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【写真】人生初インド、ケーララのおもひで


自粛期間の巣ごもり消費とやらでまんまと散財してしまった。深夜に変な脳内物質をドバドバ分泌しながらポチった収穫物のひとつ、南インドケーララ州のレシピ本がようやく届いた。海外から取り寄せたので2ヶ月近くかかってしまい、その間に我が街の自粛要請は解除された。



まだパラパラと眺めた程度だが、半年前に初めて行ったインドのことがあれやこれやと思い出されたので写真とともにまとめてみる。
あと、NEUTRAL COLORSを読んでそういうテンションになったので。


たった半年前のことなのに、咽せ返るほど濃密だったインドの輪郭はぼんやりとして、すっかりコントラストが下がってしまった。
大脳皮質にはなんとなくノスタルジックなイイ感じの映像だけが残り、暑くて湿気った不快な空気や、鬱陶しいリキシャマンや、うんこくさい路地裏のことは忘れてしまった。人間は良かったことだけ思い出して生きていける生き物なのだ。ねぇくるみ。



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就航したての成田-チェンナイ便で到着。
チェンナイ-コーチ便への乗り換え時間は短く、とても胃が痛かった。わたし英語話せないし。


最後に行った海外は保育園児の時、サイパンだかグアムだか。色褪せた写真は残っているが何も記憶にない。

大人になってからは「日本でさえまだ行ったことがない場所だらけなのに」という訳の分からない理由で断固海外には行かないようにしていたのだが、そんな私が20代半ばでようやく大洋を越える気になったのは何を隠そうカレーのおかげである。カレーのせいとも言える。どうしてこうなった。はやく、またインドに行きたくてしょうがないな。



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ケーララに着いた翌朝、初インド飯。
メニュー表の配色の既視感がすごい。店内にはメッシのポスターが貼ってあった。

宿の近くの安食堂で食べた初めてのインド飯は、値段が安いのはもちろんだが、味も衝撃的だった。誤解を恐れずに言えば、雑なのだ。雑な味がする。旨味が薄い。日本のカレー屋さんがこんなものを出したら一瞬で潰れるだろう。なるほどな、こういうことか、ついに、本当にインドに来てしまったんだと、嬉しくなった。フォートコチ滞在中は3回ほどここで食事をした。



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チャイは普通にめちゃくちゃ美味しかった。



観光地にはあまり興味が無かったので、基本的にひたすら食べ歩きと、食材を見て周った。市場のおっちゃん達は陽気で、気さくにハローハロー話しかけてくれて楽しかった。

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エルナクラムマーケットをうろつく。

家にある馴染み深いスパイス、ネットでしか見たことのなかったスパイス、初めて見るスパイス、日本のものと微妙に形の違う野菜、知らない野菜、萎れた野菜、色んなものがズダ袋に山盛りに詰められていて、夢のような光景だった。
でも、バナナやココナッツの甘ったるい匂いも、色んな香気成分の入り混じった匂いも、迷路みたいになった細い路地も、耳慣れない喧騒の渦も、今では全部1と0の群れになってしまってもう元には戻らない。
デジタル化は不可逆性の呪いだが、記憶に記録するだけで済ませるような度胸もない。




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夕暮れ。
一段低いところに貧しそうなエリア。

ケーララ州はインドで最も識字率が高いらしい。インド全体の識字率は約75%(2011年)。
日本で暮らしているとそもそも「識字率」という概念に馴染みがない。人間は言語に依存しまくりの生き物なのに、読み書きが出来ないというのはどういう感覚なんだろうか。
物乞いにも会った。子供も老人もいた。運良く日本に生まれただけでボーッと20数年を過ごしてしまったので、月並みではあるが、当たり前の豊かさを享受するのになんか罪悪感を抱いたりした。身勝手な話である。
スラム街とか貧民街という言葉を使うのもなんだか躊躇われた、そんなことを気にしたってしょうがないのに。
きっとこういう場所にも美味しいカレーがあるんだろうな。ふらっと近づいたら、もしかしたら今日の晩ご飯を振る舞ってくれたかもしれないな。




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打ち捨てられたリキシャ。




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少年たち。
ロナルドって書いてあるけどバスケしてた。

インドは言わずと知れたヒンドゥー国家だが、クリスチャンも3%ほどいる。そしてそのうちの約30%はケーララ州に住んでいるらしい。
上の写真は教会がたくさんあるようなエリアで出会った子供たち。黒目の輝きがまぶしい。インド訛りだったがペラペラの英語で話しかけられて、自分の英語能力の無さが恥ずかしかった。
立派に育ってくれたまえ。あわよくば料理人になって日本でケーララ料理屋を開いてくれたまえ。




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フォトジェニックな果物屋さん。
スタイリッシュな店員さん。




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旅の目的。
美味しかったインド。

ガイドブックで入念に下調べして行ったレストランよりも、ふらっと入った安食堂の料理の方が印象に残っていたりする。
最近巷で流行っている「モノ消費よりコト消費」に加担するわけではないが、やはり「美味しい」ことだけが美味しさの要素ではないのだ。
屋台で買った5Rsのマサラワダが、味蕾と鼻腔に焼き付いて離れなくなってしまった。




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"悪魔の糞"ことヒングのお徳用サイズ。





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コチンの月(COCHIN MOON)。

今はCochinではなくKochiだが。コーチの月。
40年以上も前、氏も同じ月を見たのだろうか。同じように右手でカレーを食べて、同じようにお腹を下したのだろうか。
氏がこの月を見て何を思ったのか、サイケデリックな音楽から窺い知ることはできない。お腹を下している音にしか聞こえない。正直。





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灌漑用水路に沿って生活する人たち。

アレッピーの水郷地帯では、広大な水田の間を通る灌漑用水路が生活に根付いている。
そこに暮らす人たちは水路で洗濯をして、食器を洗って、漁をして、小さなボートで対岸へ渡る。
我々のような観光客はハウスボートと呼ばれるベッドルームやシャワールームが付いた豪華な舟に乗って悠然と水路を巡り、たっぷりの外貨をアレッピーに落とす。操舵手と料理人は付きっきりである。この時は年末年始の超ハイシーズンで、大小さまざまなハウスボートが水路を賑わせていた。
インド人は舟でもすぐにクラクションを鳴らすので笑った。




アレッピーへ向かう途中、リキシャの運転手に「ハウスボートはいくらするんだ?」とインド人らしい質問をされたので「一泊大体10,000Rsだ」と答えると苦笑いされた。彼らにとってこれがどのくらいの金額なのか分からないが、"苦笑い"という少々複雑な感情の表出をするインド人を見たのは後にも先にもこの時だけである。




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洗濯、おしゃべり、釣り。

灌漑といってもザリガニ釣りに興じるようなジャパニーズ用水路のサイズではない。川幅が100mを越えるような巨大な用水路が南北数10kmに渡って何本も入り乱れている。まさに水郷地帯である。
水路の両脇には畦道が延々と続いて、ヤシの木と素朴な平家建てが連なる。その向こうには一段下がって広大なライスファームが広がっている。



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サイズ感がおかしい。
熱帯気候のために、年3回収穫期があるらしい。

インド人はとにかく数が多いし、ご飯をよく食べる。ケーララはとくに米の一大産地というわけではないようだが、それでもこれだけの規模で生産する必要があるのだろう。
ポンニライスなのかカイマライスなのか聞いてみたかったが、私の英語能力では伝わらなかった。




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アレッピーの夕暮れ。

真昼の上の紫外線はすっかり落ち着いて、空も、稲穂も、水路も、滔々と朱く染まった。ここがインドでも、夕陽は当たり前に西の向こうに沈んでいく。舟の上で涼風に吹かれながらそんな様子を眺めた。


気がつくと、あんなにたくさんいたハウスボートはそれぞれの停泊所を目指してどこかに消えていた。畦道を走るバイクも、はしゃぎまわる現地の子供たちもいない。遠くで鳴く鳥の声と、自分の乗っている舟が掻き分けた水面の細波に、仕事を終えた帰路だろうか、小舟のちいさなエンジン音が綯い混じる。


田んぼ、電線、夕陽という日本人なら誰もがうっかり感傷的になってしまう原風景に、ヤシの木とインド人というゴリゴリにエキゾチックな要素が合わさって、私は得も言われぬ感覚を抱いた。
某哲学者の言葉を借りるなら、ノスタルジックとエキゾチック、ふたつの異質なものが出会い交わったこの空間そのものが、紛うことなきカレーであった。インドではもはや概念となったカレーが暑くて湿気った大気の中に遍在しており、この国のカオスに拍車をかけているのだ。
わたしの心の琴線は、偉大なるサラスヴァティー神によってフルスイングで掻き鳴らされた。




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ラヴィ・ヴァルマの1896年の絵画『サラスヴァティー』





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対岸へ渡る女性。

翌朝。慣れた手つきで大きく櫂を漕ぐ女性。絵になる光景だったが、このあと助走のついた舟は勢いよくエンジンをふかして加速していった。




雰囲気の良い写真を見返していると、旅が凄く良いものだったような気がしてくる。思い出補正という依存性の高いドラッグにどっぷり浸かって、今日も幻想のインドに思いを馳せる。


日本で伸う伸うとインドのことを考えている時、インドのことを一番好きでいられる。


一体いつになるのか見当もつかないが、漠然と次のことを考える。私はまだ、一握りのケララと、ほんの一欠片のチェンナイしか知らない。


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またインドに行きたいなあ。



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宿に住みつくオッドアイ猫ちゃん。

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