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わたし、しんだらしい。

副題 死んだつもりなだけなのかも

「卒業は女子高生の死です」

先生が言った。
倫理の授業は面白くて楽しくて、でも生き方を習う、とかいう重めなテーマが据え付けられた授業の割には先生のおかげか和やかで、ちょっと眠かった。
ハイデガーのとこだった、気がする。
倫理のおじいちゃん先生ガチオタクだったわたしは、倫理だけが得意だった。
1年前の話だ。
1年前の授業で、へえ〜〜って思って、卒業式でも、へえ〜〜って思った。実感がない。

卒業したら女子高生として死んじゃうらしい。
というか、死んだ。こないだ死んだ。
3月1日、晴れてよかった。天気予報はぎりぎりまで雨だったけど、めちゃくちゃよい晴天だった。あったたかったし。

そうだ、手紙書こう。

そうだ、京都行こうみたいなノリで、今まで関わってきた人全員にメッセージを押し付けようと思ったわたしは、百均まで1000円分のレターセットを買ってきた。百均舐めててごめん。めっちゃ可愛いものばかりだった。
国公立の入試が終わって、その次の日に買いに行った。数日前の話だ。

そしてわたしは自分の計画力の無さを後悔することになる。合計40人をリストアップし、その日のうちに5人分書いた。あとは卒業式前夜に書けばまあなんとかなろう、と思ったのが馬鹿の始まり。こうやってレポートもどんどん引き延ばしにして追われるんだろう、大学生活が垣間見えて震えた。
2月28日午後9時から手紙を書き始めたわたしは、一睡もせずに卒業式を迎えることとなる。9時間。前に書いた分も合わせると11時間。
友達の誕生日には手紙を書くわたしだが、こんなに長い間人のことを想って書き続けたのは初めてだ。

Spotifyのシャッフル再生と共にノリノリになりながら書いた午後9時。
ちょっとエモに浸りたいなって開いたYouTubeの、星野源のfriend shipですすり泣いた午前0時。
眠気と感謝で大号泣しながら書いた恩師への手紙、午前4時。
最後まで取っておいた相方へ全力の愛を詰め込んだ、午前6時。

夜明けが来て、全部書き終わって、やっと、重みを背負った。
親友、相方、仲間、戦友、イツメン、同盟、やばいやつら、アベンジャーズ。後輩、先生、恩師。
みんなとわたしの間には、何かしら名前があった。関係性のタグ付けがされていた。

わたしはずっと死ぬつもりだった。
何をそんな物騒なこと、って思われると思う。
だけど書く。
今の「私」から死ぬこと。
ひとつめ。見た目を変えること。8年ロングだった髪をバッサリ切ること。これでみんなから見た「私」ではなくなる。がっつりメイクをすること。これで自信の無い「私」から変われる。
………変われるって断言できないけれど。でも、一歩、一歩と言わず何歩でも、進んでいきたい。
ふたつめ。精神的に、変わること。変えること。能動的に、変えること。イジりとか冗談だってわかってても結構キツかったから。
「何言っても怒らなそう」ふざけるな、わたしはそんな可愛い女じゃない。
やめてよって言っても笑って受け流されるってことは、そういう人間に思われてるってことだ。
だから変えなきゃ変わらなきゃ。

わたしのなりたいわたしになる。
だれもしらないわたしになる。
わたしもしらないわたしになる。


だから、今までの自分を殺す。自分はそうして死ぬ。あたらしい自分に生まれる。


掲げてきた3ヶ条は強迫観念になっていたのかも。
今ならそう思える。
だって、人間、そんな、ハイッ卒業しました!ハイあなたは違う人間!って。そんなの、一瞬で変わるとか、ありえない。

手紙はみんなとさよならするために書いた。
関係性の「名前」のあるみんなの前で、めちゃくちゃ楽しくてもどこか心を許せない自分とさよならするために書いた。
このままじゃ、もう、悲しかったし寂しかった。
関係性に縛られる自分が嫌だった。人格を使い分ける自分が1番醜かったし気に食わなかった。
みんなと、自分への、決別の手紙だ。

てことで、卒業式に手紙を渡して。卒業のおわかれもして。なんだかんだで親友たちと最後まで教室に居残って。
いざ、花束片手に校舎を後にするとき、ちらっと振り向いて、空が真っ青だったこと。顧問から貰った一輪のバラのピンクがよく映えていたこと。
ここには、たしかに、わたしの6年があったということ。
嫌だったこと苦しかったことイライラしたこと泣いたこと、それだけじゃなかった。笑いあったことだってたくさんあった。もしかしたらそっちの方が多かったかもしれない。
わたしがもう今後連絡を取らない、そんなこと微塵も感じていなさそうなゆるけきった親友の横顔を見て、やっぱり、もう涙腺がだめだった。
何に泣いてるかわかんないけど、泣いて、泣いて、泣いて。傍を通りかかった校長に慰められて。
本当は第一志望に行きたかった。個別指導の先生に不合格の話をするたびに、自分ではあれだけ心で落とし込んだはずなのに、涙が止まらなかった。さっきの死ぬとかいう続きになるけど、わたしは、第一志望の学部に落ちたら本気で死ぬつもりだった。ずっと。

ここには確かに青春があった。
思い出は掴めない、掴めるものが欲しい。誰の言葉だったか。
中高一貫校だったわたしは、この校舎で6年過ごしたわたしには、もう覚えてきれてないけれどたくさんの思い出があった。
それは事実だ。今となってはもう、泡沫のように消えてしまった。思い出は掴めない、掴めるものが欲しい。「関係性」は掴めない、掴めるものが欲しい、欲しかった。
何が欲しかったんだろう。インスタの誕生日ストーリー?お揃いのゴムバンド?ちがう、ちがう、そんなもんじゃない。わたしは、ただ、ともだちのかたちを、掌で包み込んで、安心したかっただけで、

それって、ただの、醜い承認欲求。
欲しがるばっかで。欲しがるばっかで!!
あの時、あの子がくれた言葉。なんだかんだで愚痴を聞いてくれたあの時間。掴めないものだって、今まで書き連ねてきた日記で、自分が掴めるものにしてるっていうこと。
ほんとはたくさん貰っていたのに、全く見えていなかったわたしが、いちばん醜いことに、気付いた。

幸せなことに、第一志望の学部の大学と一緒の大学に進学する。
明日から、4月1日から、わたしも大学1年生だ。

『ください ください ばっかで
何も あげられなかったね
生きてきた 意味なんか 分からないまま』
(藤井風「帰ろう」)

どんな4年間を過ごすのか。
今度こそ、人になにかをあげられるようになりたい、いろんな人にもらってきたものをかき集めて。周りが目に入らないわたしは、少しのヒーローエゴが必要なんだろう。

『夢が叶うそんな運命が嘘だとしても
また違う色混ぜて また違う未来を作ろう
神様がほら呆れる頃きっと暖かな風が吹く』
(UNISON SQUARE GARDEN「春が来てぼくら」)

第一志望の学部で学びたい学問を学ぶことはできないけれど、わたしはあたらしい場所でちがう未来を作る。何年も憧れてる職業に就くために、どんなことでもやる。

0.0000000000001%の可能性でこのnoteを見てるかもしれない、わたしの知人へ。関係性の名前はもう消した。
積極的な疎遠活動、ほんとうにごめん。
あたらしいわたしに、わたしがわたしらしくあれる、そしてこころからわらえる、わたしになれたら。
あなたが好きでいてくれた昔のわたしとは違う人間になってるかもしれないけれど。
どれだけ時間がかかるか分かんないけれど。連絡してもいいですか。ワガママすぎる、わかっているけれど、どうかどうか許してほしい。勝手に消えるわたしを許してほしい。

青春はどどめ色。

わたしの好きな「青春病(藤井風)」の一節。
どどめ色とは、名前は知られているのに正確な定義のない色、らしい。

じゃあ、わたしのどどめ色は。青春の色は。
きっと、最後に振り返った、卒業式の青空の色だ。

私に、さよなら、どうか安らかに。
知人へ、幸せでいて。

生まれてくるわたしに、おはよう。

ただ、今だけ、そう言わせて。

卒業は女子高生の死である。
じゃあ、入学は女子大生の生である。

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