美しい犬と出逢ったときのこと

私が自分の意志で犬を飼いはじめたのは、小学四年生のときだった。

離婚した母が、私と妹を二人だけで遅い時間まで留守番させるのがしのびないので、犬を飼わないかと言ってきた。

母の友人の家で子犬が生まれ、貰い手を探していたのだ。

母子家庭の私たちに、当時、犬を飼う経済力やリテラシーは無かった。

今なら分かる。

それでも、以前に犬と過ごした時間は、人生で最高に幸せだった記憶として強烈に残っていた。

父と母と私は、弟を失ったが、その後に妹が生まれた。

新しい命を授かり、最後の力を振り絞って家族としてのかたちを成そうとしていた。

家族を構成するメンバー全員が『幸せな家族』であろうとした時間は、いつも犬と共にあった。

父が居ない状態で犬を飼うのは不安だったが、同時に大きな希望となり得た。

母の友人は、ショートカットにショートパンツの声の大きなひとだった。

「どれがいい?一匹きもちわるいのが居るんだけど」

マルチーズは白い。そして、一般的には目も鼻も黒い。

指さされた子犬は、真っ白で、目が青くて、鼻がピンクだった。

「この子がいい。絶対に、この子にします」

私はその子犬を抱きしめた。

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