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コラムVol.3「速度記号の罠③」"Allegrino"のもう1つの考え方

おはようございます。「Hikaruのピアノ大学」学長のHikaruです。前回に引き続き、モーツァルト作曲トルコ行進曲に書かれた"Allegrino"(アレグリーノ)とは何か?という考察です。

Allegrinoは直訳すると小さなAllegroという意味でしたね。前回書いたAllegrinoの意味①では いくつかの出版社が”Allegretto”に書き直したという話をしました。”小さなAllegro”を”ちょっと遅いAllegro”と解釈したわけです。Allegrinoの意味①については以下の記事に書かせていただきました↓

”Allegrino”の意味②

前回紹介した、Allegrino=「少し遅いAllegro」=Allegrettoと捉えるのはとても興味深いなと思いました。でも私はAllegrinoにはもう1つ解釈の仕方ができるのではないか?と考えています。これはあくまで私の一考察、一感想ですので軽く読み流していただいても構いません。

私の考えるAllegrinoは小さな"Allegro"です。「いやいや、最初の話に戻ってるし」「小さなAllegroをそのままの意味じゃわからないからどう解釈するのかって話でしょ?」と突っ込まれそうです。では言い換えましょう。”Allegro”という曲がもともとあって、それの規模の小さいバージョンという意味のAllegrinoです。発想としてはペペロンチーノの語源と同じ考えですね(詳しくは上記に貼り付けたコラムVol.2の記事をご覧ください)。

もう少し抽象的にいうならば”Allegro”を速度ではなくもっと形式的なものとして捉えています。”曲名”と言い換えても差し支えないでしょう。実はアレグロと名付けられた曲はたくさんあります。代表的な例を上げますと、ジューマンの『アレグロ』、ショパンの『演奏会用アレグロ』、サン=サーンスの『アレグロ・アパッショナート』、バルトークの『アレグロ・バルバロ』などです。

「じゃあモーツァルトのAllegrino、つまり小さな”アレグロ”が『トルコ行進曲』だとして、その元になったアレグロって何の曲なの?」私はやはりヴァイオリン協奏曲第5番”トルコ風”なのではないかと考えます。少し楽譜をみてみましょう↓

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ヴァイオリン協奏曲第5番第3楽章の中間部、いわゆる”トルコ風”の始まりの部分です。しっかりAllegroと書かれていますね。ちなみにモーツァルトは19歳の時にこの曲を作っていますので、ピアノのトルコ行進曲の方が8年ほど後になって書かれた曲です。

つまり、モーツァルトの考えはこんな感じです。「ピアノで弾けるトルコ風の曲ができたけど何かいい名前はないかな・・・そうだ!そういえばちょっと前にトルコ風の”Allegro”を作ったな。あの曲がヴァイオリンソロとオーケストラで、そのままトルコの軍楽隊を表現したような大きな作品だったのに対して、これはピアノ一台で引けちゃう規模の小さい作品だから、小さなAllegro、”Allegrino”と名付けよう!」こんなイメージです。

まとめ

要するにAllegrinoの意味①と②の違いは、「小さいAllegro」を「"ちょっと遅い"Allegro」と解釈するのか「"Allegro"という作品の小規模版」と解釈するのかということでした。後者の方は私の調べた限りではどこにも載っていなかったので、私の勝手な解釈と捉えていただいて構いません。ですが、このように自由に発想を膨らますことで、「速度記号って一体何なの?」という問題の本質に一歩ずつ近づいているように思うのです。

「速度記号の罠」というタイトルでコラムを書いていますが、少しトルコ行進曲のAllegrinoに脱線しておりました。次回からはいよいよ「速度記号」の正体についてまとめていきたいと思います。

モーツァルトとベートーヴェンの『トルコ行進曲』から速度記号について考えるという流れは2020年5月に開催されたPTNA主宰、赤松林太郎先生オンラインセミナーVol.1「行進する音楽」の内容を一部参考にさせていただいております。

次回へ続く。

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