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「#これからのインフルエンサー」イベントレポート【DAY3】 〜『ネオインフルエンサー』から考えるインフルエンサーマーケティング〜

「#これからのインフルエンサー」イベント概要

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ここ数年で、主にSNSを通じて企業の商品やサービスをPRするインフルエンサーと呼ばれる人々が次々と現れています。それに伴いインフルエンサーマーケティングという手法が生活者と企業を繋ぐ新たな架け橋となりました。一方で、インフルエンサー及びインフルエンサーマーケティングを取り巻く市場では様々な課題も生じています。単純にSNSのフォロワー数によりPR費用が決定される価格設定、PRであることを隠して行われるステルスマーケティング問題や、それらを扱うインフルエンサー専門プロダクションの在り方も問われています。
今、インフルエンサーの市場はどうなっているのか?そして、企業はインフルエンサーとどう向き合っていくべきなのか?モデレーター:テテマーチ株式会社 福間昌大が、インフルエンサー界隈のスペシャリストをお呼びし、5日間を通して紐解いていきます。

──本記事では、DAY3のイベントレポートをお届けします。DAY3のテーマは、「インフルエンサーマーケティングの新潮流『ネオインフルエンサー』の出現」。

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芸能プロダクションの機能を持つとともに、インフルエンサーマーケティング事業やD2Cブランドの運営も行う株式会社ケテルの丸本貴司氏が登壇しました。

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インフルエンサーの前身

福間:丸本さんは、『読モ』という文化を原宿で発生させた、「原宿系読モのパイオニア」というイメージがあります。

※読モ=読者モデルの略。ファッション雑誌などのモデルのうち、プロのモデルではなく一般人として登場するモデルのこと。

丸本:『読モ』はもともと雑誌ごとに専属で活動していることがほとんどで、雑誌の垣根を越えて『読モ』同士が集まることはあまりありませんでした。しかしTwitterが徐々に日本に定着しはじめた頃に、自主的にTwitterで情報発信をしたりファンと交流したりする子が出てきたんです。当時はTwitterのフォロワーが1,000人いればすごいと言われるような時代でしたが、自分で発信できる子たちが、人とのつながりを広げていく様子を目の当たりにしました。 そういった流れを見てファッションスナップサイト「読モBOYS & GIRLS」「WEGO 読モスタッフ」「原宿ファッションチーム」など、そういった子たちを集めたコミュニティを作っていきました。 キーワードとして「原宿」がついていたので、「原宿系読モ」という言葉が認知されていたのだと思います。

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ファッションという共通言語の元、SNSを利用してメンバーが集まって…という流れは今では当たり前ですが、当時は珍しい活動でした。これがインフルエンサーの前身だったんじゃないでしょうか。僕はファッションブランド「WEGO」で働いていたんですけど、その子たちを招待して店舗でイベントなどを行っていました。その結果、会場となったWEGO自体にも注目が集まり、売上も右肩上がりしましたね。初期のインフルエンサーマーケティングの成功事例といえると思います。

福間:丸本さんが立ち上げたコミュニティに僕も所属していました。丸本さんのコミュニティ出身で、現在インフルエンサーとして活動している仲間もいますよね。横田ひかるさん、まつきりなさん、さんこいちさんなどがそうです。
 
丸本:原宿というと奇抜なファッションをしているイメージがあって、そういうものを着るのはマイノリティだと思われていたんです。けれど、SNSの台頭によってマイノリティ同士がつながれるようになった。そして大きなコミュニティを形成する動きがうまれたんです。

最近では、「インフルエンサーをメディアとして捉える」という姿勢に異議が唱えられることも増えましたよね。僕は、その「人と人がつながっていく」という現場をこの目で見てきたので、インフルエンサーはあくまで人である、という強い思いが崩れないんだと思います。

福間:インフルエンサーマーケティングの手法がどんどん増える中で、単なるメディアとして扱うことへの違和感を僕たちも抱いています。
 
丸本:以前、インスタグラマーが一斉に新聞の写真をアップしているPR事例がありましたが、それを実施したインスタグラマーにも、企画した広告代理店にも、新聞社にも違和感を感じました。

広告代理店は、若年層にも新聞を読んで欲しい・新聞をPRしたいということで若い人たちに支持のあるインスタグラマーを安易に起用し、インフルエンサーの側は新聞が自分のフォロワーとどう繋がっているか、何を求められているかよく考えず、投稿すればお金が貰えるから引きうけてしまったのだと思います。 

きっと広告代理店はインフルエンサーを情報をリーチさせる為の単なるメディア(数字)として見ていただろうし、インフルエンサーも自分のフォロワーを数字だとしか思っていなかったんではないでしょうか。情報がどのように受け止められるかという事を考えず、リーチ数やフォロワー数という数字しか見ていない者同士がやっていることなんだな、というのがひしひしと伝わってくるような案件でした。

ネオインフルエンサーという概念

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福間:丸本さんがつくった『ネオインフルエンサー』という概念は、従来のインフルエンサーと何が違うのでしょうか? 

丸本:そもそもインフルエンサーは2種類に分けることができます。「プロデュースする側」「プロデュースされる側」です。プロデュースする側のインフルエンサーは、自分をどう見せることが最適かというのが分かっているんですよね。プロデュースされる側のインフルエンサーは、見た目が秀でているという人が多いです。  

例えばインフルエンサーの佐藤ノアは、プロデュースする側のインフルエンサーです。彼女は、自分の見せ方に強いこだわりを持っていて、PR案件の中でも受けない案件の基準が決まっていたり、ウソをつかないといった信念があったりします。自分という商品をうまくマーケティングし、ファンを増やしているんです。
 
そのマーケティング力を活用し、自分以外の商品などをマーケティングするのが『ネオインフルエンサー』です。インフルエンサーをメディアではなく、ブレーンとして使うのが新しいインフルエンサーマーケティングだと考えています。

インフルエンサーに熱量を伝播させる

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丸本:佐藤ノアのもとに、以前ある化粧品のPR案件の依頼がきました。彼女は、単に化粧品の写真を投稿するのではなく、企画の打ち合わせにも参加し、ディレクターとして案件をコントロールしていたんです。企画に参加してもらうインフルエンサーの精査にもノアが加わっていました。

 
福間:複数のインフルエンサーを起用するようなPR案件だと、インフルエンサーとクライアントの距離が遠く、コンテンツへの熱量が低くなる傾向にあります。それに対して、ネオインフルエンサーであるノアさんはどのように動いたのでしょうか?
 
丸本:インフルエンサーマーケティングの失敗例として、企業の担当者の商品への熱意や熱量が感じられず、インフルエンサーがPR案件を自分ごと化 できなかった結果、コンテンツが雑になるということがあります。

本来であれば、担当者がインフルエンサーに商品の良さをしっかりと理解してもらえるように働きかけるべきです。しかし、100人単位のインフルエンサーに依頼をする場合はそれを実施するのが難しいのも事実です…。また、PR案件の概要を伝えるためのオリエンシートは、商品のアピールポイントや、いれてほしい文言、ハッシュタグなど必須事項だけが記載してあるとても機械的なものになりがちです。これが問題なんです。

ノアがプロデュースする案件の場合は、オリエンシートに加えて、参加するインフルエンサーに見てもらうためだけに、商品についての動画を自主的に制作しました。担当者から受け取った熱意を、そのままノアが動画という形でインフルエンサーたちに伝えたんです。オリエンシートでは、ハッシュタグの指定など必要最低限の部分だけをカバーしました。

丸本:通常のPR案件だとSNSのダイレクトメールで事務的に商品投稿の依頼がくるなか、わざわざ佐藤ノアというインフルエンサーから商品をすすめる動画が届く…。参加するインフルエンサーの中にはノアを知っている人も多いですし、手の込んだコミュニケーションが「この商品はきっと特別なんだ!」という感情をもたらし、PR案件への参加意欲を増すことに成功しました。
 

福間:丁寧に仕事を依頼する…。普通に過ごしていたら当たり前にやっている「人に対しての姿勢」を改めて思い起こす事例ですね。

 
丸本:ノアがインフルエンサーだからこそできたことだったと思います。ノア自身がPR案件を受けるときに、簡素なオリエンシートと商品を渡されるだけだったり、ハッシュタグを大量に付けたりするPR案件に疑問を抱いていたんです。この事例のように依頼を受けるインフルエンサー側の心情を理解している人間が、ブレーンとして企画から関われるマーケティングが広まってほしいですね。

企画は「クライアントとの接点」まで設計すべし

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福間:お話を伺っていると、ネオインフルエンサーはクライアントとの距離が近い、というのも特徴かもしれませんね。

丸本:振袖ブランドのジョイフル恵利さんのPRで「振袖TEENS」という10代のインフルエンサーを集めたグループを結成しました。振袖TEENSでは月に4本YouTube動画をアップしており、その撮影のために必ず月に1回メンバーが集まるんです。
 
SNSのみで完結するPR案件が多いなかで、リアルで会うことの重要性を感じています。毎月会うことでメンバー同士の横のつながりが強まっていくんです。さらにクライアントにも同席してもらい、メンバーにクライアントの顔を覚えてもらいます。クライアントの顔が浮かぶようになると、ブランドに対しての愛着も増していきます。結果、コンテンツへの熱量も高まるんです。
 
クライアントを好きになれば、「担当者さんが喜ぶなら」と、頼まれた依頼内容以上の投稿も自然とするようになります。実際に会うことで、参加している人間同士の顔が見えているからこその効果と言えるでしょう。また、「自分の好きなインフルエンサーに仕事を頼んでくれてありがとう!」とクライアントの会社にお礼の連絡をいれているインフルエンサーのファンもいるということも聞いています。
 
福間:インフルエンサーも人だからこそ、関係値を結ぶということが、会社にとってもファンにとっても良い循環を生むんですね。
 
丸本:だからこそ企画を考えるときには、なるべくクライアントと接触する機会が増えるように設計すべきではないでしょうか。タレントの中には、稼動が増えることを嫌って打ち合わせなど最小限にしたがるインフルエンサーも多いと聞きますが、しっかりとクライアントに会って話を聞きたい人は多いと思いますよ。

PR案件にはキャパがあることを理解する

福間:先ほど、ノアさんは受けない案件の基準があるとおっしゃっていましたが、具体的にどのような基準があるのでしょうか?
 
丸本:インフルエンサー自身が自分で商品やサービスを使用し、本当によかったものだけを投稿するというものです。この形式だと、1年の間に受けられるPR案件のキャパはおのずと決まり、そこまで多くの案件は受けられません。

ノアの場合は、本人が実際に使用してみて、本当に良いと思ったものしかPRしません。PR表記がついていると「ステマだ!」と非難される方もいると思いますが、ノアにはこの基準があるとファンも知っているので、「本当にいい商品なんだね、教えてくれてありがとう」と思ってもらうことができています。
 
更には、ノアが「PR案件だよ!」と投稿すると、「新しいお仕事、良かったね!」とファンから歓迎されるコメントもあります。

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福間:PR表記がついているとエンゲージメントが下がると言われている中で、そのような好意的な反応が返ってくるというのはすごいことですね。
 
丸本:キャパがあるからこそ、PR案件で稼ぐ額を小さくする覚悟は持たないといけないでしょう。
 
日本で僕の周りにいるインフルエンサーだと、マーケティング案件と、ファンから直接お金が入ってくるダイレクト課金のふたつの稼ぎ方の割合がだいたい「8:2」なんです。マネジメント側は、この比率をうまくコントロールすべきです。マーケティング案件の依頼がくるからってなんでも受けていては、ファンからの信用をなくしてしまいかねません。
現在、中国ではダイレクト課金の割合の方が大きくなってきています。インフルエンサーが自分の商品などをファンに買ってもらって収入を得ているんですね。日本でも最近D2Cの流行の波がきていますが、これが益々広まることで、ダイレクト課金の割合の方が増えていくといいですよね。

 
福間:インフルエンサー自身が企画や商品をプロデュースして、ファンやクライアントとより近い立場での繋がりを増やしていくネオインフルエンサーの活躍が、インフルエンサーマーケティングを本質的な手法に変えていきそうな可能性がありますね。

依頼された案件をただ実行していくだけではなく、インフルエンサーがマーケター・プロデューサーに近い立場になり、一緒に企画をしていくことで、より本質的なインフルエンサーマーケティングが出来るのだと思っています。本日は貴重なお話ありがとうございました。

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DAY3では、インフルエンサーマーケティングの成功事例をもとに、ネオインフルエンサーの活躍についてお話を伺いました!

DAY4では、「「PR視点」と「アルゴリズム」で考えるインフルエンサーマーケティングの方程式」をテーマにトークを展開します。


スピーカー:丸本貴司

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株式会社ケテル 代表取締役
性別にとらわれないファッション的価値観を提案するジェンダーレス男子という言葉を作り、ニューヨーク・タイムズなどにも取り上げられる。その他、インフルエンサー関係のインタビューでORICON NEWSなど多数掲載あり。アパレル会社のPR職を経て2018年株式会社ケテルを立ち上げる。著作は『ジェンダーレス男子』『立ち止まったとき、ボクらの心をささえる言葉77~雨のち晴れでまた明日~』など。

モデレーター:福間昌大

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テテマーチ株式会社 コミュニケーションデザイン室
1990年生まれ。学生時代、クラブイベントやファッションショーの運営を経験。大学卒業後、2社を経てテテマーチ株式会社に入社。同社にて、企業のSNSコミュニケーションの企画提案、及び自社のマーケティング企画等を兼務。アドテック2019・2020公式スピーカー、個人の活動としては、20代のマーケターイベントの企画や、chill outをコンセプトにした200人規模のイベント等を開催している。趣味は囲碁とファッションとTwitter。

レポート執筆:野里のどか(ブログ / Twitter

ソーシャルコンテンツスタジオ『餅屋』


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テテマーチ社では、SNS時代のプロモーションに特化した企画集団『餅屋』を設立いたしました。

餅屋は、インフルエンサーを単なる拡声器としてではなく、コンテンツを共に創り上げるクリエイターとして考えています。多くの実績を持つプランナーとチームを組み、SNS時代にあわせたコンテンツを「創る」から「広げる」までプランニングいたします。

餅屋へのお問い合わせはこちら↓

公式サイト:https://tetemarche.co.jp/mochiya/

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