『離別』


「わたしは!幸せにしてほしいなんて頼んでないよ!!」

そう叫んで目の前にある手を反射的に弾いた。青紫の瞳が驚きと悲しみに満ちて行くのを見て失敗したと、思った。兄を拒んではいけなかったのに。わたしだけは、絶対駄目なのに。それでも謝罪の言葉も引き止める言葉も口に出すことは出来なくてただ嗚咽が漏れる。床に落ちる複数の雫が広がって行く。いつもならわたしが泣いていたらすぐに駆け寄って抱き締めて慰めてくれる声も体温もここには無く。「りりあ……ごめん」それだけを囁いて去っていった兄の手に縋ることもせずにわたしは自分可愛さに泣いているだけ。

わかっていたのに。

拒んでしまったら、そしたらお兄ちゃんは。きっと、わたしの前から消えてしまう。りり、またねってそう言って二度とわたしの前に現れなくなる。ねえ、どうしたらいいの?喧嘩なんてしたことないの。1回崩れてしまったらわたし達はもう駄目だよ。ふたりきりで生きて行く中で、わたしたちはそういうせかいを作ってしまった。
なにもこわいことなんてない、しあわせなキレイなだけの優しいせかい。

でも本当は。
お兄ちゃんの弱い所も不満も辛さもちゃんと知りたかった。子供だからって隠さないで妹だからって何も言わないでそんなのずっとずっと嫌だったよ。我慢も沢山したもう嫌だって思ったこともいっぱいあるし何よりこのお家にお兄ちゃんが居ないことが時々本当に耐えられなくなる。ここで一緒に住んでるおじさんおばさんは優しいし沢山愛してくれてるって分かるけどだからこそお兄ちゃんがここに居たらいいのにって、いつも、いつも、いつも。喉がひきつる。

────だれか、たすけて。