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人々よ、私を見た目だけで判断するでない

自分で言うのもなんだが、私の顔は童顔で可愛らしくて親しみやすいタイプの顔らしい。おいおい、自分の顔について過大評価しすぎでは? と思われるかもしれないが、これは顔タイプ診断というイメコン結果でしっかりと出されている事実なので、根拠のある主張なのだ。
確かに童顔ということは否めない。生まれてかれこれ30年半、実年齢より下に見られることの方が圧倒的に多い。髪の毛を伸ばしたら少しは年相応に見えるだろうか? と思い伸ばしたこともあったが、そんな仮説はむなしく立証されず、「短い方が似合ってたで」と家族、友人、お世辞を言わない同僚たちに言われる始末なのだ。
可愛いかどうかは人によって基準が違うので、これについては今は議論せず、一旦横に置いておきたい。親しみやすいかどうかで言われると、街中をボーっと歩いていると、人に道を聞かれたり、少し怪しそうな男女二人組に「今ちょっとお時間よろしいですか?」と聞かれたりすることが多い気がする。ちなみに「今ちょっとお時間よろしいですか?」に対しては「あ、すみません、彼氏待たせてるんで……」と言って断ると決めている。もちろん彼氏は架空の人物だ。

というわけで私は実年齢より若く見られがちな、可愛くて親しみやすい顔をしているのだが、この顔に関してはデメリットもある。それは、なめられやすいということだ。

大学生までは、そんなこともなかった。デメリットだなと感じるようになったのは、社会人になってからだった。新卒や社会人3年目くらいまでは、実際に若いので多少そういう態度をとられたとしても仕方ないところはあったのかもしれない。営業職なので、受け持った担当が自分より一回りか、それ以上年上というのも特に珍しいものではないし、親より年上の人もいる。でもお互いビジネスなので、いくら年齢差があろうが、私が年下だろうが、ある程度の常識やビジネスマナーを携えて取引を行っている。ただ、残念ながら、そうではない人が少数にしろ一定数いるのもまた事実だ。28歳くらいになり、社内でも一番下っ端というポジションから少し上がって、中堅手前くらいになっても、そんな顔だからか、やはり25歳くらいの社会人3年目です! と相手に思われてしまい、人によっては強く出られてしまうのだ。

先日も、部下になめた態度を取られてしまった。

現在在籍している会社に勤めて約5年。入社以来ずっと営業職だったが、8月付で異動になった。異動になったということは、それまでの仕事や担当先を誰かに引き継がなければならない。私が引き継ぐ相手は、38歳男性で、入社時期は私の1ヵ月か2ヵ月後で、なんと営業職の経験が一切ない人だった。

現在営業職をやっている人に引き継ぐならば、かなりラクだった。商談スケジュール
や数字の報告等、要領がわかっているからだ。そういう人に引き継ぐならば、担当先への挨拶同行と、軽い事務作業を教えるだけでOKなのである。

営業経験がないだけならまだ良かったのだが、彼は社内で少々、いや、結構問題児とされていた。いい歳したおっさんを捕まえて問題「児」はないと思うが、まぁ、なんというか、はっきり言って難癖のある人なのだ。

難癖といっても、反抗的とか威圧的とか、そういうものではない。そういうものではないのだが、なんか、軽いのだ。こちらが真剣に話していても、なんだか相槌が軽い。「わかりました~」とは言うものの、本当に理解をしているのかはまったく不明で、なんだか軽く聞こえるので「本当に大丈夫なのか……?」とこちらが不安を覚えるような態度なのだ。そして極めつけには「これってどうするんですか?」と、一度教えたことをあたかも「俺、初めて聞くっす!」とでも言えそうな態度で何度も聞いてくる。そして私は「おい、全然大丈夫じゃねーし、全然わかってねーじゃねーかよ」と思い知るのだった。

そしてその問題児ぶりを知っていた上司からは「基礎から徹底的に、立ち振る舞いに関しても徹底的に指導をするように」と指示を受けていた。基礎とは、もちろん営業の業務に関すること全般である。立ち振る舞いについては、彼の人の話を聞く態度であったり、相槌の打ち方であったり、そういうところの指導を指す。

正直なところ、いくら社歴が変わらないとはいえ、年上でしかも難癖ありとわかりきっている人を相手にそんなことはしたくない。自分のストレスが多大なものになることなんて、やる前からなんとなく想像はつく。私も異動先の業務を引き継いでもらい、覚えなければならないのに、いつまでもその人に対して付きっ切りで引き継ぎや指導ばかり行えない。いやでもしかし、上司からの指示だ……。

こうして難癖ありの部下に対して、引き継ぎ兼指導の日々が始まった。

最初は、いたって普通に業務を引き継いでいた。取引先が来社の際は事前にその取引先の詳細を説明しておき、来られたら挨拶をし、後任だと紹介し、取引先が帰られたあとに、その日の商談内容の再確認や理解度の確認、その他補足事項を説明する。日々の事務作業をはじめとする業務に関しても同様で、無理のない量を、本当に少しずつ教えていっていた。

しかし、やはりとはあまり言いたくなかったが、彼は問題児であった。教えた内容を、正しく覚えてくれない日々が続いた。
物覚えの早いタイプと遅いタイプがいて、要領の良い人もいれば悪い人もいる。それはわかっているのだが、私から見る彼はそういうのではなく、学ぶ姿勢や意欲が圧倒的に欠けていると感じた。

最初のうちはメモも取らないどころか、メモを取るためのノートも持っていなかった。別にメモを取って覚えようとしてくれるのであればチラシの裏とかでも別に構わない。ただ、それさえもない。私はまず「一度聞いて覚えられないなら、メモを取りましょう」という指導をした。
「メモを取るのが間に合わなかったら言ってくださいね。私、一旦説明するのやめるので」と彼に言った。すると彼は私の説明中に「ちょっとメモ取らせてください」と積極的にメモを取るようになった。取るようになったのだが、そのメモを見返したり、復習したりすることは一切なかったようで、一度教えたことをあたかも「初めて質問します!」というテンションで、同じ質問を何度も私にぶつけてくるのであった。

さすがに、それが1ヵ月くらい続くと私も自信がなくなってきた。私の教え方が悪いんだろうか? と考えることも多くなったし、それを上司や先輩に相談することもあった。しかし、上司からの指示である。やらなければならない。私は指導法を変えた。今まで多少柔らかかった態度を、淡々とした態度に変えてみた。

よくよく考えれば、友達ではないし、特に仲良くなって友達になろう! という関係性ではないのだから、フレンドリー感をなくしても特に問題はない。本来の目的は、私が担当していた業務やお客様を彼に引き継ぐこと、そして立ち振る舞いを注意することなのだ。そこに余計な感情はいらない。うん、これは仕事だ。上司からの指令だ。私はそれを淡々とこなせばいいだけなのだ!

という考えに行き着いた私は、さっそく翌日から指導法を変えてみた。淡々と、業務に関する引き継ぎを行い、「人が喋っている時に返事や相槌を被せないでください」と言い放った瞬間、言われた。「もう、限界です」と。不貞腐れたような、逆ギレにも近いような、そういう態度で言われた。いや、てか、「もう限界です」とな……?

もちろん、限界の意味はわかっている。いや、しかし、何が限界なんだ。

「その高圧的な態度が、もう限界です。こっちも人間なんで……」と言う。いや、ワシも人間なんやけど。感情あるねんけど。お前にワシはどう見えてんのや? 人間ちゃうんか? あ?

それから少しの間、彼がなんだかんだ言っているのを聞いていた。聞いていると、だんだん腹が立ってきた。いや、こっちだって好きで大して社歴の変わらんおっさんに手取り足取り指導してんちゃうねん。できたらベテランに引き継ぎたいねん。でも上司の指示やから、仕事やからやっとるねん。ていうか、こっちだってお前のその学ぶ姿勢の悪さに疲れてるねん。自分の教え方が悪いんじゃないかなって悩んでてん。それを人に相談したりしとってん、こっちは。せやのに、なんや、お前は。限界まで努力してない奴に、なぜ私が限界を感じられなければならないのだ。

むかつく、むかつく、むかつく。

彼が一通り話終わったタイミングで素早くスマホを手に取り、上司に電話をかけた。
「今、彼、目の前にいるんですけど、限界だそうです。どうしたらいいですか?」
「おー、そっかー。じゃあ一旦引き継ぎ辞めてくれ」
「はーい、わかりましたー。引き継ぎやめまーす」
上司との通話が終わり、私はフゥーと、息を吐いた。

その間、彼は私の顔やスマホを持った手元を見て、面白いくらいに目がテンになっていた。私は目にありったけの怒りの感情を乗せて「私にも感情はありますよ」とだけ言い、その場所から去った。

今回の出来事で思ったことがある。それは、彼はきっと私のことをなめていただろうな、ということだ。
私の勤めている会社はピラミッド型の組織図なので、年齢ではなく役職により上下関係がしっかりとある。そして、彼の位置から見て私は上だ。普通、部下が上司に反発するのってよっぽどのことではない限り起こらないだろうし、意見を言うだけならまだしも、不貞腐れた態度を取る理由にはならない。それでも彼は、私に対して不貞腐れた態度を取ってきた。それはやはり、彼が私をなめていたという理由のほかないだろう。

そしてなめられた理由というのも、恐らくではあるが私の顔を始めとする見た目で判断していたのだろうなと思う。幼く見えるし、女だし、年下だし、普通にしていれば、何なら大人しそうにも見える(らしい)。男で、しかも年上の自分が少し強く出れば「そうですよね……。すみませんでした。私もこれから態度を改めるので、また一緒に頑張りましょう!」とかなんとか、そういうことを言うだろうと思っていたのだろうと思う。だからこそ、私が即刻上司に電話をかけて今起きた一連のことを報告したのを目の当たりにし、呆気に取られて一言も発せなかったのではないかと推測する。

どちらかと言うと、私は気の強い方である。そして「喧嘩は売るな、でも売られたら買え」という、普通に考えて女子にするべきではない教えを父から受けてしまっている。女子校ではないが中学、高校、大学と女子の多い環境に身を置いていたこともあり、それなりの修羅場も潜り抜けてきている。無駄にメンタルは強くなってしまっている。理不尽な態度に対する対処くらい、怯えることなく怯むこともなく、自分で打ち負かすことができてしまう。

残念だったな、私はそんな弱い女ではない。

上司からも叱られ、観念したその人は、やっと私の言うことを聞いてくれるようになった。これで私の仕事も少しは前進するだろう。いや、そうでないとまずい。

人々よ、私を顔や雰囲気だけで判断しない方がいい。私はそんなにヤワな女ではないのだ。


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