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内藤哲也から滲み出る哀愁、そんなカリスマに我々は夢を見続ける。

カリスマがピンチを迎えている。

今この投稿を書いている2024年8月5日、G1 CLIMAX 34はシリーズ中盤を過ぎたあたり。例年は一戦一戦を終えるたびに誰が優勝決定戦に進出するのか、あらゆるシチュエーションを妄想し次の興行で見事に覆される。という一連の流れは私だけではないでしょう。しかし今回はそれを考える以上に私も周りのファンもが心配する出来事が深刻化しています。それは「内藤哲也のコンディションが悪すぎる」ということです。

我々が内藤哲也に夢を見る上での共通認識

内藤の膝というのは、以前から不安視されていました。現在の制御不能なカリスマになる以前、新日本本隊のスターダスト・ジーニアスとしての内藤哲也は、トップロープからの「スターダストプレス」を飛び続けていました(現在も大一番で解禁するが)。この技はうつ伏せの状態で着地するために、繰り出す度に膝への衝撃は大きく、10年以上前から水がたまった状態が続いていて、現在も定期的にそれを抜く治療をしているようで、過去の密着映像でも紹介されていました。しかしこれはフィニッシュムーブを飛び技にしている選手にとっては宿命的なもので、それの代表例が武藤敬司です。咄嗟にモノマネをしろ言われたら膝を押さえて苦悶な表情を浮かべれば、それっぽくなるくらいプロレスファン以外も知っている共通認識です。武藤敬司と同じ系譜に存在するレスラーでいえば棚橋弘至(新日本プロレス代表取締役社長)も両膝の靭帯が何本かない状態で現在も戦っているという想像しただけでも自分の膝が痛くなるようなコンディションで戦うのが、レスラーの運命でもあります。

慢性的に痛む両膝、更に襲う悲劇

先述の通り、内藤哲也の膝は常に危険信号を灯しています。更に彼のレスラー人生を追いかける中で忘れてはならないのは、両膝それぞれに爆弾を抱えているという事です。この投稿を書くと決めたと同時に左右の負傷を改めて振り返ってみることにしました。

【右膝前十字靭帯断裂】

2012年8月7日、G1 CLIMAX 22、仙台大会での対ルーシュ戦でスープレックスの着地を失敗し前十字靭帯断裂、その後の両国大会での高橋裕二郎によるパイプ椅子攻撃によって更に痛めつけられる膝。ここから周囲は内藤哲也のレスラー人生に哀愁を感じ始めたに違いないと思っています。

【左膝内側側副靭帯損傷・半月板損傷】

2021年9月18日、G1 CLIMAX 31、大阪大会での対ザックセイバーJr戦でザック得意の関節技地獄に苦しめられ、その後の公式戦を欠場。前十字靭帯断裂を負った時期と被ったこともあり、内藤哲也にとってはG1シリーズは負傷もあり、優勝もあり、彼にとってのレスラー人生に良くも悪くも波を起こすものであると私自身考えています。

【右目上斜筋麻痺、4年間で3度の手術】

これは昨年の11月頃に明らかになった事ですが、右目の不調を改善するための手術を三回行っています。また同様の手術は3回までと言われている中で既に受けられる最後の手術を終えているという事になります。しかし4年間で3回受けているという事は相当なダメージを現在も追っているという事になり、身体的な不調と同時に試合中の視野や相手の動きを正確捉える事に関しても鮮明ではない可能性があります。


離脱と台頭の狭間に、、、2024年の新日本プロレスへの向き合い方

このような深刻なダメージを追っている内藤哲也の今シリーズ(G1 CLIMAX 34)の公式戦を観る限り、今までの試合と比較すればかなり技のキレや終盤の動きのスピードは落ちていると言わざるを得ない状態です。このようなコンディションになったきっかけは明らかではありませんが、俯瞰で見れば内藤哲也という選手のみでなく、2024年の新日本プロレスの動向から捉えるとコンディション不良の経緯が見えてくるのではないでしょうか。2024年の新日本プロレスでいえば、上半期の段階ではありますがオカダ・カズチカやウィル・オスプレイ、Guerrillas of Destiny(タマ・トンガ、タンガ・ロア)などの主力選手が多く離脱したことが大きなトピックではないでしょうか。

また2024年の新日本プロレスの大きなテーマとして「新世代の台頭」があります。G1のエントリー選手の年齢を見ても大きく若返った印象を非常に分かりやすく受けることが出来ますが、まだオカダ・カズチカやウィル・オスプレイと肩を並べるほどの充実感にはまだ距離を感じます(というより判断するには早すぎるし選手たちに失礼です)。 
2024年の新日本プロレスは「看板選手の離脱」と「新世代の台頭」という世代交代の狭間の時代にあります。このような状況で期待すべきことはもちろん続々と海外修行から帰ってきた選手がタイトルマッチ戦線へ絡んでいく事や団体を背負って再び世間にプロレスの市民権を得てほしいという事など多岐に渡ります。一方ですぐに新世代と括られている選手の中で頭一つ抜ける選手が出てくると期待しすぎるのも良くありません。

あくまでヘビー級に限った話にはなりますが、このような狭間の時代での内藤哲也の役割というのは本来ならオカダやオスプレイと共に背負うはずもので、新世代との対立構造や海外戦略を一人で担ったことで、あまりにも負荷がかかっていたと思います。上半期のIWGP戦線に常に欠かせない選手であることに加えて、ジェイク・リーとの抗争やジョン・モクスリーとのアメリカでの2度のタイトルマッチなど、例年のIWGP王者以上に試合数が多く、遠距離移動による疲労などで身体的にも精神的にもダメージは大きかったはずです。

現在の内藤哲也のコンディション不良は一瞬の出来事によるものではなく、上記のような2023年のG1優勝後からの様々な要素から来るダメージ蓄積によるものであると私自身考えています。

逆転の内藤哲也を渇望する中で、心を躍らすために。

「ファンが選ぶ内藤哲也のベストバウト」みたいなものを集計すれば上位に来るもののほとんどは試合全体を通して運動量が激しく、繰り出される技は厳しいものであるに違いないでしょう。ケニー・オメガとのG1優勝決定戦や飯伏幸太との多くのシングルマッチ、オカダ・カズチカとの二冠統一戦などでしょうか。しかし現在のカリスマに同様の試合内容を期待するには今回のG1公式戦を観る限り厳しいものがあります。何を求めるか、何を期待するかはファンそれぞれが意見に相違があってしかるべきだと思いますが、内藤哲也のレスラー人生を長く見たい思いを抱く私としては一つの転換点であると考えます。

内藤哲也の中には武藤敬司の系譜が存在している事を忘れてはなりません。その武藤イズムにとって欠かせない要素である「引き算のプロレス」の一面を我々が感じ取る時期に来ていると思います。内藤哲也のシングルマッチを見ていると比較的繰り出す技の種類は少なめだと思っています。だからこそ会場や配信で見ている際には「観れた!」と感動すら覚えます(個人的にスイング式DDTが好きです)。特にここ数試合で繰り出すデスティーノは回転が以前に比べて遅い分、リングにたたきつけられる衝撃が重たく見えるようになり、「必殺感」が色濃く出ているので、これはこれでいいのではないかと感じます。内藤哲也の試合にはこれから今まで以上に1試合の中での物語性を感じ取るような意識で見続ければ新たな輝きを自分の中で感じ取れるのではないかと思います。

これからのカリスマに改めて夢を見始める

内藤哲也にとってG1 CLIMAXは3度の優勝もあり、負傷欠場もあり、レスラー人生を大きく変化させるシリーズになっているのは間違いありませんし、今年も変化が起きようとしています。ですが今年は例年とは違って我々も変化を起こす必要があるかもしれません。

ファンは「過去」を求め、選手は「現在」を追求し、団体は「未来」を見据える。

これはプロレスに限らず他のコンテンツすべてに共通するのではないでしょうか。選手は今できる最大限をリング上で吐き出している事に変わりありません。その選手の生き様をどのように捉えてどのように見方に変化を起こすかの段階に内藤哲也というレスラーと向き合う中ではきていると思います。

絶対に優勝してほしい、という願望以上にこれからの内藤哲也の楽しみ方を提示してくれと願うのが私自身の思いです。



試合展開が今までよりスローでもいい、繰り出す技が絞られてもかまわない、多少の制御が効いても仕方がない、ただ逆転の内藤哲也に夢を見たい。









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