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よしながふみ『大奥』雑感2

長すぎたので分けました。後半は正直家定様のことしか覚えてません。だいたい妄想です。

徳川家定と家光

三代将軍、最初の女将軍であった家光となんとなく顔が似ていることと、その理由について、私は家定のことを「幸せになれた(周囲の人に恵まれた)家光」という解釈をしています。(妄想です)

出自に振り回され、歪んだ愛を向けられ、育った環境が「女のくせに」という価値観だったため自身を仮の将軍としていた点も同じです。そのため、他者を信用せず疑い深くていつも気を張っているところも似ています。二人とも気が強くて素直な感情を表に出せないのは、有功が言っていたような気位の高さではなくひたすらの自衛手段ですよね。

家光には有功しかいなかったし、有功が本当の意味で彼女にとって救いだったのか?ということはわりと疑問なので、家光にとっての有功がもし家定にとっての正弘だったり滝山だったり胤篤だったりしたら…と考えてしまいます。

あと全将軍をしっかり調べたわけではないのですが、おそらく史実として伝わっていることから1番遠いのが家定だと思います。実際の家定は脳性麻痺もしくは発達障害だった可能性が高く、癇癪持ちで見た目も眉目秀麗とはいかない人だったようです。つまり家定編はオリジナル部分が多く、作者が描きたかった話なんだと思います。そう思うとよりいっそう涙腺が緩む。

家定と胤篤(天璋院)

二人の顔が好き!

二人の会話の中で、没日録を読んで家斉と同じく「己の一生も長い長い徳川の物語のなかのありふれた悲しい話のひとつだと思うことで救われてきた」という感想を持つ家定。悲しい一生として挙げたのが家光、綱吉、家重というところが家定らしくて好きです。作中さして注目されてこなかった将軍としての家重の生涯を「悲しい」と思う優しさが。

家定が胤篤に気持ちを伝えたことで正弘の思いが報われたと思うと本当に泣ける。

家定が亡くなってからも「私にとっての女性とは家定公ただお一人だ!」って言ってるの、可愛くて笑える場面なのに、めちゃくちゃ泣いてしまいました。家定が好きになった相手がこの人で良かった~~~と親戚みたいな距離感で思ってしまう。

阿部正弘

カステラ見ると涙が…(四月は君の嘘を観たらカヌレで泣いてしまうしガンスリンガーガールを観たらパスタで泣いてしまいます。)

正弘はもう何していても大好きなんですけど、特に好きなのは「月に4度あった嫌なことが2度になった、私はそれでじゅうぶんだ」と遠回しに感謝を伝える家定に対し、「私は何をしているのだ」と苛立ちを覚えるシーンです。家定はバレたら動いている正弘がどうなるか分からないという不安からもういいと伝えたのだと思いますが、正弘は安堵することも喜ぶこともなく、自分の無力さを呪っているんですよねー。はー。なにこれ。愛が深すぎる。これはもちろん恋愛ではないし、友情でもなく、このときの正弘に忠義心と言えるほどのものがあったかどうかも微妙で、正弘は本当に人としてすごい。

もう1つは最後の別れを伝えに来たとき家定が「馬に乗っている」でも「庭に出ている」でもなく「笑っている」ことに涙を流して喜んだのが正弘の願いは本当にずっとずっとそれだったんだなあと思わされて、だからこそ死期が近づいていることがよりいっそう悲しくて、初めて読んだときはあそこで涙が止まらなくてしゃくりあげるほど号泣してしまって一回読むのをやめました。

家茂と親子(和宮)

家定と胤篤の場合、家定(ちょっとわがままなほう)が将軍であったことと胤篤も家定も頭の切れる人物であったこと、家定の表情は不機嫌でも周囲に手を尽くす性格によって、ある程度印象が緩和されていましたが、この二人はそういうふうには受け入れられませんでした。家茂の人の良すぎる性格とは対照的に親子さんがわがまますぎて…

それでも最後に家茂が会いたいと願ったのは親子さんだったんですよね、運悪く激動の時代に若くして将軍になってしまったプレッシャーに押しつぶされそうななか、彼女にとっての癒しが親子さんたちといる時間だったんだなー。歴代将軍の中でも人の良さで言えばトップクラスの家茂がわずか20歳で、死にたくないと願いながら苦しみ悶えて死んでいくのは正直ちょっとトラウマです。

妊娠出産について

男女逆転した日本で、逆転できなかったものとして真っ先に上がるのが妊娠出産だと思います。そのために歴代将軍が悩むということがずっと描写されてきました。

18巻で、「家茂の代わりに出産する」(?!)ととんでも発言をする親子さんに対し、「体のお小さい宮様にとって、出産はおそらく命にかかわる大事になりましょう。私にはあのお優しい上様がそのような役目を宮様に担わせるとはとても思えませぬ。」の台詞。

もうこれがすべてだよ…語彙力消えた。

更に言えば「若くても丈夫でも何人もの子持ちでもお産はいつも女にとって命懸け」と言ったおるいと、日本全国の母と子供のために戦い救えなかった無念を叫んだ黒木良順の子孫が、この台詞を言うんですよね。涙枯れました。

家茂に「大事なのは血の繋がりではない」と気づかせてくれたのは、本来の相手でも男でもなかった親子さんだと思うので、黒木が親子さんを止めてくれてほんと良かったです。

大奥いいよねーって話

家茂の台詞「みな髪のことを言うけれど、私はむしろ頭が軽くなって清々とした気持ちでいるのだが。」

家斉が将軍だったのときの権力に抵抗した黒木・伊兵衛・僖助、妊娠出産した将軍・しなかった将軍(特に本当の夫婦ではない家茂と親子さん)、お菓子作りを趣味とした家定や甘いものが大好きだった家茂と「甘いものよりお酒が好き」と言った女性たち等、既存の価値観を否定せずそれに染まれなかった者への希望を描くことが根底にある気がして、だけど誰かを傷つけることを許すわけじゃなくて、そういう作者の倫理観がすごくきちんとしていると思っていて、だから大奥が好きです。

来年で完結してしまうんだなと思うと悲しい。

あいざわ

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