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同一色の世界で II.IV

II.IV 胸はキャンバス

 わたしらしさを取り戻す、その現れとしてでた最初の行動は、次の日からまた学校へ行かなくなったこと。でも、前のわたしとも違っていた。数日が過ぎ、再び学校へ行った日の朝、わたしたちは挨拶を交わした。「おはよう」と「おはよう」「バイバイ」「じゃあね」と日々繰り返される定型文は、回を重ねるごとに笑顔を伴い、手をふる動作は自然体に変化していった。

 次第に、カナトの友人たちとも少しずつ話しをするようになった。始終行動を共にしたり、どこかへ一緒に出かけるなんてことはなかったけど、学校に関することで分からないことを質問したり、他愛もなくみんなと話しができていくことに、喜びを感じるようになっていった。話題というのは、親密度とともに徐々に増えていく。宿題のこと、テストのこと、参加しなかった行事のことから始まり、昨日の休みは何をした、どこへ行ったとプライベートな領域へと移行していった。彼との出逢いによって踏み出したあの一歩は、未知の世界のドアを開いた。そこには、伸ばした手を握ってくれた人がいた。それぞれの要素、行為によって、人と人、事が結ばれ出来事へと変わり、こうしてわたしは新たな日常を知ることになった。
 彼に対して熱を帯びた興味は希釈されていき、友達として、人として、クラスメイトとして、とても好感の持てる人へと変わっていた。そして、わたしの人生において、初めてできた友人という重要な登場人物になった。

 卒業するまで、繰り返すだけの毎日だと思っていたのに、「会いたい人たちがいるから今日は学校行こうかな」なんて思える日が突然やってくるとは思いもしなかった。そこへ行けば、ほぼ間違いなくその人たちに会うことができるという奇跡。この頃のわたしは、それが奇跡であることをまだ知らなかった。本当はそんな確約なんてもの、人生にはないということを。
 でも同時に、こんなふうに日々のささやかなことがとてもうれしくて、みんなと一緒に笑い合って、喜び、その瞬間を分かち合うことも、わたしにとっては同じく奇跡なのであった。

✴︎

  日常はひだまりのように、穏やかに過ぎていった。そして、初めてわたしたちが話をしたあの日から半年が過ぎる頃、カナトは居なくなった。遠い星へ、移住した。当初、わたしは彼から何も聞かされていなかった。わたしはこの頃、編み物をしたり、絵を描いたりと、創作に楽しさを見出すようになっていて、学校へいくことがもっともっと減っていた。カナトはきっと、わたしに打ち明けるタイミングがなかったのだろう。久しぶりに学校へ行ったとき、彼が珍しく休んでいることが気になった私は、彼と親しい友人であるルースから、カナトが家族とともに移住するを話を聞いた。
「一ヶ月くらい前だったかな、でも突然決まったらしいよ。出発は来週だって。今週はその準備で忙しいみたいだし、もう学校には来ないってこの前最後に学校へ来た時言っていた。」と。

 わたしは、息を呑み、吐くことを忘れるほど驚いた。居なくなるんだ、と声にならない声が体の中でこだまし、ハートがぎゅうっと強く握られる痛みが走って、そのままグシャッと潰れるかと思った。
 席へ戻り、すこし呆然としたあと、寂しさがおなかの中から込み上げてきた。彼の笑顔、初めて話したあの夕暮。切れ端の思い出たちが目の前でちらつきながら鮮やかに蘇る。大好きな友人が居なくなることに切なくなった。でも、目を閉じてひしひしとその思いを感じていると、暗い奥の方に、遠くへいく彼をどこか憧れのようにうらやましく思う種を見つけた。ここではないどこか、そこには一体何があるのだろう。遠い星へ行ってしまう彼は、いつも見上げている夜空に爛々と光る星のひとつへ移り住む。そこで彼はどんな風に生きていくのだろう。
 昼間の世界でわたし達は離れてしまっても、もっとふかいところ、テレパシーでいつでも繋がり合えるようなそんな期待が心の裏側をよぎった。
 潰れかけていた心臓が息を吹き返し、寂しさも希望も胸のキャンバスでありのまま発色しながら、未知の世界と現実の間に佇み、わたしは静かに息を吐いた。

・・・

(つづく)
 

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Paris⇨Tokyoへ(2020.3〜) 筆名:絲川ミミ SF小説、詩を書いてます。 瞑想、旅、オーガニック、猫、お洋服が好き。 宇宙意識で生きてます🌌 https://linktr.ee/_naaho