見出し画像

5. 史上最高に絵になるレース ジャパンカップ2020


2020/11/29 (日) 15:40  東京12R ジャパンカップ2020 / 芝2400m@府中競馬場

こんなすごいレースをちゃんと競馬初めて2年の自分がみられるなんて幸運すぎるのだろう。歴代GI最多勝馬でこのJCが引退レースのアーモンドアイ、史上初の親子での無敗三冠牡馬コントレイル、史上初の無敗の三冠牝馬デアリングタクトによる史上最高の3強対決と謳われたレースは最高に絵になるレースであった。

15:40。ファンファーレが鳴る。唯一のフランスからの参戦馬ウェイトゥパリスが4分かかってやっとゲートに入る。8番ウェイトゥパリス以外はすんなりゲートに入って、例年のような声援はないけれど、若干の静寂の中、乾いたゲート音と共にスタートの合図が切られた。

スクリーンショット 2020-12-10 035038

全馬出遅れがなく、一番人気に推された2番アーモンドアイと3年前の菊花賞馬4番キセキが好スタートを切って、キセキがハナを切って初GI参戦のダート主戦馬14番ヨシオが競りかけ気味になるが、そこで1コーナーに到達しキセキが先頭で進んでいく。「今日はキセキがるんるんな日でちゃんとスタートを切れた!」という思いで嬉しくなりながら固唾を飲んで見守る。キセキが逃げるレースはラップ的にも締まった好レースになることが多いし、期待に胸が膨らむばかり。

スクリーンショット 2020-12-10 035245

逃げるキセキを追いかけて、ヨシオ、同じく初GI参戦の9番トーラスジェミニが番手で進み、穴党勢が推しに推していた15番グローリーヴェイズ、アーモンドアイ、重賞2勝馬11番クレッシェンドラヴが中団前目につけて第二コーナーを抜けていく。「アーモンドアイは距離不安が囁かれていたのに意外と前目につけている、ルメールは本当に勝負師だな」この大一番でこういう勝負ができるルメールは本当にすごい。

そのあとに続くのは今回私の本命5番デアリングタクト、悲願の初GI制覇を狙う昨年のJC2着馬の1番カレンブーケドールが中団の真ん中。そこから2馬身後ろの中団後方からの差し勢は2番人気の6番コントレイル、去年の菊花賞馬で1年ぶり復帰戦の3番ワールドプレミア、重賞3勝馬10番パフォーマプロミスと7番ミッキースワローが続く。ここで最初の1000m通過は57.9。マイル戦かよというくらい早い。キセキが大逃げしてハイペース。ここまで大逃げすると最後失速する可能性も高いものの、それでも逃げ切ってしまうのではないかという勢い。ハイペースだと先行馬勢がかなり厳しく差し馬にチャンスが出てくる一方で、大逃げのレースは総じて番手や先行馬が勝つ確率が高い。どちらに転ぶかハラハラする。

中団からまた3,4馬身くらい離れて、追い込み勢で4年前のダービー馬12番マカヒキと中長距離重賞3勝馬の13番ユーキャンスマイル。金子オーナー勢で同じ勝負服が並ぶ。その後ろに綺麗な白い芦毛馬ウェイトゥパリス。3コーナーに入っていく。先頭はキセキのまま。跳びが大きいストライドが本当に見てて気持ち良い。川田さん騎乗のグローリーヴェイズが着狙いではなく勝ちに行くポジション取りをしている。やっぱ川田さんうまいなあ。色々な評判がある川田さんだけどやっぱりこの人はうまい。正攻法の競馬がで勝負してくれるし自分は好きな騎手。

スクリーンショット 2020-12-10 035448

大逃げして大欅の裏を駆け抜けていくキセキを見て、98年の天皇賞秋のサイレントスズカをふと想い出す。ぜひ現役で見てみたいスーパーホースだった(当時3歳)。サイレントスズカと重ねてしまったキセキだが、無事に大欅を抜けてスピードを落とさずに走る姿を見てほっとする。天皇賞秋はサイレントスズカが故障してしまうのをあまり見たくないがゆえに結局人生でも2回くらいしか映像は見られていないのだが、脳裏に鮮明に焼き付いているので毎回大逃げする馬が無事に大欅を駆け抜けるとほっとするんだよね。残り600mのアングルがまたかっこよくて、キセキを追って、グローリーヴェイズを先頭にした14頭がきれいなコーナリングをしながら追ってくるのよ。こんなわくわくするきれいな画角の絵はなかなかないよ。

スクリーンショット 2020-12-10 040312

スクリーンショット 2020-12-10 041301

残り500mを切る。川田さんがグローリーヴェイズをもう追い出す。後ろから不気味なくらいに静かにすーっとアーモンドアイも反応する。「ルメールが追わずとも私わかってるよ」ってくらい自然に加速して動き出すから本当賢い馬だよアイちゃんは。残り400mを切ってキセキのスピードがどんどん失速していく。本命のデアリングタクトが直線での加速に若干もたついて「あ~~~~」と思っている間に隣にいたカレンブーケドールと外からコントレイルが鮮烈な脚色で位置を上げてくる。もたついていたデアリングタクトも内に進路を切り替えて負けじとぐんぐんスピードを上げていく。

スクリーンショット 2020-12-10 042616

残り300mを切る。キセキを捕まえようとしていたグローリーヴェイズをアーモンドアイが早めにとらえる。いやいや。距離不安が囁かれている馬が残り300mで先頭?(大逃げから失速しているキセキは考慮外として)こんな横綱みたいな競馬で最後まで持つのか?そう思ってしまう。デアリングタクトより後方にいた差し・追い込み勢は届きそうにない。カレンブーケドールがコントレイルとデアリングタクトを連れて伸びてくる。カレンもおそらくこういう差し競馬は本来苦手なタイプで理想はグロヴェやアイのように番手から早め先頭をやりたかったはずだが頑張っている。さすがの根性。今年の4歳世代の牝馬は強い。

残り200m。アーモンドアイがぐんぐん加速する。「え?」 距離不安とはなんだったのか。本当に引退レースなのか。そんなものは史上最強・歴代最多GI馬には関係ないのか。アーモンドアイ・グローリーヴェイズがキセキを抜きにかかる。この瞬間ハイペース大逃げで明らかに失速していたキセキの完歩ピッチが大きくなる。もう失速して明らかに違う脚色のアイとグロヴェ相手にこの馬なりの最後の意地を見せているのだと。これだからキセキは応援せずにはいられないんだ。スタート決まらなかったり逃げても毎回最後差されちゃって2着が多い不器用な馬だけど、この頑張る姿を見たくて応援しちゃう。

スクリーンショット 2020-12-10 045647

さ、話を戻して。残り100mでアーモンドアイが先頭。アイに早々に捕まったグローリーヴェイズも根性を見せて粘っている。デアリングタクトとコントレイルが強烈な差し脚で上がってくる。でもなかなかアーモンドアイとの差は縮まらない。

スクリーンショット 2020-12-10 050250

最後まで伸び続けたのはアーモンドアイとコントレイルとデアリングタクトだった。1着 2番 アーモンドアイ、2着 6番 コントレイル、3着 5番 デアリングタクト。4着にカレンブーケドールが入りグローリーヴェイズは5着。結局1番人気→2番人気→3番人気で決まり、3連複配当は300円。史上最低配当であったらしい。

今まで3強と呼ばれるレース(4番人気が単勝15倍以上オッズがつく三つ巴レース)がGIでも何度もあって、でも今まで3強で決まったレースはなかったんだって。それが史上最高の3強レースといわれた今回のJCで初めて3強で決まった。みんな不利もなく力を出し切ったからこそこの順当決着だった。

どの馬も全力を出し切ったなかで勝ったのはJC勝利でGI9勝とした今回が引退レースの5歳牝馬アーモンドアイ。距離不安やローテ面での不安が囁かれていたが関係なかった。強い馬はどんな状況だったって強いのだ。無敗のクラシック三冠3歳牡馬コントレイルと無敗の牝馬クラシック三冠3歳牝馬デアリングタクトは今回が初めての敗戦となった。

スクリーンショット 2020-12-10 052234

この時ふと思い出したんだ。昨年(2019)の有馬記念を。この時圧倒的1番人気はアーモンドアイ。当時は新馬戦とスタート直後に大きく不利を受けた安田記念(3着)しか負けていなくて、正直自分も無敵に近い馬だと思っていた。しかし終わってみれば、有馬記念がラストランだった5歳牝馬リスグラシューが2着に5馬身差をつける完勝で、アーモンドアイは完全に能力負けの9着。引退レースのリスグラシューにとても敵わぬような強さを見せつけられた完敗だった。

今振り返ってみても5歳半ばからのリスグラシューは歴代最強馬たちに匹敵するくらい強かったと思う。その最強馬が当時の若いアーモンドアイに強さを見せつけ、初めての完敗の経験・挫折を味合わせて、ターフを去っていった。競走馬も挫折を味わうような感情があるのかはわからないけれど、強かったが実際に負けだすと急に走らなくなる馬も存在する。ただアーモンドアイはその挫折を糧にリスグラシューが示したような強さを持った馬になり、今年GIを3勝して歴代最多GI勝利を達成した。

最強馬が引退レースで見せつけた強さは紡がれていく。リスグラシューからアーモンドアイへ。そしてアーモンドアイからコントレイルとデアリングタクトへ。3歳無敗の若い2頭は負けを知ってまた強くなってきて戻ってきてほしいな。

3強と謳われ史上初めて実際に3強が1~3着を占めたレースとなった今年のジャパンカップ。優勝したのは、1年前に引退レースのリスグラシューの強さを前に挫折を初めて知り、それを糧にまた一回り強くなったアーモンドアイ。そしてそのアーモンドアイがまた在るべき強さを若駒に示してターフを去る。こんな絵になるレースが今まであったであろうか。

史上最低配当のこのジャパンカップで馬券的に儲けた人は殆どいないであろう。ただこんなにも競馬ファンの記憶に刻まれ、誰もが嬉しくなったレースはないのではないか。

「競馬はギャンブルだから」と敬遠する層もいるし、否定は全くしない。ただこんなにも競走馬は一生懸命走っていて、だからこそ応援したくなるし、こんなにも1レースだけじゃ語ることのできない成長と挫折のドラマがあるのだ。

これだから競馬はやめられない。最高のレースをありがとう。

画像10


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?