【企画参加】 木の実と葉 #シロクマ文芸部
木の実と葉が重なって秋の帷子が色彩を放つ様は何とも美しい。この情緒を肌で感じられる日本人に生まれたことは密やかな優越感でもある。
しかしその美しさも放っておけば蓄積し輝きを失い腐って土へ還る。夫婦も同じだ。
お互いを愛でながら輝き躰を重ね合って尊重し合えば、人として昇華しその人生も美しい。
けれどもふと何かの折につけ違和感を感じ蔑み段々と視界から遠のく様は、季節で例えるなら秋、木の実も葉も枯れ果て朽ちて腐敗し寒い冬を迎える。
そんな季節の感傷にでも浸るかのように切り出した夫の別れ話から数日。久々の開放感に包まれ、こんな男好みの部屋に釣り合わないほど大きなテレビなぞ真っ先に捨ててやると決める。あれやこれやと新しい家具のカタログを見ながら、昔から憧れていたフラワーポットのテーブルランプは何色にしようか、この際布張りで良いからエッグチェアまで買ってしまおうか、などと夢想しながら過ごしていた矢先。
「新居の件で何かと出費がかさむ。ここの家賃は僕が半分出す。それで同意してくれ。」
半分?
狐につままれたかの如く自分の耳を疑う。数日前までは人生全てをわかりきったような口ぶりで、
「君は何も払う必要はない。財産もきっちり二等分にしてやるよ。好きな所にマンションでも買えばいい。」
などとどこかで聞いたことのあるセリフを吐いた。それがこのザマである。
今まで自分が知った夫とは違いやけに気前が良いとは思っていた。
これはもしや木の実を金貨に、枯葉をお札にするタヌキにでも出会ったかとさえ思わせた。
半分では無理だ。それがわかっていたから最初から断っていた。しかもこれでは取らぬ狸の皮算用である。
「いくら必要か言ってくれ。しかし君も了解してもらわんと困る。」
了解? 私が。
一方的な言い値でこちらが納得するとお思いか。
コンピューターのプログラミングでOKを出すのとは訳が違う。買い手に有益なベネフィットがなければ商品を売るのが難しいことは長年の販売経験から百も承知だ。夫の場合職業柄プログラ厶ばかりでネゴシエーションがない。ビジネスマンであれば違ったであろう。これでは狐と狸の化かし合いにもならない。
次の日の朝、上手く半分以上に上乗せした金額を通知すると血走った目を剥きながら捨てゼリフで仕事へ向かって行った。
夜遅く戻ると寝室のドアはぴたりと閉まりながらも灯りが洩れている。物音も聞こえない。要求が通らなかった果ては狸寝入りで冬を迎えるのだろうか。
〈BGM〉
・I Started a Joke / Bee Gees
・フラワーポット テーブルランプ
by ヴァーナー・パントン
・エッグ チェアー
by アルネ・ヤコブセン
(1030字)
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今回はこちらの企画に参加しております。
それと同時にコチラの記事の続編です。
MVを追加いたしましたので、よろしければお楽しみください。
いやん♥