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無音の街

東京の夜は明るい。
灯りひとつない真っ暗闇に包まれることなんて、きっとこれから先ないだろう。永遠の平和があればの話。

夜9時の地下鉄は混んでいる。降りようとしたら前にいたおじさんがスマホゲームをしながらゆっくりホームに出ようとしていて、後ろ詰まってるんだから早く降りてくれよと思いながら足を踏み出した瞬間に意図せず思いっきり蹴っちゃって、あっ、と思ったけれど、まあお互い様だよななんて心の中だけど言ってしまった自分が治安悪すぎて呆れた。
何も考えずに歩いていたら前から突然現れた人とぶつかりそうになる。この街、全体的に穏やかな心が欠けている気がする。

家に帰ればスマホの画面を見ながらコンビニのご飯を口に運び、ごちそうさまも言わずにゴミ箱へ放って、5分でシャワーを浴びたらスマホ片手に髪を乾かし、布団に入ってスマホを触る。次の日起きたら一度も笑顔を作らず真顔のまま支度を済ませて会社に向かう。みんなそんな生活してそう。偏見だけど。


深夜3時頃に部屋の窓から下界を眺めても、やっぱり街は光っていて、こんな時間なのに橋の上から車がこちらへ向かって降りてくる。あの車の運転席に座っている人は、どんな気持ちなんだろうか。仕事帰りかな。家に着いたらすぐ寝るのかな。

いつかの雨の日の夜。


東京の街が明るければ明るいほど、人間たちの心は死んでいっているように思う。

今すれ違った人は、何を生き甲斐にしているんだろう。
何が好きで、何が嫌い?
今日はどんな夢を見た?
大切な人はいる?

空っぽに見えてしまうのは何故だろう。
電車に座って前を見れば全員、寝てるかスマホを触っているかで、目なんて合うわけなかった。
東京の人はきっと、他人に興味がない。機械的な人間ばかり、そんな印象。私も東京の人だけど。

街を歩けばイヤホンをしていても色んな話し声が聞こえてくる。足早に通り過ぎてゆく人々の足音も、誰かの笑い声も、また明日と挨拶を交わす声も、色んな音が行き交う。

騒がしいそれらは、もはや無音の世界だ。

着ぐるみを着た大人たちの発するものは何もかも表面的で、何重にも壁を作って、内側に入り込むことを許してはくれない。
何も分からない、何も聞こえない、無音。
だからきっと東京に染まった人は他人に干渉するのを躊躇うし、深く干渉されたくないと思うんだろう。

朱に交われば赤くなるけれど、赤くなる前に逃げたい。
将来私もあの大人たちのように着ぐるみを着るのは暑苦しくて仕方ない。今はまだそう思ってる。

ただでさえ東京の夏はサウナなんだから。


この街はなんだか無機質でつまらない。
大自然の中にひとりでいた方が聞こえる音もある。

そばにいて欲しい人がちゃんと隣にいて、その人の声がいつだってしっかり聞こえるように、穏やかな世界で穏やかに生きていたい。


いや、たとえ無音の世界でもその人の声だけは聞けるような人でありたい。

そんなことを思った週のど真ん中の夜でした。










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