。英語が話せない親が多く、「一緒に宝探しゲームしませんか?」と話しかけると、子供は遊びたそうですが親はほとんど反応せず、一人も遊んでもらえないという結果に。

最初は課題の目的がわかりませんでしたが、調査だけではわかりえないそのエリアの環境や状況を知るための良い実習になりました。

◯ 今までのワークショプがいかされる設計課題

3ターム目は、「子供のための小さな教室をつくる」という課題。
実際に特定の生徒を考えて設計をします。

わたしは、2ターム目でゲームをしたアスファルトの広場に、無人の花屋とトイレの設計をしました。

花屋とトイレのアクソメイメージ。

ワークショップで感じたことは、子供は人種や相手に対して固定概念がないので関わろうとするが、大人は他人種と関わろうとしない、ということ。
なので、植物を育てるという行為で宗教を超えて子供同士でコミュニケーションがとれるよう、あえて無人の屋外教室を計画しました。

そして修士設計は、大人のための英語やパソコン教室を兼ねた子ども図書館を提案しました。
地域のコミュニケーション不足は、言語の問題でもあります。子供は学校で英語が上達するけど、主婦やお母さんは勉強する機会がない。
最初は目的がわからなかったワークショップも設計のアイディアにいかされていきます。

ワークショップを通して調査だけでは得られない地元の声を設計に活かしていく手法は自分に合っていました。

「住」だけでなく、衣、食、環境、人種、宗教などすべてのことに関わる建築は、学びが多い。ロンドン留学を通して建築との向き合い方が変わり、建築を生業にする面白さを再確認しました。

次回はロンドンで働いていたときのことを書こうと思います。


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