話さなすぎた話


今思い出しても嫌だ。

高校の推薦入試に集団討論というものがあって、6人ほどで15分間、テーマについて話し合った。

直前の小論文の手応えが全くなかった私は既にボロボロのメンタルで集団討論に臨んだ。しかし討論のテーマが発表された瞬間、私はトドメを刺された。

「東京オリンピックにどのように関わるか」

なんだよこのパリッとしねぇ、湿った煎餅みたいなテーマは!

まずオリンピックになんで関わらなきゃいけないかわかんないし、関わらないことが悪みたいな言い方やめろ!

オリンピックに関わることが前提になってるなら、まずオリンピックに関わることが絶対に必要であるという理由を書け!

話はそれからだ!

というか当時エンブレム問題だったり競技場問題だったりがあったし、IOC自体も悪い噂があったのに、よくそんなテーマ白々しく出せるな!

シンキングタイムでこのようなことしか考えてなかった私は言うことが当然なかった。最初に1人1つ意見をマストで言う時間があってそこから討論に進む流れだったが、自分の意見を適当に述べた後は(確か、ゴミ拾いをするとか言ったんだと思う。そのあと、ただ見て応援するだけでも別にいい的なことも言ったような気もする)、ずっと押し黙っていた。

私が黙っている間にも他の受験者たちはすごい話すし、しかもハキハキしてるし、1人めちゃくちゃあざとい言い方で皆を仕切る人とかもいて、本当にキツかった。

それに、私が黙ってる分だけ1人あたりの時間も増えるから、他の人がよりたくさん話しているように見えた。

みんなと自分の間に流れる空気が全く違うことに絶望しながら集団討論は終わった。

そしてそのあと、不合格は確信していたが、個人面接を受けた。

すると先生に言われたのだ。

「集団討論では全然喋れていなかったね、ハハハ」

いや............

そんなこと、言う?

ひどいなぁと思いつつも、たしかに自分の意思で受けた推薦入試でなにも喋らない奴がいたら怖いだろうなとも思った。

推薦入試は義務じゃないからだ。

入試自体義務じゃないのに、推薦入試はもっと義務じゃないからだ。

自分で参加したのに何も喋らない奴はどこにもいないからだ。

その上進路に関わることでそんなことする奴ならなおさらおかしいのだ。

仮にテーマが気に入らなくても、変に絶望したりせずに意見を考えるべきなのだ。


自分で受験を決めたのだから。

高校に入りたければ、無駄な尖りはやめるべきだし、推薦で嘘をついても全然悪くないのだ。

自分で勝手に選んだ高校に文句を言う方がおかしいのだ。

そんなこんなで推薦は不合格だったが、一般入試でその高校には入れた。

推薦受けなければよかったなと思った。


そんなことも忘れ2年ほど経ったある日、他のクラスの子と話す機会があった。するとこんなことを言われた。

「あれ、もしかしてふたばちゃんって、推薦で全然話してなかった人?話してなさなすぎて覚えてたわ笑」

びっくりした。先生だけじゃなくて生徒に2年経っても記憶されてるほど話してなかったのかよ....どんだけ話してねぇんだよ。

と思うと同時になんだか誇らしくなってきた。ああ、あのときの私は私なりに光ってたんだな。何も話さなかったのに、記憶には残るって、なんか良いじゃん。無理矢理意見を考えて合格しようとするのが普通ではあるけど、こんなテーマに答えるくらいなら不合格でいいぞ!という意思表示をしたことは、決して間違っていなかったのだ。嘘をつかないこと、それはもう"意見"だったのだ。

沈黙は口程にものを言うのだ。


そんなことわざなかったわ。

おわり

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