「一瞬とは、どのくらいの長さなのか?」

 国際基督教大学(ICU)のウェブサイトには、「リベラルアーツ教育を体験する」仕組みが用意されている。体験用のページでは、「一瞬とはどのくらいの長さなのか。」と問われ、考える時間が10秒間与えられた。10秒後に表示されるページでは、「教授陣による回答」として、中国の故事やアジア通貨危機(1997年)などの様々な専門分野の情報に基づいて、「一瞬の長さ」について論じられていた。例えば、「アジア通貨危機」から「一瞬」を考えた場合のページでは「時の刻み方の感覚を共有するのは困難であるが、大きなショックが短期間でもたらされた時、実際の長さとは関係なく『一瞬』の出来事と感じるのではないだろうか」と掲載されていた。
 ICUのカリキュラム・ポリシーでは、リベラルアーツ教育の考え方である"Later Specialization"(専門化を急がず、自分にあった専門を見きわめるべく幅広く学ぶための時間を重視する)に言及されている。「一般教育科目」が、人文科学、社会科学、自然科学の3系統から構成され、さまざまな学問の本質に接する機会が与えられる。専攻したい分野の発見と、複数の視点から専攻分野を位置づける機会、その両方を提供するリベラルアーツ教育を実現するカリキュラムが組まれている。
前述した「一瞬とはどのくらいの長さなのか。」という問に対して、ICUが提供するリベラルアーツ教育の環境で過ごした学生はどのように答えるだろうか。ICUで出会った様々な分野の中から、自分自身が学んだことを生かして、独自の視点から問に対する答えを導き出すだろうと考えた。

リベラルアーツ教育の課題について

 リベラルアーツ教育の実現には、専門分野に大きな偏りがなく多様であること、幅広い年代層・社会的バックグラウンドの方向けに分かりやすくお話ができる人材が必要であること、など様々な課題が考えられる。また、教育機会をどのように提供するか、例えば、インターネットを使ってオンライン配信をするのか、高等教育機関の科目として提供するのか、など、仕組みの設計も必要になる。しかし、最も重要なのは、国際的な動向(ユネスコやOECDの提言)を知り、経済発展だけでは持続可能な社会の発展は難しいことを認識し、個々の豊かな生活・ウェルビーイングを実現するために私たち一人一人が行動することだと考える。奇しくもコロナ禍により「個の時代」「ニューノーマル」の生活への転換が進んでおり、学び直しに興味を持つ人が少なくないのではないかと考えられる。個々の豊かな「ニューノーマル」の生活を実現するため、「ウェルビーイング」という概念や「リベラルアーツ教育」に関する正しい情報の提供を期待したい。

リカレント教育の推進について

  生涯学習は世界の共通課題であり、ユネスコやOECDが様々な資料を公開している。OECDが想定するリカレント教育は生産性の向上を目的として掲げているのに対して、日本はいわゆるカルチャーセンターで提供されているようなプログラムが生涯学習のひとつとして位置づけられており、OECDが想定する生涯学習と日本国内の実態を注意深く比較する必要がある。また、経済発展だけではサステイナブルではないとの気づきから、ウェルビーイング(豊かな生活)に寄与する発展にも注目したい。
 日本国内の教育政策によるリカレント教育の推進については、文部科学省から公開されている資料で確認できる。どの資料においても、リベラルアーツに関する言及はあまり多くないという印象を受けた。ICUのリベラルアーツ教育の「専攻したい(学びたい)分野の発見」と「複数の視点から(自らの)専門を位置づける機会」を、リカレント教育に組み込むことで、多様な考え方を持つ人々から構成される社会において、お互いの価値観を尊重し、ウェルビーイングを実現する健全な発展が期待できると考えた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?