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私の“性”はキラキラしていないけどーーバイブコレクター14年目のひとり言

国内のセクシャルプレジャーグッズブランドが10年という節目の年を迎えるにあたって、ブランドコンセプトを刷新し、素敵なモデルさんをアンバサダーに起用した。急に寒さがゆるんでこれから春になるんだぞと誰もがわかる日に開かれた、お披露目の場。新しい時代の幕開けを感じさせる演出を前にして、私はうっすらと「あ、私はここから取りこぼされる側だ」と感じていた。

プレジャーグッズ……この呼び方もここ10年でずいぶん変わった。ちょっと前まではラブグッズと呼んでいたし、その前はアダルトグッズ、大人のおもちゃ。プレジャーのためのグッズというのはとても本質的だし、おおっぴらに口にしやすくもなった。すばらしいことだと思う。

時間をさかのぼったついでに、そのブランドのプロダクトをはじめて手に取った10年前のことを思い出す。飲食店の個室で、ひと通り食事を終えたあと、私の前にスッと3つの箱が差し出された。「TENGAの女性版が出るので見てください」という名目で設けられた席だった。ちなみに私は「一日だけ男性になれるなら女性とセックスしてみたいし、TENGAを使ってみたい」と本気で思っている人なので(現在も)、そのメーカーが作ったプロダクトをついに試せるのかと、期待値はマックスまで高まっていた。

それを軽やかに裏切ってくれたのが、初代irohaだった。TENGAのブランドイメージから、もっと押しの強いデザインというか、「どや! かっこいいやろ!」みたいなものが提示されると勝手に予想していた。当時すでに洗練を極めたLELO(スウェーデン)や、ポップなカラーリングのFunFactory(ドイツ)といった海外ブランドが日本に入っていたこともあり、どう差別化していくのかということにも興味があった。

箱から出てきたのは、和菓子のようなはんなりした色合いのローターだった。記憶にはないけれど、感動の声をもらしたはずだ。手で触れるとしっとりと吸い付くようで、求肥を連想した。曲線的なフォルム、ぷにぷにとした弾力。irohaという名前も、またいい。耳にやさしく、グッズをはじめて使おうという人が選びたくなるネーミングだと思った。

先日のお披露目の場でも、初代のモデルを会場で手に取る機会があったが、個人的にはこれが10年間での最高傑作だと思っている。特にYUKIDARUMA。初対面での衝撃は、それほど大きかった。ついでにいうと、後継モデルにあたるiroha+のKUSHINEZUMIも大好きです。

そこから次々とプロダクトが発表され、「性を、表通りに」というブランドコンセプトが着実に実現されていった。プレジャーグッズという言葉は知らなくても、irohaの存在や名前は知っている女性もいて、これってほんとうにすごいことだと思う。

時代の追い風もあった。特に3、4年ほど前からフェムテックという言葉が広がりはじめ、ますますメジャー感を増している。10年目のその日も、お披露目会場に向かう道すがらSNSを眺めていた私の目に、同ブランドが朝刊に全面広告掲載の快挙を成し遂げたという投稿が目に止まった。車内であったにもかかわらず「すごッ!」と声が出ていた。

その一方で、「私はいまどこにいるのだろう」とも感じた。
10年間で変わったのは同ブランドではない。
快進撃をしているだけで、ずっとブレてはない。
ブレているのは、私のほうだ。

気づいたら、なんだか息苦しかった。メディアでフェムテックの特集を見ても、目が滑る。フェムテック市場でも、プレジャー分野はまだまだ日があたっていないと感じる。それを一概に悪いことだとはいえないところもあった。だって、フェムテック全体にヘンな空気があるんだもん。その空気のなかで日があたらなくてもいいんじゃないかな、と。

生理や妊活、更年期の対策のためのプロダクトやサービスは、労働力としての女性の“生産性アップ”という文脈で語られることが多い。ちょっと前までブルーオーシャンだった(もう、そんなことない)デリケートゾーンケアアイテムは、「腟が乾くと女性は健康じゃなくなる」的なとんちきな脅しをセールストークに用いるものも多く、それが堂々とメディアで紹介されている……展示会に行くと、帰り道で宙を見ながら「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツはどこ……?」と思うのが私のなかでの恒例になっていた。

なんて書いたけど、SRHRに基づいたすばらしいアイテムやサービスもあるんですよ。悪貨が良貨を駆逐するなんてことにならなきゃいいですね、という気持ちになってしまうというお話。

ヘルス、ライツがとんちきなことになっているなかで、見落とされている状態にあるのが「セクシャルプレジャー」だなと感じるわけです。

いや、時代は変わってはいるんです。以前なら某誌が毎年発売するセックス特集ぐらいしか、まとまった数の掲載がなかったバイブやローターが、いまは常時いろんな媒体に載っている。有名百貨店のポップアップ店で堂々と販売されることもある。

そこで紹介され/売られているのが、
私でも取り扱いがむずかしいと感じるようなアイテムだったとしても。
私でも買うのをためらうような高額のアイテムだったとしても。

10年ひと昔とはよくいったものだなぁ、と思います。フェムテックの冠をかぶせることで、一瞬にしてキラキラ感を演出できる。そして、私はそのキラキラにどうも気後れしてしまう……もっとはっきりいうと、「いや、私は違う」という抵抗感が生まれてしまうの。

耳元で、「自分の性に向き合ってプレジャーを得るって、こんなに素敵だよ! 大事だよ!」
と大声で言われているかのようで。「こんなに先進的なんだよ! やましくないよ!」と連呼されているようで。

キ、キラキラすぎるぜ……と腰が引け、私の“性”はそこにない、と思ってしまう。

それは、私自身がアングラで昏い世界に惹かれる傾向があるからです。つまり、嗜好の問題。いまどき感のあるハイセンスなプレジャーグッズが素敵と感じる一方で、「エグい」「前時代的」と否定的に語られるような、たとえばモロ男根な形のグッズで興奮する人もいるでしょと思ってる。ひとりの人間のなかにいろんな嗜好が存在していて、そこには表に出せないような後ろ昏いものも存在している。性ってそんなものじゃないかなと思うところがあって。

加えて、性に対して忌避感しかなく、痛いつらいというイメージしか持てない人もいることも、常に忘れてはならないとよく自分に言い聞かせる。性を通して自分と向き合おう、それがすばらしいことだといくら言われたところで、無理なものは無理なんですという人がいることを。性がキラキラと語られるほど、そこにノレない自分をダメだと感じる人がいることを。

アレです、光が強いほどそれによってできる闇が濃くなるってやつです。

これは過去の自分から突きつけられた刃でもある。お披露目の場で「そんな形のバイブ、家にあってほしくないんですよね!」という発言があった。あー、私もそれ言ってたわ! ってなりましたね。(その時点での)自分の好みじゃないからって、そこまで否定的な言い方しなくてもよかったよな〜、といまになって反省してます。

なんで女性の性はキラキラという「素敵」のベールをまとわされるんだろうね。
性ってしょっぱくて、昏くて、身勝手で、情けなくて……ってこともいっぱいあるじゃんね。
それでもその人のプレジャーは(それが誰かへの暴力になっていないかぎり)、誰からも否定されるものではないもんね。

いまは「プレジャーって素敵だよ! 大事だよ! 先進的だよ! やましくないよ!」が必要なフェーズなのだと思います。日本ではまだそのことすら行き届いてないから、マジョリティを動かすにはこのフェーズを経なければいけないものなのでしょう。

でもそこから取りこぼされる人は絶対に存在していて。キラキラな人たちは「そんなことないよ、取りこぼさないよ」というかもしれないけど、それでも絶対にそこにノレない人たちはいる。そういう人はどこにいればいいんだろうね、って思っちゃうのです。マジョリティが変わったあとに変化の波が訪れるのだとしても、そんなん待てないよね。性って“いま”のものだから。

……というようなことをウダウダ考えて、あんまりすっきりしない週末でした。

私はプレジャーについて発信しているけど、ずっと「アダルト」の世界に属していると思われているから(実際そうだし)、キラキラのなかには入れないし、「いない」ことにされている。そもそも入りたいと思っているわけではないのだけど。

でも、キラキラじゃないからこそできることあるんじゃないか。

それが何かはいますぐにはわからない。でもとりあえず、「素敵!」なグッズも、「古い」「エグい」といわれるようなグッズも、じゃんじゃん試して、紹介していくよ。

……ってそれ、いま現在もやってるか! ってことは、あんまり変わらないのかな。でも、なんかしたいって気持ちは持ちつづけようと思います。

最後に記しておきますが、これは私の屈託をつづった文であり、irohaさんを批判するものではありません。念のため、ね。日本の性に石を投じつづける、唯一無二のブランドだと思っています。


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