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踊ってみた動画鑑賞会(日本のクラブジャズ編)

2020/07/24


 2000年代の中頃に日本のダンス・ミュージック・シーンを熱くした、ハウス・ミュージックの中にジャジーなテイストも採り入れた音楽がある。この頃は僕も自分のルーツである小室哲哉を聴く頻度もかなり下がっていて、この手のジャンルを血眼になって掘り漁っていたものだ。店頭では「クラブジャズ」と銘打った棚に置かれていたので、おそらくこう呼ぶのだろう。媒体によっては「乙女ハウス」なんて書き方もされていたが、このシーンの重要人物・沖野修也にすれば決して心地良くはない響きだろう。僕もこんな呼び方が定着してしまったら、男が聴きづらくなるじゃないかと思ったものだ。
 僕が最初にこのジャンルに出会ったのが、井出靖が監修するコンピレーションCDのシリーズ「TOKYO LUXURY LOUNGE」だ。今回は、このシリーズに登場したアーティストの楽曲による踊ってみた動画を鑑賞していきたい。クラブイベントもなかなか開催しにくい状況ではあるが、せめてお洒落な音楽に乗って踊る映像を見るだけでも、少しは行った気になれやしないだろうか。リモートで乾杯なんてのも最近見かけるようになってきたが、ZIMAでも片手にダンス鑑賞というのもまた悦なものだ。


Jazztronik「SAMURAI」
Arisa Migihidari You Tubeチャンネルに掲載

 「TOKYO LUXURY LOUNGE」シリーズ第一弾に「Feel The Air 2005」が収録されたのがJazztronik。野崎良太による、特定のメンバーを持たない自由なミュージック・プロジェクトだ。当時のダンス・ミュージック・シーンを熱心に追いかけていたリスナーであれば知らない人はほぼいない、一大アンセムだが、あれから時間も経過しているので、初めて聴くという方もボチボチ出てくるのかな。憂いの篭ったピアノの和音の響きが胸に染みる、クールな雰囲気が実に心地良い。僕もライブで何度も体感しているが、常に終盤の重要な局面に配置され、会場の盛り上がりも最も大きくなる楽曲だ。
 動画のパフォーマンスは今回ピックアップする中でも群を抜いていて、一般の踊ってみた動画の延長線上にあるものとは一線を画している。例えば、MVというのは通常は新曲のリリースに合わせて制作されるものだが、稀に楽曲のリリースからかなり時期を空けて制作される場合がある。globeの「DEPARTURES」などもこうした例だが、僕はこの動画も踊ってみた動画というよりは、後に制作されたMVを観るのに近い感覚で接している。You Tubeで「Samurai」を鑑賞するなら、現在のところコレが一番見応えある。
 投稿者のパフォーマンスは目にも止まらぬ素速い動きの連発で、ダンスのできない僕には解説できない。でも、出演者がこの楽曲から溢れんばかりの並々ならぬ感情を感じとっていて、それをフルオープンにして表現しているのは分かる。間奏で振りがスローになる部分に挟み込んである、橋の上での動きが気に入っている。ここに至るまでにもっと派手な動きもたくさんあるが、なぜかここで沸々と気分がアガるんだよね。

 Jazztronikと言えば「Samurai」の他にもチェックしておきたいのが、TRF「Going 2 Dance'06」だ。シングル「Silence Whispers」のカップリングに収録された、野崎良太によるリミックス。間奏明けのブレイクからの「Oh,Everybody Going 2 Dance」の後にくる、一際大きいハンド・クラップが聴きどころ。ここに一番命かけてるようにも感じる。ダンス・ミュージックというジャンル自体で頻繁に用いられる音色で、小室哲哉も引退間際の2015年頃にかなり多用していた。ここまで気持ち良いハンド・クラップはなかなかない。

MONDO GROSSO「Life feat.bird」
HIMEKA TANABE You Tubeチャンネルに掲載

 2009年発売のコンピレーションCD「TOKYO LUXURY LOUNGE Tea Time」では、「MG4BB」が収録されたMondo Grosso。調べてみたら元々はKyoto Jazz Massiveからの派生バンドとして始まり、現在は大沢伸一のソロ・プロジェクトとなっているようだ。僕はバンド時代のことは知らない。でも元メンバー・吉澤はじめの単独ライブや、Sleep Walkerのライブには行ったことがある。あれに大沢伸一が加わるのかと思うと想像するだけでも鳥肌モノのワクワクだ。当時を知るファンの方が心底羨ましい。
 今回ピックアップする中では、クラブ・シーンの垣根を越えて、最も広く一般のリスナー層にまで浸透したナンバー「Life feat.bird」を聴いてみよう。Bメロのメロディーラインなんかは、小室哲哉の音楽ばかり聴いてきた僕には、極端に音程がアップダウンしながら、まったく読めない方向に動いていくんだけど、これが気持ち良い。映像で盛り上げる必要がないぐらい、音声だけで充分過ぎる程完結している楽曲だと思っていたが、いざ実際に振りがついてみると、やっぱ一段と盛り上がる。良い楽曲には良いパフォーマンスが吸い寄せられていくし、化学反応のようにひとつの閃きが他の閃きを呼び起こす。だから音楽は面白い。
 既存の振り付けが存在しない楽曲の場合、どうやって着想を得ているのかは鑑賞する立場としても興味深いところだ。振りのコピーができるだけでも僕は充分凄いと思うが、ゼロから振りを産み出せるんだから、またワンランク上の表現だよね。

 大沢伸一と言えば「Life feat.bird」の他にもチェックしておきたいのが、浜崎あゆみ「You & Me SHINICHI OSAWA Remix」だ。2012年発売のミニ・アルバム「Love」に収録。

COLDFEET「Bodypop」
T DANCEチャンネル You Tubeチャンネルに掲載

 井出靖のコンピレーションCD「TOKYO LUXURY LOUNGE」シリーズ第一弾に「The Interlude Song」が収録された後も、続編シリーズにおいて高い頻度で登場するのがCOLDFEET。彼らの名前は知らなくとも、中島美嘉が好きな方なら、アルバムの歌詞カードのクレジットを追っていけば、COLDFEETもしくはボーカリストのLori Fineの名前を見つけることができるだろう。他にm-floの作品にも顔を出している。
 今回は彼らの楽曲の中でもイチオシの一曲「Bodypop」を聴いてみたい。2005年発売の同名アルバムに収録。リリース当時には、先のJazztronik・野崎良太のレギュラーFM番組「ジャジン・ザ・ナイト」にゲスト出演し、番組内でこの楽曲もオン・エアされた。また、同アルバムには先のMONDO GROSSO・大沢伸一のアレンジによる「Uptight」も収録。どちらのアーティストのファンにとっても目が離せない存在だ。
 「Bodypop」はリズム隊の各楽器の音色が、音の立ち上がりから消え際まで実にキメ細かくコントロールされていて、心地良くビートを刻んでくれる。これに乗っかるカッティング・ギターがまた爽快!2コーラス目がおわってからの間奏は激アツだ。踊ってみた動画を鑑賞して楽曲が気に入ったら、ここには収録されていないギターソロも、フルコーラス版を入手してぜひ聴いていただきたい。サビに移行する直前に一瞬音がなくなるブレイクからのストロークもめっちゃカッコ良いね。これは楽曲を知った上でダンスフロアでかかったら、このストロークのところで体を回さずにはいられないだろう。
 ここまででも充分過ぎる程ブチ上がるナンバーなのだが、この曲の肝はむしろアウトロにある。最後のサビを歌い上げた後に、ボーカルが楽曲中で一番高い音程に飛び上がるのだが、この持って行き方がまたエゲつない。
その後の「イッ、エイエイYeah〜」というパートも、フレーズの切り取り方が目の覚めるようなエッジの鋭さだ。これはどうやってもアゲアゲになるに決まってる。
 まさかこの曲の踊ってみた動画が見つかるとは、いやはや驚いた。2曲収録してあるうちの2曲目で、1:30からが開始点。ショーケースの制限時間内に収まるように、うまく編集してあるが、1曲目をカットしてでももうちょい長く踊って欲しいと思うぐらい、良い選曲だし、盛り上がるパフォーマンスだった。

 COLDFEETの仕事で他にも要注目なのは、川畑要「I'm Proud」。華原朋美のヒット曲のカバーで、アレンジを担当している。男性でも華原朋美を歌ってみたいという方は、どんなに華原朋美本人の音源を聴き込んでみても、気持ちよく聴かせるには限界があると思うが、この川畑要のバージョンを聴けば、何か活路が見出せるのではないか。


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