こわがり


「結婚式ごっこをしよう」と彼は言った。
12月、イルミネーションが街をピカピカに染め上げていた。コンビニで同じアイスを買って寒い寒いと言いながら、くねくねくねくね歩いていた。
「気が早いって」私は笑った。彼の言っていることが心の底から面白くて、その無邪気さを愛おしいと感じているかのような声で。
「百均で布を買ってきて、ウエディングドレスを作るの。それで、ホールケーキも買って、二人でケーキ入刀をしよう」
私はまた笑った。「いいね、楽しそう」
本当はこんな話をしたくなかった。恋人のことは好きだ。一生一緒にいたい、というクサいセリフをはいてしまいそうになるくらい、好きだ。
「なんのケーキがいいかな」
「うーん、チョコレート味にしようか」
恋人が一番好きな味だ。

私たちが未来の話をする時、そこには不安が隠されているような気がした。
私の笑い声が引きつっているような気がした。

すべてのことには理由が必要で、不確実なものは嫌いだった。
だから、早く歳を取りたいと願った。

胸が張り裂けそうになるくらいつらい思いはしたくない。私たちは傷つきたくなくて、馬鹿げた話をしている、そう思った。

「私さ、ホールケーキをひとりで食べることが夢だったんだよね」
「俺も」
「でも味が全部一緒だから途中で飽きちゃいそうだよね」
「確かに」

恋人が昔の話を始めた。誕生日にお母さんが大きなケーキを作ってくれた話。過去は、ゆがめられて美しく語られるかもしれないが、振り返れば転がっている。だから私は安心した。さっきよりもよく笑った。

恋人は気づいているのだろうか。



こんなにも怖がりな私たちが幸せになれますように。