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【突撃】AI inside渡久地氏のKPI設計思想を公開取材

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※ 本記事は2022年11月26日に行われた「FastGrow Conference Learning from SaaS」のイベントにおける「SaaSのセオリーに囚われては事業成長を逃す エクスポネンシャルな成長を志向するKPIの立て方」セッションでの対談内容を記事化したコンテンツです。

登壇者:
AI inside 代表取締役社長CEO兼CPO 渡久地 択
Primary 運営 アナリスト 早船 明夫

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AI insideは「SaaS企業」ではなく、AIをSaaSとして切り出してきた会社

—―― 渡久地さん、早船さんの会社紹介、自己紹介からお願い致します。

渡久地氏:AI insideの渡久地です。私は開発者として、2004年から人工知能の研究開発を始めました。当時はAI自体があまり売り物にならない時代ということもあり、AIを取り入れたITサービスをいくつか立ち上げていました。

しかし、2012年にディープラーニングが世に出たことが転機となり、AIをサービス化する土壌が整ったため、AI insideを創業しました。我々は世界中の人や物にAIを届けていきたい、その基盤になっていきたいと考えています。

現在AI insideは、企業や政府自治体がDXするためのサービスを提供しています。

そもそものデジタル化ニーズに対応し、業務効率化するため、誰もがAI OCRのようなAIを使えるサービス「DX Suite」を提供しています。

次にデジタル化できたものを活用するフェーズは、お客様次第で様々なAIが必要になります。スケーラビリティがないため、実証実験で1件ずつ開発するわけにはいきません。

そこで誰もがAIを作れる環境を提供する「Learning Center」の提供を開始しました。DX Suiteを開発してきたテクノロジーをAPI(Application Programming Interface)で公開しているため、ユーザーも我々と同じようなサービスを作ることができます。例えば、工場での不良品検査や在庫予測に活用されています。

早船:SaaS企業や業界分析に特化したメディア「Primary」を運営する早船です。

私はデータ組成や取材・分析コンテンツを提供しています。またSaaSを中心にベンチャー投資を行うUB Venturesやその他外部メディアでの記事の執筆も行っております。

まず、私個人のAI insideさんへの見解をお話しすると、AI insideはSaaS企業として認識されているケースも多いですが、SaaSを主体とした企業というよりも「AIを中核にSaaSとしてもプロダクトを切り出している企業」という捉え方が正しいと考えています。

そういった観点もあって、KPIの立て方や考え方が一般的なSaaS企業とは少し異なると感じていました。

過去に数度、渡久地さんを取材している中で「エクスポネンシャル(指数関数的)」な成長というワードを使われていることがあり、そのような視点で意思決定をされていることが特徴的です。

SaaSといえばサブスクリプションビジネスと捉えられがちですが、従量課金等のモデルを取り入れるなど、多様なビジネスモデルに取り組んでいます。

当初から「SaaSのセオリー」に捕らわれることなく、独自の戦略をとってきた渡久地さんにその詳細や背景を聞いていきたいと思います。

SaaS KPIの前提とAI insideが独自に重要視する指標

早船:近年のホリゾンタルSaaS企業ではCAC、LTV、Churn、ユニットエコノミクスといった指標を用いて、KPIとすることが一般的です。これは説明や理解のしやすさゆえに、投資家サイドからも開示を求められてきた経緯があります。

渡久地氏:例えば、CAC(Customer Acquisition Cost)は「いくらかけて顧客を獲得するか」という顧客獲得単価ですが、SaaS企業では広告宣伝費などにマーケティングコストをかけるのが王道パターンになっています。

あるいは顧客生涯価値と呼ばれるLTV(Life Time Value)について、LTV/CACが3倍以上なら良いといった定説があります。

これらの指標は、企業間の横比較が可能で分かりやすいですが、事業者や投資家側からの観点が強く、顧客体験が反映されづらいと考えています。

顧客にとっては「早い、安い、旨い」に越したことはありません。また「旨い」が無ければ、どれだけ早くて安くても意味がなく、この感覚がサービスを提供する上でまず重要です。

私たちのビジネスにおいて言えば、文字認識精度の高さこそ「旨さ」にあたります。そのため我々にとって最も大事な指標は、どのくらい使われているかを示すAIへのリクエスト数(AIの作業量)やデータ量です。

顧客にとって安くて導入しやすい方がデータ量を増やせます。つまり旨くするために安くするというのは意外と合理的で、むしろLTVを上げるために単価を上げることは、顧客にとっては不適切にもなり得ます。

早船:本来的には、さまざまな個別性を踏まえた上で、SaaS KPIを捉えていく必要がありますが、概念が広まっていく中でやや「万能な期待」をかけられてしまった経緯があると思います。

* 企業データが使えるノート作成 カンファレンス資料より

この数年のSaaS KPIの前提は、会計やHR領域のようなホリゾンタルかつ業務系のSaaSが念頭に置かれています。

一方で、従量課金やPLG(Product-Led Growth)のようなモデル、あるいは特定のセグメントに多様なプロダクトを展開するバーティカル領域では、上手く当てはまらないという声も多数の起業家から耳にします。

加えて、KPIの不確かさも意識する必要があります。

例えば、解約率の逆数であるLTVを計算すると、使用年数が数十年になってしまうことがありますが、これは実際には現実的ではありません。(ビジネス映像メディアの)PIVOTで代表の中島さんが直接話されていたのであえて製品名を出しますが、電話面談システムのbellFaceは、コロナ前まで低く抑えていた解約率が環境の変化によって急激に悪化したという事例もありました。

このようなアンコトローラブルなことも発生し得る中で、ユニットエコノミクス(LTV/CAC)にどれだけ堅い継続性があるかといった観点は、常にもっておく必要があります。

あるいはSaaSを起点とした法人カード事業への注力をみせているfreeeのように、SaaS以外のビジネス展開をしていくと、企業価値や将来性をSaaS KPIだけで測ることが難しくなっていきます。

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