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人を想って絵を描いた

9月7日(水)

「絵を頼みたい」

彼女とはじめて会ったのは少人数限定のイベントだった。

みんながはじめましての中、彼女とも喋る機会があってたまたまわたしが普段絵を描いている話になったら、ちょうど抽象画が欲しいと思ってたの!と、その場でわたしに依頼してくれた。

機会って突然訪れるんだなとびっくりしながら、ちょうどCDジャケットの依頼を完遂したばかりで、それが楽しかったからまたこういう仕事したいなと思っていた時だったのもあって、わたしでよければぜひと引き受けた。

笑顔が似合う気さくな人だなあという印象で、正直に言うとわたしと真反対にいそうな人だなあと思って、近い距離になることは想像していなかった。

それでも同じものに惹かれて少人数の壁を越えて有料イベントにわざわざ参加しているぐらいだし、そのイベントも6時間くらい一緒にいて濃密な時間だったから、共通の言語は最初から持ち合わせていた。

絵の打ち合わせをしたいと言ってもらったので、SNSで繋がって、後日日取りを決めてカフェで落ち合った。

わたしからしたら仕事を依頼してくれたクライアントさんであって、結構畏まった気持ちで向かったのだけれど、予想に反して共通言語があるからか、最初は出会ったイベントでの話から盛り上がり、お互いに話せる相手だとわかった頃には生い立ちから今はどんなことで悩んでいるかまで、かつてからの友人かのように話し込んでいた。

こんなに気兼ねなく話せる人っていつぶりだろうと、嬉しい時間を味わっていた。

そんな彼女からのオーダーは、「私のイメージで描いてほしい。あとはわくわくのエネルギーを乗せてほしい。他はもう自由に描いて」と、あとはキャンバスの大きさの指定だけだった。

最初にそう言われた時に、あまり知らない相手のイメージ画ってわたしに出来るのかなと不安だったのだけれど、そのあとに思っていないくらいたくさんお互いのことを話したので、たくさんのデータをもらえて、これからその絵が描けるのかと帰り際にはわくわくしていた。

仕事の依頼だったので金額をどうしようかと悩んでいて、それも彼女の方からこのくらい払うつもりでいるとわたしに伝えてくれた。

それはわたしが提示しようと思っていた金額より遥かに高くて、彼女がそれでお願いしたいと言ってくれるのならわたしはそれ以上に価値を感じてもらえるように描こうと、身が引き締まって、覚悟が決まった。

そうして制作が始まった。

最初に会ったイベントの時に黄緑色みたいな人だなと思っていたので、黄緑色を使うことは決めていた。

それから彼女を思っているうちに浮かび上がったキーワードを忘れないように書き出して、浮かんだ曲もメモしていった。

しっくりくるキーワードが浮かんだ時にパズルのピースがはまるように描けそうと思えて、そこから絵に取り掛かった。

描き始めてからは毎日起きればすぐにその絵のことばかり考えていた。

わくわくのエネルギーを乗せてほしいと言われていたから、気分がいい時、今なら描けそうと乗り気な時、機嫌がいい時だけ筆を取って、気分が下がっている時や今日はダメだと思った日は潔く描くことはせずに、でもひたすらにどうしたら彼女のイメージを抽出してキャンバスに載せることが出来るかをずっと考えていた。

わたしが感じた彼女を正確にそこに表したくて、たくさん考えて、たくさん色を塗った。

彼女のイメージに合わない色と感じる色を塗らないことにすごくこだわって、少しずつ形作っていった。

家に飾ると言っていたから、帰る場所にある安心してもらえる絵を描きたくて、イメージと安心をどう両立させるかをたくさん考えた。

そうして時間をかけて出来上がった絵は、とてもとても愛おしいものになっていた。

出来上がったと思った日から何日か自分の家の壁にかけてみて、本当に大丈夫か、絵を飾っている時に感じる気持ちに違和感はないかをすごく確認した。

本当にこれで大丈夫だと思った時に、直接渡したいと彼女に連絡した。

たくさん話せたあの日に、出来上がったら直接渡そうと決めていた。

すぐにその週末空いてると返信が来て、その日に約束した。

たくさん話した日以来に会った彼女は相変わらず笑顔が似合う人で、絵を見せる直前までわたしの絵は彼女に合っているだろうか、気に入ってもらえるだろうかと、途中経過も見せなくていいと言われていたからその日が本当に初めて見せる日で、どきどきしながらもどこかで大丈夫だと思える自分もいて、わたしは緊張しながら彼女に完成した絵を見せた。

彼女はすごく喜んでくれた。

わたしがどんな気持ちで、どんなイメージであなたのことを描いたかを拙いながらに伝えると、彼女は思うところがあったみたいで涙を見せた。

「昔から私のことを知っている人が今の説明を聞いてこの絵を見たらわたしそのものだって言ってくれるよ、そのくらい私の絵だよ」

そんな言葉をくれた。

嬉しい以上に、絵を眺めている彼女とわたしの描いた絵が合っていると感じてすごく安心した。

よかった、この仕事が出来てよかった、そう思った。

素敵な仕事をさせてくれてありがとう。

あなたをイメージしたから描けた絵であって、わたしひとりじゃ決して描けなかった絵が描けた、そんな貴重な経験だった。

またひとつ絵の仕事ができた。

嬉しい。

絵を渡せてしばらく絵の話をしたあとに、また違う話でも花が咲いて、わたしたちは友人になっていた。



全部が終わってから思い出したのだけれど、今年の春にnoterさんとお互いのイメージ画を送り合うというのをさせてもらった時にこんなことを書いていた。

"イメージ画を描いていて、これでいいのかなって描いている時はたくさん悩むけれど、こんなふうにわたしと関わってくださる方のわたしが思うイメージ画を描けたら楽しいかもなあと、ちょっとだけ新しい気持ちも芽生えました。

いつかまたやってみたいな、なんてそんなふうに思っています。"

気づかぬうちに叶っていたことに気づいてびっくりした。

本当にいい経験をさせてもらった。

自由に描かせてもらえて本当に有難かった。

「私で終わらずにもっとこの仕事やっていってほしい」なんて最高の言葉までくれた。

嬉しかった!

楽しかったーーー!!!!

ありがとうと何度でも伝えたい。




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今日も、ありがとうございました。

まるすけ

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